この狭すぎる鳥かごの中では
私の声は届かない
誰かお願い
ここから出して・・・
ト リ カ ゴ
夜の繁華街。明日は珍しくオフだから、今日はパァーっと遊んでやろうと思ったのはいいけど、生憎今日の街は不作。
声かけても、大抵彼氏持ちかあっさり断られる始末。ったく、どいつもこいつもノリが悪ぃな。
しょうがねぇ、後一人引っ掛けてダメだったら今日はもう帰るか。明日になりゃ、ちったぁマシになるだろ。
さぁて、どいつにしようか。
街を見渡せば、やっぱりカップルが多い。その中で、ただ一人歩いている奴がいた。
淡いピンク色のワンピースからのぞく足がとても綺麗で、彼女とすれ違えば男のみならず女ですら振り返っている。
そんな奴が俺の目にとまらないわけがない。今日一番の上玉だな。
「お嬢さん♪今一人?」
声をかけたら女はピタっと足を止めた。そしてゆっくり俺を振り返る。その顔を見たとき、俺は言葉を失った。
「!?」
それは間違いなく、。俺の学校、しかも同じクラスの奴だった。
クラスでは成績優秀、スポーツ万能の優等生。でも容姿はダサいメガネに三つ編なんていう、今となっては国宝級なダサさだから、当然言い寄ってくる男もいなかった。
俺もあんまり興味がなかったし。でも、この顔は間違いなくだ。こいつメガネとって髪型変えるだけでここまで変貌すんのか。すげぇな。
「優等生がなんでこんなとこにいんだ?」
「・・・・・・誰?」
誰って、おい。仮にも同じクラスだぜ?知らないってことはないだろ。あ、もしかして制服着てないからわかんねぇとか。いや、それはないだろうな。
「御柳芭唐だよ。同じクラスの」
「知らない」
こいつだよな?まさか人違い?
「お前だろ?」
「そうだけど、なんで知ってんの?」
「だから、お前と同じクラスなんだって」
あぁもう疲れるな。こいつこんな性格してたか?それともこれが地?どっちにしてもずいぶん性質悪ぃ。
っとに今日はいいことねぇぜ。
「それで。その御柳クンが何の用?もしかして、ナンパ?」
「そうだよ。でも優等生のサンはもう帰るんだろ」
「まだ帰らないわよ。これから暇だし、付き合ってあげよっか?」
マジかよ。なんか今日の変だ。でもまぁ、ちょうどいいや。最後の最後に大物が手に入ったからな。ラッキーv
「ハハッ!それじゃあ行きますか。ちゃんv」
そうして俺らは近くの某有名ファーストフード店に入っていった。
「にしても驚いたな。学校でも有名な優等生が、こんな時間に繁華街をうろついてるなんてよ」
「別に優等生なわけじゃないわよ。みんなが勝手にそう思ってただけでしょ」
「何してたんだ?ここが危ねぇことくらい知ってんだろ」
「小遣い稼ぎ」
「・・・まさか、売り?」
「ご名答」
しれっと言い切るはそのままシェイクに口をつけた。こいつはホントに俺のイメージを崩すな。売りまでやってるとは。
人の人生にどうこう言うわけじゃないけど、さすがに売りはないだろ。
「そりゃまた過激な小遣い稼ぎだな。担任が聞いたら卒倒するぜ」
「関係ないでしょ。学校で真面目にやってるし、誰にも迷惑かけてないわ」
「確かにそうだな」
人は見かけによらないとはよく言ったもんだ。以上にこの言葉が似合う奴なんていやしねぇ。
学校での姿は偽り。これが本来のってことか。なんとなく、興味がわいた。
「御柳クンは優等生じゃないの?」
「・・・・・お前本当に俺のこと知らないんだな」
「さっきから言ってるじゃない。ちなみに、御柳クンだけじゃなくて他のクラスメイトのことも知らないわよ」
「興味ナシって?」
「そういうこと」
うわぁ、複雑だな。ここまで人に興味のない人間も珍しいだろ。まぁ、そのくらいの神経じゃなきゃ売りなんてできねぇけどな。
「俺は優等生じゃねぇよ。授業はいっつもサボってるし」
「そう」
一瞬。ほんの一瞬だったけど、の瞳が揺れた。それが何を意味するのか俺には到底わからなかったけど、妙に惹かれる。
を俺のものにしたいと思った。
「ところで御柳クン。今いくら持ってる?」
「あ?なんで」
「私を買う気はない?」
冗談じゃない、こいつはマジだ。知らないとはいえ、仮にもクラスメイトと売春するか?どうかしてる。
の真剣な目が俺を捕らえた。人のこと言えた義理はねぇが、お世辞にも綺麗な目とはいえない。
まるでよくできた人形のように、生気が宿っていなかった。
「いいぜ。ただし・・・」
どこか惹かれる。この孤独な少女に。
「俺と付き合ってくれたらな」
金なんかで買えるほど、春っていうのは安くねぇんだよ。
は大きな目をさらに見開いて、驚いた。そりゃそうだろ。にとっちゃ、今日はじめて会った奴だ。いきなり告られてもどうしていいかわかんねぇだろうな。
でも、俺は本気だ。理由なんて、後から見つけりゃいい。今はただ、を俺だけのものにしたい。
「あなたバカ?」
「否定はしねぇよ」
まんざらじゃなさそうだな。ま、別に焦ることはないだろ。気長に行こうか。
「それで、お返事は?」
何だってやるぜ。ここまで俺を本気にさせた奴を簡単に手放すわけにはいかない。
「・・・・・・・・いいわ」
カーテンの隙間からこぼれる光を顔に浴びて、俺は目をさました。
隣には静かな寝息を立てるがいる。その寝顔はとても美しい。売りなんてやってる奴には到底見えなかった。
「こうして見れば、ただの女なんだけどな・・・」
長い黒髪をそっと撫でれば、くすぐったいのか少し身をよじる。自然と笑みがこぼれた。
何で惹かれたのか、未だにわからない。だけど今こうしてといられることが、たまらなく幸せだった。
「ん・・・誰?」
「まぁた誰かよ。一日経ったらもう忘れるのか?」
「御柳クン、か」
「芭唐でいいって」
はベッドから出てさっさと服を着る。その後、俺の持っていた水を取り上げて一気に飲み干した。
「一つ、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「どうしてあんな冗談言ったの?」
「冗談?」
「付き合ってくれなんて、性質の悪すぎる冗談だわ」
そう思ってると思った。ったく、人を信じないにもほどがあるぜ。せっかくこの俺が直々に告白してやったってのに。
「冗談なんかじゃないぜ。あれはマジだ」
「思った以上のバカだったわね」
「なんで?」
「私と付き合うなんてどうかしてる。趣味悪すぎよ」
「人の趣味にどうこう言える義理か?お前だって、身体売ってまで小遣い稼ぎするなんてずいぶんな趣味だと思うけどな」
は俺を睨んで、ふっと目を逸らした。もしかして、ワケあり?
「・・・・・なんかあったか?」
「別に」
そっけなく言い放つと、は帰り支度を始める。そりゃないだろ、ここまでしといて。
惚れた女がワケありで売りなんてやってるんだ。助けてやるのが男ってもんだろ。
俺だって、そのくらいの甲斐性は持ってるよ。
「息が・・・つまりそうなの」
「あ?」
息が詰まりそう?どういう意味だ。
俺はそのまま、の話を聞いた。
「学校は私じゃなく、私の成績しかみてない。元から人に興味なんてなかったけど、努力しても報われないっていうのは、思ってる以上に辛いことだったの」
「だから身体売ってたのか?」
静かに頷いたその瞳には、綺麗な涙が浮かんでいた。
「私を抱く人はみんな、私に酔いしれてた。たとえ一晩限りだったとしても、それが私の救いだった」
真っ直ぐ俺を見たはまた元の目に戻っている。生気の宿らない、人形のような目に。
金が欲しかったわけじゃなかったのか・・・。
「あなたは自由よね。うらやましい」
皮肉のようにそういって笑うを、俺は怒れなかった。
あまりにも脆い。触れれば壊れてしまいそうなほど。
「寂しいのか?」
俺は優しく抱きしめた。何も言わないってことは、本当のことだという証拠だ。
「別にいいんじゃねぇの?本当に自分をさらけ出したって」
「あんたに何がわかるのよ・・・!」
「何もわかんねぇよ。ただ一つ分かるのは、もうお前は一人じゃないってことだ」
「俺がそばにいるから」
は泣いた。小さな子供のように。
今までの孤独とか、寂しさとか、全部俺が引き受けてやる。
そのくらい、俺はこいつを愛してるんだ。
この清らかな涙が
俺の前で笑顔に変わるまで――
御柳夢?偽御柳炸裂ですね。っていうかまとまってねぇ・・・;
本当に駄文ですね。精進いたします。ハイ。
花月
