大好きなものはありますか?











譲れないものはありますか?











大切なものはありますか?



























































大切なもの


























































誰もいない夜の公園。私と兵助は、ベンチでまったり語り合っていた。

「それでさ、その子が・・・」

「ふーん」

「・・・・。ちょっと兵助。ちゃんと聞いてる?」

「あ、ボール」

そう言って向かった先は、誰かが忘れていったであろうサッカーボール。

土まみれの汚いボールも、兵助が持てばなぜか輝いて見えた。

片足でボールを蹴り上げると、そのままリフティングを始める。

何回も何回も、一度も落とすことなく続くリフティング。

そういえば、初めて会ったときも兵助は部活でリフティングしてたような気がする。

懐かしいなぁ、なんて思い出にふけってみたり。

「で、なんの話だっけ?」

「もういいよ。別に大したことじゃないし」

「あっそ」

本当にマイペースというか、なんというか。我が道を行ってるよね、兵助は。

ボーっとリフティングしている兵助を見る。

生き生きしていて、とても楽しそうな顔。私といるときだって、こんな顔見せたことないのに。

ちょっとジェラシー。サッカーに。

きっと兵助は、私とサッカーどっちが好き?って聞いたら迷うことなくサッカーって言うに違いない。

これだけは自信があった。

だけど、万が一にも兵助がサッカーより私を選んでくれたなら?

私は心から喜べるかな。

「ねぇ、兵助」

「なに?」

まだやってるリフティング。足に、肩に、胸に、どんどん移っていくボール。

「私とサッカー、どっちが好き?」

不意に、兵助がサッカーボールを落とした。

今まで公園に響いていたボールの音もなくなって、急に静まり返る。

ミス?いや、でも兵助はボールをとりにいかない。

怒らせちゃったかな・・・。

黙ったまま、転がったボールを見ている兵助。ねぇ、何か言ってよ。

お願いだから。この沈黙を破ってください。

「あのなぁ、

「なに?」

転がったボールを持って、急に私へ投げてよこす。

強くも弱くもない、普通のパス。びっくりして、私はボールを持ったままの状態で止まった。

兵助は私に向き合って、しっかり私の目を見つめて、そして言った。

「俺にとって、サッカー以上に好きなもんなんてこの世にないんだよ」

ほら、やっぱり。思ったとおりだ。

だけどなんだろう、とっても悲しい。違う、寂しいんだ。

わかりきってたことだけど、やっぱり直接聞かされると胸にぐっとくるものがある。

きっと私は期待してた。兵助が私の方が好きって言ってくれることを。

そんなわけないのに、くだらない期待をかけてしまっていた。知らないうちに。

あ、なんか泣きそうかも・・・。

ダメだよ!ここで泣いたら100%兵助が悪者みたいになっちゃう。

こらえろ、頑張れ私。

「へ、変なこと聞いてごめん」

「ん」

小さく頷いて、兵助は両手を広げる。私はボールを投げた。

彼の手にすっぽり収まるボールを見たまま、私は少し俯く。

少しして、またボールが地に着く音が聞こえた。だけど、それは長く続かない。

おかしいな。今度は壁打ちでもするつもり?

ふと、顔を上げれば、まだ両手を広げてこっちを見ている兵助。

「なにやってんの?」

「ほら、早く」

早くって何が?もう投げるもの残ってないけど・・・。

戸惑いながらキョロキョロと自分の周りを見回していると、ハァーっていう盛大なため息が聞こえてきた。

再び兵助のほうを見る。だけど、そこに兵助の姿はなくて。

変わりに私の身体が温かくなった。

「へ、兵助!?」

抱きしめられている。兵助が私の身体を包み込んで。

少し寒いこの公園で、私だけ温度が上がっていった。

、あのな」

「なに?」

「俺はサッカー以上に好きなもんはない」

「うん・・・」

「だけど・・・・」

私を腕から放して、肩に手を置く。兵助の整った顔がすぐ近くに見えて、思わず赤くなってしまった。

兵助はゆっくりと、確実に、優しく。私の耳元でこう囁いた。











「サッカーより大切なものなら、ここにある」











眼にたまっていた涙が、一気に溢れ出した。

嬉しい、こんなにも大切に思ってくれてたなんて思いもしなかったから。

きっと私は、サッカーより好きといわれても喜ばなかった。

だって、サッカーしてる兵助を好きになったんだもん。サッカーしてるときの、楽しそうな顔が好きだから。

けど、兵助は私を大切な人と言ってくれた。

どんな褒め言葉よりも、どんな愛の言葉よりも、嬉しかった。

「兵助?」

「ん?」

「私も、兵助が大切だからね?」

「わかってるよ」

どちらからともなくしたキスは、とても暖かくて、優しいものだった。

兵助はいつもマイペースで、自分のことを話さない。

だけど、兵助は兵助なりのやり方で、しっかり私を愛してくれた。

それだけで、充分嬉しい。











二人の姿はいつまでも











月明かりに照らされて――




鴬咲林檎さまのバースディ記念ドリームです。鴬咲さま、おめでとうございます!!

花月