秋の風に誘われて
行き着いた場所は
とても素敵な
恋の場所
月の光
日もだんだん短くなってきた今日この頃。俺は秋の夜長をサッカー雑誌と共に過ごしていた。
外ではこおろぎが美しい声を響かせている。
なんとも風流だな、なんて思いながら最近のサッカー事情を読み取っていると、窓に何かが当たる音が聞こえた。
(なんだ?ゴミでも当たったのか?)
別に気にもせず雑誌を読み続けていると、もう一度、今度はさっきより少し大きな音がする。
やはり風の仕業だと、またページをめくった。へぇ。中田は移籍か。よく動くな、この人も。
注目すべき記事ばかりで、だんだんのめりこんでいくと、大きな音と共に窓ガラスが盛大に割れた。
「え!?な、なんなんだよ!」
たまりかねた俺も砕け散ったガラスに気をつけながら窓の外をのぞく。するとそこには、顔面蒼白な俺の彼女、の姿があった。
「・・・?」
「か、一馬!ゴメン!割る気はなかったの!ホントにゴメン・・・・!」
ものすごくあせりながら何度も謝る。少しため息をついて、俺はそこで待つように伝えた。
夜にもなるとだいぶ冷え込んでくる。軽く羽織るものをひっつかんで、足早に外へ出た。
玄関の前には冷や汗をかきながら立っている愛しの彼女。その手には紙袋が握られていた。
「あの窓ガラスは・・・俺に対しての嫌がらせか?」
「違うよ!何回か窓に石当てたんだけど、一馬気付いてなかったみたいだから、ちょっと大きめの石投げたら力が強すぎたみたいで・・・」
「別に呼ぶなら普通に玄関から入ってくればいいだろ」
「一回やってみたかったんだもん。こういうの」
そんな理由で毎回窓ガラス割られたらたまったもんじゃねぇよ;まぁ、のこういう意味不明な行動(失礼)は今に始まったことじゃないから、もう慣れたけどな。
「で、どうしたんだ?こんな時間に」
「ちょっと、ついてきて欲しいところがあって。いい?」
上目遣いで聞かれたらYesしか言えないだろ!ホント、わかってんだかわかってないんだか。
自分の顔が赤くなるのを知りつつ、何も言わずにうなずくとはにっこり笑って俺の手を引いた。
ずいぶん長い時間待たせてしまったんだろう、の手は少し冷たい。その手を温めるように俺はしっかり握り返した。
なんだかとても嬉しそうに歩くの横顔をみて、自然と頬が緩む。
秋の風が二人の間を優しく吹いていた。
「、どこ連れてく気だよ」
「ふっふ〜ん♪それはついてからのお楽しみ☆」
今にもスキップしだしそうな軽い足取り。そういえば、さっきから持ってるこの紙袋も気になる。
「その袋、何入ってんだ?」
「それも、後のお楽しみ♪大丈夫!一馬も絶対気に入るから!」
いったい何なんだ?が俺を連れ出すのは今に始まったことじゃないけど、ここまで秘密にされるとだんだん不安になっていく。どこに連れていかれるんだろ。
街の方へ進んでいたかと思えば、今度は急に人気のない場所へ入っていく。
それから左へ曲がったり右へ曲がったりして、まるで誰かをまいているかのように歩いていった。
30分ほど歩いたとき、一軒の空き家が目の前に聳え立つ。だいぶ古い建物で、強い風が吹いたら倒れてしまいそうなほどくたびれていた。
「なんだ?ここ」
「いいからいいから♪ほら、こっちだよ」
そう言って、また俺の手を引いていく。所々穴の開いた囲いの一つに、人一人がやっと通れるほどの穴が開いていた。
は四つんばいになると、その穴へ何の戸惑いもなく入っていく。
俺は戸惑ったが、の急かす声に押され、とうとう中へ入っていった。
中に入って空き家を近くでみると、やっぱりすごく古びれていた。絶対危険家屋に指定されてるだろ、ここ。こんなとこになんの用があるんだ?
「かーずまー!!」
ボーっと空き家を見ていたら、いつの間にかが遠くから手を振って呼んでいる。俺は急いでの元へ駆けていった。
は空き家の裏へ回って、少し進んだところで止まる。俺もそれに習って止まると、が急にこっちを振り返った。
「一馬、準備はいい?」
「なんのだよ」
「心の準備だよ。ちゃんと出来てる?」
言ってる意味が良く分からなかったが、とりあえずうなずく。それを見てまた笑ったは、裏口らしき木の引き戸を開け放った。
「すげぇ・・・」
目の前に広がるのは、ススキの庭。その上に浮かぶのは大きな満月。
秋風がススキをなぜれば、それに従ってまるで波のように揺れ動く。なんとも幻想的な光景だった。
「ね、綺麗でしょ♪」
楽しそうに俺を覗き込むを見て、俺は頬を赤く染めながらあぁ、とうなずく。
小高い丘のようになっているここは、下に街を眺めることができた。自然に囲まれてみる街の風景はいつもとは全く別に感じた。
「お月見しよ、一馬!」
そう言っては紙袋をあさる。そこからは色とりどりの団子が出てきた。
あぁ、なるほど。この紙袋は月見するためのもんだったのか。確かに中身言ったら月見だってばれるよな。
俺の隣にちょこんと座って、二人は月を見ながら団子を食べる。
別に普通の団子だったけど、なんだか特別おいしく感じた。
「ねぇ、一馬。十五夜の日に大好きな人と一緒にいると、その人とはずっと幸せにいられるんだって」
突然そう言ったの横顔は、とても憂いに満ちていて、普段のとは違って見えた。なんだかすごく大人っぽい。
「だから今日一馬を呼んだんだよ。ずっと一緒にいたいから・・・・」
少し照れたように笑うを、俺はたまらず抱きしめた。ふわっとしたいい香りが俺の鼻をくすぐる。
「か、ずま・・・?」
すごく驚いたような声をだす。そりゃそうだろ、俺だってこんなことできて驚いてんだから。
だけど、恥ずかしいとかそういうこと以上に、が愛しかった。
この腕にずっと閉じ込めておきたいほど、愛しく感じたんだ。
月明かりが二人を優しく包み込む。
「ありがとな、。俺もずっとといたい」
「一馬・・・」
ススキの香りに包まれて、月に見守られながら俺たちは優しいキスをした。
いつまでも一緒にいたい
この愛すべき人を
ずっと守れる存在でいたい
月に願った俺の思いは
いつかきっと、叶えられる
秋なので、お月見ドリームです。短くてすみません;駄文ですみません;
花月
