不器用なのは前から知ってた
だけどここまで不器用だとは
さすがに私も
びっくりしましたよ?
ちょうちょ結び
私の彼、真田一馬。彼の嫌いなもの。それはちょうちょ結び。
「あー!だから、こっちのわっかを上から通すんじゃなくて下から!」
「え、っと・・こうか?」
「違うってば!」
只今一馬邸にてちょうちょ結びの猛特訓中。これは一馬からの願い。いきなり電話で呼び出したかと思えば、ちょうちょ結びを教えてくれ、だって。
一馬の頼みとあっては断ることもできずやって来たはいいものの、かなりの不器用。
開始1時間で出来上がったちょうちょ結びの数、わずか1つ・・・・。ありえない。
「なんでこう、縦になんだろ」
「それが問題だよね。ってか1つって・・・」
「わかった。認めるからそんな悲しそうな顔しないでくれ」
悲しくもなるわよ。まさか自分の彼氏がここまで不器用だとは。実は鶴とか折れないんじゃない?これで折れたら私泣くわよ?
一馬はちょっと休憩、と言ってテーブルの上に置いてあったリンゴジュースを飲み干す。ここまでたくさんちょうちょ結びをしたのもはじめてだから、私も少し疲れた。
さすがは一馬ん家のリンゴジュース。産地直送、かなりおいしい。
でも、何で一馬はとつぜんちょうちょ結びを習いたいなんて言い出したんだろう。
前まであんなに嫌がってたのに。ついに試合中スパイクの紐が解けたのかな。
休憩っていいながら、一馬はまだちょうちょ結びの解明をしてる。こういう一途っていうか、一生懸命なところが私は好き。
おいしいリンゴジュースを飲み終えたところで、また特訓にとりかかる。今度こそ一馬に一人でちょうちょ結びを作らせてみせる!
「じゃあもう一回、最初から整理してみよう」
「おう」
なんか夕方の子供向け番組みたいになってきた。ほら、おかあ○んといっしょってやつ。あれ?わ○わくさんだっけ?まぁどっちでもいいや。
お互いにピンクのリボンを持って、さっきから使われっぱなしの小さな紙筒に巻きつける。
「まず、一回かた結びをします」
ぎこちないながらも、なんとかかた結びはできるらしい。よし、じゃあ次。
「右側のりぼんを丸くして」
見よう見まねでこれもできた。うん、なかなかいい感じ。
「それに左側のリボンを下から!下から!下から上へとかけます」
いつもこれが上手くいかないんだよね。なぜか一馬は上からかけたがる。私も最初はそうしてたけど、それだと出来上がりが縦になっちゃうから、下からのほうがいい。
「こ、こうか・・・?」
おそるおそる完成品をみせる一馬。うん!できてる!ここができればあとは簡単。よくがんばったね、一馬。
「よし。それで今度は、右のわっかと左のリボンが交差してる間に通して」
ちょっと説明がむずかしい気もするけど、なんとかできたみたい。もちろんぎこちなくだけど、一生懸命に頑張ってた。
「最後はちょっと引っ張って、左右のわっかを整えれば完成!」
「できた!」
やったー!やっとできたよ一馬!これで君もりっぱなちょうちょ結び人だ!
一気に緊張が解けたのか、かなりぐったりしている様子の一馬にリンゴジュースを注いであげる。
ちょっと赤くなりながら受け取る一馬が可愛くてしょうがなかった。
「お疲れ!よくがんばったね、一馬」
「おう、ありがとな」
これでもう、スパイクの紐がほどけても大丈夫だね。
試合を見に行くといつもドキドキする。プレーとかのかっこよさとかじゃなくて、いやもちろんそれもあるんだけど。
スパイクの紐が解けないか心配で。だってもし試合中に解けたらすぐに結ぶでしょ?だけどちょうちょ結びだから時間がかかって、試合に参加できないんじゃないかって。
今までは友達とかに確認してもらって、解けないようにしてもらってたらしいんだけど、どうやらそれも限界みたい。
まぁ、なにはともあれ今日で完璧マスターしたからもう安心して試合が見れる。
「やっぱりスパイクの紐が解けるのはいたいよね、サッカー選手にとって」
「まぁな。ってどうした?いきなり」
「だってスパイクの紐結ぶためにちょうちょ結び習ったんじゃないの?」
「あ、そう。そうだよ」
・・・・・あやしい。とてつもなくあやしい。
だってホラ、リンゴジュース一気飲みしてるし、明らかに目が泳いでるし。
一馬が嘘をつくとすぐわかる。なんでも単純でわかりやすいやつだから。
だてに一馬の彼女やってませんて。さて、何を隠してるのかな?かじゅまくん。
「さっさと白状しちゃいなさい」
「な、なにをだよ」
「下手な嘘つかないことよ。さもなくば、私にちょうちょ結び習ったこと結人くんと英士くんに言っちゃうよ〜?」
「わ、わかった!頼むから言わないでくれ!」
アハハ、思ったとおりの反応。おもしろい。
そりゃそうだよね。彼女にちょうちょ結び習ってた、なんてあの2人に知られたらなに言われるかわかんないもん。
特に結人くんはからかうから、そういうネタはおいしいんだろうなぁ。英士くんもなんやかんやで乗りそうだから。
「それで?本当はなんで習ったの?」
「それは・・・その・・」
言いづらそうに少し俯いてる一馬。私にいえない事情があるのかな。それともやっぱり恥ずかしい?
なんかじらされると余計に聞きたくなるんだよね。私っていい性格してるわ。
あ、こういうときはこの手でいこう!
「そっか・・・言いたくないんだね・・・」
「え、お、おい?」
「いいよ。別に無理して言わなくても・・。私、気にしてないから・・・・」
私はどんよりして俯いた。下唇なんかも噛んでみる。肩も震わせて、悲しんでますアピール。
下に下がった前髪の間から一馬を見ると、かなりおろおろしている。困ったような顔をして、どうしたらいいか悩んでいた。
一馬と結婚して子供が生まれるときがきたらきっと苦労するだろうなぁ。なんて、ちょっと恥ずかしいこと考えてみた。
「わ、わかった!言うから。泣くなよ」
「・・・ホントに教えてくれる?」
「あぁ」
「じゃあさっそく聞きましょう」
ぱっと顔を上げて笑顔を見せると、一馬は全ての謎が解けて悔しそうな顔をした。
だましたな、なんて声が聞こえたけどあっさりスルー。
この方法はホント使える。特に一馬には効果抜群。すぐに秘密を教えてくれるから。
「ホラ、もうすぐの誕生日だから・・・」
「誕生日?」
そういえば、そうだった。自分のことに無頓着だから、もうすぐだってこともすっかり忘れてたよ。
っていうか、ちょうちょ結びと私の誕生日とどういう関係があるの?
「私の誕生日・・・まさかプレゼント、リボン?」
「ち、ちげぇよ!誕生日のプレゼント自分で包装しようと思って・・・」
あぁ!だからちょうちょ結び習ってたわけか!なるほど、納得・・・ってかなり嬉しいんですけど!
「一馬〜!」
「うわぁ!?」
嬉しさのあまり一馬に抱きつくと、案の定一馬は顔を真っ赤にした。だけど突き放したりしない。そこが一馬のいいところ。
「ありがとう、楽しみにしてるからね」
「おう、まかせとけ!」
なんとも頼もしいお言葉で。どんな外装のプレゼントをもらえるのか、今から楽しみ!
そのまま私たちは抱き合ったままでいた。
この腕のぬくもり、これが私にとって最高のプレゼント。
そのことに一馬は気付いてるかな。