腐った大人
腐った政府
そんな奴らのゲームに
俺はどう立ち向かえばいい?
天国の雫
どんなときも強がって、どんなときも笑ってた。泣いたところなんて見たことがなかった。
だからきっと今もどこかで強がってるんだろうな。自分と戦ってるんだろう。
仲間を殺せるほど割り切れる奴じゃないし、自殺できるほど強い奴でもないから。
どこかで一人、たった一人でいるんだと思う。確証はないけど、確信はあった。
今までの放送で、幸いにもの名前は呼ばれてない。この腐った大人が考え出したゲームの中で生きてるのなら、まだ俺と会える可能性が潰えたわけじゃない。
必ず見つけてやる。絶対に探し出してやるから。
森を抜けて、北の方へ進んだところにある崖まで出てきた。途中誰にも会わなかったことはありがたい。
ゲームが始まる前、俺とは一緒にいた。そこでが小さな声で言っていた言葉。
「北で会おう」
俺の目を見て、確かめるようにそう呟いていた。身体は震えていたくせに、口元には笑みを浮かばせて。
誰よりも強がりで、誰よりも寂しがりや。そんなを放っておけるわけがない。
ましてやこんな殺戮ゲームの中、苦しんでいることは目に見えている。
こう見えても俺は紳士なんでね、好きな女を一人にさせるほど甲斐性なしじゃない。
断崖絶壁。遠くを見渡しても、海が広がるばかり。空はこのゲームに似合わない快晴だった。
遥か彼方で海と空が混ざり合う。そんな風景を眺めながら、俺は一人崖に立ち尽くしていた。
「亮!?」
聞きなれた声に俺は勢いよく振り返る。そこにいたのは俺がずっと探し続けていた人、の姿があった。
「!」
「亮!何してるの!?」
「何してるって・・・」
ただ崖から遠くを眺めていただけだが、は勘違いしたらしい。自殺?まぁそれも悪くねぇかもな。
俺はに近づき、は俺に近づく。そして目の前にいる愛しい人を力強く抱きしめた。
壊れてしまいそうなほど愛しい。その人が今は俺の腕の中にいる。こんな状況でも嬉しいことには変わりなかった。
のすすり泣く声が聞こえる。ごめんな、辛かったよな。もう一人にさせねぇから。
今までずっと耐えてきたんだろう。その様子が窺えた。幸いはどこにも怪我を負っていない。あったとしてもかすり傷だけだった。
「会えてよかった・・・」
「私も、ずっと・・探してた・・!!!」
小さな腕が俺に抱きついてくる。愛しい、愛しい。こんなにも愛しい人。生きていて本当に良かった。
神様なんて信じてないけど、今ならその存在を信じられる。を守ってくれてありがとう。これからは俺が守るから。
一通り泣いたあとで、は俺に笑顔を見せた。その顔は俺の大好きな顔。いつもと変わらない笑顔に、俺は一瞬ゲームの存在を忘れかけた。
「やっぱり、ここにいたんだね」
「まぁな。も来ると思ったから」
「たくさん、死んじゃったね・・・」
「あぁ・・・」
今日はもう3日目。政府の思い通りに、乗った奴もいる。そいつらによって一体何人の友達が死んだのだろう。
無論俺は誰も殺していない。最初はを守るためならそれも仕方がないことと思っていた。
けど、きっとはそんなことをしても喜ばないだろうから。人を殺した俺を見て、きっとは泣くだろうから。
の心を傷つけたくはなかった。
「亮は・・殺したの?」
「殺してねぇよ。危なかったけどな」
「そっか・・・よかった」
ほらな。また笑った。その笑顔が嬉しい。安心したように笑うの顔が、俺の心を救ってくれた。
大好きで、大好きで、愛しくてたまらない。いつまでも俺の腕の中に抱きしめておきたかった。
「私もね、まだ殺してないの。たぶんこれからも・・・」
「わかってる。にそんなことさせねぇよ」
人の命を背負ってまで生きていけるほど、は強くない。でも決して弱くもない奴だから、俺のために引き金を引くこともあるだろう。
俺が傍についていて、そんなことさせるわけにはいかない。
汚れるのは、俺一人で充分だ。
「亮の武器、なんだったの?」
「俺か?俺はこれ」
「ぷっ・・・!!」
俺の手の中にある武器・・・ピコピコハンマーを見てが突然笑い出す。
いや、しょうがねぇだろ。我ながら合ってない武器だとは思ってるよ。完璧なはずれ。でも、人殺しの道具を持つよりかは幾分マシか。
「は?」
「私は・・・・毒薬」
支給されたバックの中から取り出した小さなビン。外側にはドクロのマークが記されていた。こんなゲームに投入されるぐらいだから、きっと猛毒だろう。
その毒薬を見ながら、俺は一つ考えた。
もし、このゲームに参加しない方法があるならただ一つ。この方法しか思いつかなかった。
「なぁ、」
「なに?」
「俺、今すっげー恐ろしいこと考えてて・・」
「うん、たぶん私も一緒だよ」
「え・・・・?」
意外な答えだった。もしかして、もこのゲームを棄権しようと思ってるのか?
「誰も殺したくないし、誰かが死ぬのも見たくないの。だから・・・もう終わりにしようと思って」
「・・」
「亮の傍なら、きっと天国にもいけるだろうしね!」
明るく。底なしに明るくは言った。でも、その眼は涙にぬれていた。
どうしてこうなったんだろう。俺達は何の罪を犯してこんな罰を受けているんだろう。
まだ中3の少女をこんなにも苦しめたあげく、死なせるなんてな。やっぱり神様、お前は最低だよ。
「俺も、の傍で死ねるなら本望だ」
「亮・・・」
俺はバックから水を取り出してに持たせた。その中に半分ずつ毒を入れて、よく振る。
見る見るうちに毒は水に溶け、色を変えていった。
「まずそうだな」
「そうだね」
二人で笑いあった。それはまるで普通の日常のようで、心が軽くなる。
「じゃあ、天国で会おう。亮」
「間違えて地獄になんか行くなよ?」
コン、とペットボトルで乾杯をして俺達は一気にそれを飲み干す。
遠くなる意識の中で「ありがとう」というの声を聞いた気がした。
このゲームから逃げる方法、これしか思い浮かばなかった。
でも、と一緒にいられるのならどこだって構わない。
それがたとえ、地獄であろうとも・・・・
ここよりきっとマシだろう?
わりと爽やか(?)系に仕上げてみました。たぶんこのゲームで自殺する人っていうのは、一番強い人なんだと思います。
花月
