傷つかない方法、知っていますか?











自分を守る方法、知っていますか?











自分を守るためには











傷つかないためには











この方法しか











なかったんだ




















































































つゆ空の涙












































































六月が空梅雨だった所為か、七月に入ってから雨の日が増えた。

今日も空は雨模様。

夏特有の暑さを従え、ジトジトした雨ばかり降る。

気がめいる、なんてことはない。

むしろ嬉しいくらい。

私には雨が似合う、と昔誰かが言っていた。

まさしくその通りだと思う。

こんな私には、嫌われ者の雨がお似合いだから。

安い傘を差して、雨の降る街へ出れば、やはり人通りは少なかった。

雨の日はこれだから助かる。私は人ごみが嫌いだ。

長い黒髪も暑苦しく、纏った薄手のカーディガンも、今はうざったく思える。

それでもきっと、私は涼しい顔をしているのだろう。

だって私は――



!」



突然名前を呼ばれ、振り返る。

そこには大きく手を振る一人の少年が立っていた。

膨れ上がったスポーツバックを肩に下げ、少しぎこちない笑みを浮かべる少年。

真田一馬。私の幼馴染。



「偶然だな。こんなところで会うなんて」



近づきながらそういう一馬に、私は何も言わずただ黙って頷いた。

私の無口な性格は、彼が一番良くわかっているだろう。

小学校から、一馬とは違うクラスになったことがない。

中学校に入ってからも2年間同じクラス。世の中ではこれを腐れ縁というんだろうか。

引っ込み思案で、無口で。なんの面白みもない私を一馬はよく気にかけていた。

だからといって、彼と特別仲が良いというわけではない。

私は誰からも好かれない。そんな性格なんて、自分が一番良くわかっているのだから。



「何してんだ?雨降ってんのに」

「・・・・・・・・・・・・・別に」

「どうせなら、ちょっとお茶しないか?俺腹減っててさ」



選抜の帰りだろうか。一馬は昔からサッカーをやっていた。

私には何が楽しいのか全くわからないけれど、一度だけ見た一馬のサッカーをしている姿はとても輝いて見えた。

確かに運動した後ならお腹も減る。しょうがない、行こうか。どうせヒマだし。

しぶしぶ、先を行く一馬の後をついていく。

彼は私が後ろからついて来ていることを確認すると、歩幅を落として私の隣を歩いた。

なぜだか一馬はいつも私の隣を歩きたがる。

それは一馬なりの優しさなのか、それともただの自己満足なのかは知らないけど。

それでも少しだけ・・・ほんの少しだけ。

心地よいと思うのは、なんでだろう。



、なんか食べるか?」



マックに入って、席を取ると一馬が財布を持って立ち上がった。

私が首を横に振ると、じゃあ飲み物買ってくる。そう言ってレジへと向かった。

昔から一馬たち――英士くんと結人くん、と言ったか――は練習が終わると、マックへ赴く。

彼らにとっては、安くて量の多いこの店が一番合っているのだろう。

でも私には、あまり馴染みがない。

マックへ入るのだって、数えるほどしかなかった。

先生や友達の悪口で盛り上がっている女子高生。

静かに本を読んでいるお姉さん。

茶髪の若者達。

様々な人であふれている。

こういう場所は苦手だった。

うるさい。やかましい。騒々しい。

ちっとも落ち着きやしない。

よくこんなところでご飯が食べれるな、とすら思う。

もっと静かなところがいい。そしたら、きっと落ち着ける。

――まぁ、一人でいない限り、どこでも落ち着かないのだけど。



「お待たせ。オレンジジュースでよかったか?」

「・・・・・・・・・ありがと」



冷えた紙のコップを受け取ると、ひんやりとした感触が体中に広がる。

それほど今日は暑かった。

一馬は何かのセットを頼んだらしく、ハンバーガーの他にポテトと飲み物がついていた。

一馬のことだから、きっとリンゴジュースなんだろうけど、果たしてリンゴジュースがマックにおいてあっただろうか。

疑問が残った。



「はぁー腹減った。疲れた」



ジュースを一口飲んで、一馬は背もたれに寄りかかる。

それに合わせて私もジュースを飲んだ。

甘酸っぱい。でも、その甘酸っぱさが私は好きだった。

昔から、よく飲んでいたし。

そのあたりがわかっているところ、やっぱり幼馴染だなぁと感じる。

一馬がポテトに手を付けながら私を見た。

相変わらず整った顔立ち。さぞかし女の子にモテるんだろうな、なんて考えながら、またジュースに口を付ける。



「最近全然と話してなかったから、久しぶりだなこういうの」



同じクラスなのに、一馬とはまだ少ししかしゃべったことがなかった。

口下手な上、休みがちな私。一方、女の子としゃべって男子にからかわれるのを恥ずかしがる一馬。

まぁ、単純に考えてもしゃべることは少ないだろう。

第一、特にしゃべる内容もなかった。



「なぁ、



コトン、とジュースを置いて一馬は少し下を向く。

何か言いにくいことでも言うつもりだろうか。

昔から一馬は、言いにくいことを言うとき下を向く癖がある。

今回も例に漏れず、きっとそうなのだろう。



「なに」

「あ、その・・・お前、なんかあったか?」



ストローを弄びながら小さな声で、そんなことを言った。

何かあったのかと言われればいろんなことがあった。

言葉じゃ言い表せないほど、いろんなことが。



「・・・・・・・・なんで?」

「気のせいだったらいいんだ。えっと・・・最近休みがちだし、あんましゃべんねぇし・・・」

「口下手なのも休みがちなのも、昔からでしょ」

「そうなんだけど・・・最近さらに拍車がかかってて・・・笑った顔、も・・・見ないし・・・」



声はだんだん小さくなって、消えた。

一馬は更に下を向く。

笑った顔なんて、見せられない。

誰かとしゃべるなんて、もっと嫌だ。

確かに昔は、友だちとしゃべって笑いあうこともあった。

今よりはるかに他人と話していた。

けど、今は違う。

私は・・・・私は・・・・。



「顔、亡くしたの・・・」

「亡くした?」



何を言われても、何をされても、表情が出なくなった。

嬉しいとか、悲しいとか。そんな感情もない。

一馬の知っている私は・・・もう、いない。



。何があったか、話してくれないか?」

「・・・・」

「俺、頼りないかもだけど・・・が辛いなら、少しでも力になりたい」

「一馬・・・・」

「何もできないけどさ、話聞くことくらいならできるから!」



一馬は笑った。昔と変わらぬ笑顔で。

懐かしい、と思った。

昔は私もこんな風に笑えていたんだろうか。

一馬みたいなステキな笑顔が、出来ていたんだろうか。

自然と、私の目からは涙がこぼれていた。



「え!?!?」

「お、お母さんが・・・死んで・・・っ・・・私、身寄りが、無くなっちゃって・・・」



どうしようもなかった。

ただ、子どものように泣きじゃくるだけ。

嗚咽も混じりつつ、私は話を続けた。



「お父さん、も・・・いない、から・・・今は親戚のっ家にいる・・んだけど・・・っ」

「うん。うん」

「その、家、で・・・ひどいこと・・ばっかりされてっ・・・」



胸が軋んだ。

毎日浴びせられる暴言。

自分のことはよかった。でも、お母さんやお父さんの悪口を言われるのが、何より辛い。

やがて、自分の心にシャッターを下ろすようになった。

感情が、死んでしまった。

笑うことがなくなり、かといって泣くこともない。

人形。生きた、人形。

私は何のために生きているの?

何でここにいなくちゃいけないの?

どうしてこんな思いをしなくちゃならないの?

誰か、教えて・・・。



「私が・・・悪いの?」

・・・」

「私が、生まれてきたから・・・それがいけなかったの?」



光なんて見えない。

明日なんてない。

もう、死んでしまいたかった。



「そんなことない!」

「・・・・・・・・・一馬・・・」

が生まれてきてくれて、俺嬉しい。に会えて、よかったよ」

「・・・・・・・・・」

「だから・・・は何にも悪くない。生まれてきたことを後悔するなんて、間違ってるよ」



一馬は私の隣に座り、私を優しく抱きしめた。



「辛かったな」

「う・・・っ・・・ひっく・・・」

「もう大丈夫。は俺が守るよ」

「か、ずまぁ・・・!」

「何があっても俺が守るから」



また、涙が溢れた。

嬉しいと、久しぶりに感じた。

私が生まれてきたのは、きっと一馬に出会うため。

愛しいと、傍にいたいと、思えた。



「一馬・・・ありがとう」

「おう」

「でもさ、マックで告白なんて、なんか・・・おかしい」



そう言うと、一馬は顔を真っ赤にして、少し笑った。

そしてまた、私を抱きしめる。



「やっと見れた・・・の笑顔」



一馬の胸に抱かれて、私はまた泣いた。

でもそれは・・・。












きっと嬉しい涙。

















かっこいい一馬を再度目指してみました。偽一馬炸裂。。

花月