いい人に見られたかった
悪口を言われたくなかった
人の顔色を窺っていた
だからきっと
ぽっかり空いた
小さく、大きな
隙間
たずね人
外の景色をぼんやり眺めながら私は一人泣いていた。
涙は流していない。だけど心は泣いていた。ずっとずっと、一人で。たった一人で声もあげずに。
誰も気付いてくれないと思ってた。そして、誰もが気付いていなかった。
顔はいつも笑っていたから。だからこうして、誰もいない時に泣くの。
気付いて欲しくて、でも気付いて欲しくなくて。
構って欲しくて、でもほっといてほしくて。
抱きしめて欲しくて、でも突き放してほしくて。
頭の中はごちゃごちゃしてて、心の中は常にどしゃぶり。
いつからだっただろうか。人に会うのが怖くなった。そして、電話に出るのも怖くなった。暗いくらい闇の中で一人彷徨い、立ち止まる。
気が付けば私は屋上にいた。ゆっくりと下を見る。
何も不満などなかった。全てが満ち足りていた。ただ、ほんの少し足りなかったのは・・・。
「なんだろう」
誰に言うわけでもなく、私は呟く。どこで間違ったのか、どこが間違っていたのか、誰が悪いのか、何が悪いのか。
どうして?誰か、教えてよ。
もし神様というものがあるのなら、真っ先に聞くこと。でもそれは口にできないようなこと。
死ぬ勇気なんてこれっぽっちもなかった。そんな度胸あるくらいなら、なんだってできると知っていたし、死ぬことはとても怖かった。
でも、本人にはその気がなくても、他人にはそう見えてしまったらしい。
その男――三上亮の目には。
「なにやってんだよ、」
低い声に諭されて、私は静かに後ろを向く。見たことある人だった。同じ学年だったと思う。
ううん、これは嘘。この人を私は知っている。
だって、みんな言ってたもん。三上亮。サッカー部のエース。女子にすごく人気のある人。
私だって、本当は・・・。
「別に、なにも」
他人の前で真顔でいることなんて、初めてかもしれない。いつもは真顔ですら作っていた。
少しでもいい人に見られるように、ずっと努力してきて。
三上はまだ真剣な顔つきで、私を見つめてる。私もそれに対抗して見つめ返す。
「なにもってお前・・・自殺か?」
「だったらどうする?」
「止めとけ、飛び降りは。後の処理がめんどくせぇから」
「三上がやるわけじゃないじゃん」
「そうだけど、後味悪ぃだろ。じゃなきゃ他のとこで死ね」
「俺様な意見だね」
「そりゃどーも」
普通止めるだろ。この状況だと。っていうか、死ぬ気はないんだけどさ。
彼が勘違いしてるんなら、それもまたいいかなって。なんならお望みどおり死んで見ましょうか?
それもいいかも。でも痛いからなぁ。どうせ死ぬならクスリで死にたい。
「それと、もうひとつ」
「何?」
「死ぬ度胸があるんなら、生きるほうにそれ回せ」
なんとなく、グサッときた。頭の中をすっと通り過ぎたような感じの言葉。
わかってたよ。そんなこと。わかりきってた。だから死ななかったんだよ。
だけど、改めて他人に言われると堪える。とってもグサッとくる言葉。
死ぬ度胸なんてない。だけど、もしそれがあるんなら、とっくに回してる。
もしかしたら、回し方がわからないのかもしれないよ。
「三上」
「ん?」
「私に、生きて欲しい?」
「んなもん知るか。だけど・・・」
「なに?」
「死んで欲しくない」
素直じゃないなぁ。そこがまたいいんだけど。なんて思っちゃう私は重症ですか?
なら生きてみますよ。三上のために。
「じゃあ、生きる」
「えらい簡単だな」
「元から死ぬ気なんてなかったし」
「そうなのか!?」
「勘違いー」
「うるせぇ」
頭をコン、と叩かれた。けど、その拳は優しかった。
もしあのとき、三上が死んでもいいって言ったなら私はきっと死んでいた。
だから三上は命の恩人。そう思ってもいいよね。
「決まった」
「何が」
「神様に聞くこと」
「んだよ、そりゃ」
わけわかんねぇ、と三上は肩を揺らして笑った。その横顔を見ながら、私は一人神様に尋ねる。
ねぇ、神様。私は・・・。
「 」
ちゃんと届いた?通じたかしら?
私はこれからも生きていく。三上の隣で、静かに、ゆったり、ときに激しく。
だから見ていて。空の上から。
今回のコンセプトは意味不明です。不思議な感じがしません?(しねぇよ
花月
