美術はそんなに好きじゃない
絵もそんな上手いわけじゃない
だけど、今回の授業は
今までで一番
好きなものだった
テーマ
「何描いてんだ?」
「か、一馬!!」
放課後の美術室。今週中に出さなきゃならない油絵を仕上げているところに、委員会で遅くなった彼氏の一馬が来た。
なんでこういうときに来るわけ!?教室で待ってるように言ったのに。
慌ててキャンバスを隠しても、もう遅い。それ以前に、こんな大きなキャンバス、すっぽり隠せるわけもなく。
でも、精一杯身体全体を使って隠した。よし、端っこの方しか見えてない!
「きょ、教室で待っててって言ったでしょ!?」
「だっていつまでたっても来ねぇんだもん。そしたらの友達が美術室にいるって教えてくれてさ」
誰だぁ〜余計なこと言ったの!でもまぁ、ありがとうございます。たぶんあたりだと思う。今度クレープ奢ってあげよう。
ってそうじゃない!一馬に絵、見られちゃったよ!恥ずかしくてずっと隠してたのに!
「なぁ、それもう完成間近だろ?見せて」
「ヤダ」
「じゃあテーマだけ」
「一馬のクラスも同じものやってるじゃん!」
「俺んとこは先生が違うから油絵じゃなくて鉛筆画なんだよ。ほら早く」
「テ、テーマ・・・?」
「テーマ」
うーん、これ言ったらバレそうだし。やっぱり言えないよね。
最初に先生からテーマ言われた時、真っ先に思いついた情景。
それをそのまま絵にしてみた。ほかのクラスメイトが散々悩んでる中、私の頭の中では既に完成作品が出来上がっていた。
描いているとき、自然と顔がニヤけてくる。それはに指摘されたこと。
だって、しょうがないじゃない。
私の描いてるのは・・・――
「早く教えろって」
「内緒」
「なんで!」
「だって・・・恥ずかしいんだもん」
「恥ずかしがるようなテーマなのか?」
「一馬、それ天然で言ってるんだと思うけど、聞く人が聞けばエロ親父発言だよ」
「・・・・・・・・・?どういう意味?」
「わかんないならいいや」
「じゃあ絵だけ見せて!そしたらテーマ当てるから!」
えっ!?絵見せちゃったら何描いてるかわかっちゃうじゃん!
どうしよう。でも一馬の頼みだし、どうせいつかは廊下に飾られるしね。クラス全員のやつ。
本当はもうちょっとあとで見てほしかったんだけどな。
しょうがないか。
「笑わない?」
「笑わない」
少し小さなため息をついて、私はそっとキャンバスから身体をずらした。
そこに広がるのは、私の描いた絵。
照りつける太陽、真っ白なゴールポスト。そして今まさにボールを蹴ろうとしているのは・・・。
「お、俺!?」
「そう。君」
真田一馬。東京選抜FW。背番号20の青いユニフォームを着て、懸命にボールを追いかける。
それが私の大好きな彼氏。愛しくてしょうがない、一馬の姿。
一馬は隅々まで私の描いた絵を見続けていた。
「って、意外に絵上手いんだな」
「意外は余計。で、テーマわかった?」
「うーん・・・わかんねぇ」
「そ。じゃあ廊下に張り出されるまでドキドキしながら待ってなさいな」
「じゃあ楽しみにしとくわ」
「うん。さぁてー今日はここまでにして、帰ろっか。一馬」
「おう」
手早く用具を片して(一馬も手伝ってくれた)仲良く並んでかえる、夏の日。
夕日に向かって歩く私たちは、どちらも赤く染まっていた。
「テーマわかったら、感想頂戴ね」
「あぁ、わかった。なんだろうなぁー楽しみだ」
期待でいっぱいの顔をして、一馬は私の隣を歩く。
この帰り道がいつまでも続けばいいのに。
愛しい一馬と、ずっとずっと歩いていければ・・・。
翌日張り出された絵。その上に書かれたテーマ。
『大好きな風景』