声で伝わる気持ち
それはどんな形でも
嬉しくて、嬉しくて
大切なもの
VOICE
「おめでとうございまーす!!」
カランカランと大きなベルを鳴らしながら『開店セール』と書かれたはっぴを着たお姉さんは笑顔でそう言った。
周りの人たちがこっちを不思議そうな目で見ている。は、恥ずかしい・・・・。
「おぉ!すげぇ、!2等じゃん!」
隣にいた彼氏の結人も顔をのぞかせ、目を輝かせながら大きな声で喜びを表現した。
この人は恥ずかしさとかあんまり感じないんだろうな。鈍いし。元から目立ちたがり屋だから。
そう、私は今、開店したばかりのショッピングモールに来ていた。結人の家の近くの空き地を、そのままショッピングモールにしたから、かなり広い。
ちょうど服が欲しかったし、家から近かったし、結人に誘われたこともあって、普段なら絶対行かないような人ごみに、自ら飛び込んだわけだ。
若者向けのショッピングモールで新しい服を安く大量に買えたのは良かった。しかし、そのレシートでくじ引き(ガラガラ回して玉が出る、アレ)ができると聞いて、結人が嫌がる私を無理やり引っ張っていった。
そこでガラガラを回したところ、出た玉の色は赤。つまり、2等。そこで、冒頭の台詞に戻るわけ。
あーただでさえ人ごみ嫌いなのに、こんなに目立ったら余計恥ずかしい!しかも結人も大騒ぎしすぎだし・・・。はぁ;
「2等の商品はこちらになります」
営業スマイルでピンクの袋を差し出したお姉さん。なぜか私が受け取る前に結人が奪い取ってた。
「結人、それ私が当てた商品なんだけど・・・」
「気にすんなってvそれより、商品なに?」
ガサゴソと袋を汚く破り、中をあさる。そこから出てきたのは――。
「なんだこれ?」
ピンクのゲーム機のようなもの。え、私ゲームやらないのに。
しょうがない、結人にあげよう。新しいゲームちょうど欲しがってたから。
ゲーム機と聞いて興味のなくなった私に対して、結人はまだそれを見つめている。
ちょっと人ごみが増えてきて、邪魔になりそうだったので、結人を引きずって近くにあったベンチに腰掛けた。
ふぅ、やっと落ち着いた。
「なぁ、。これすげぇよ」
「え?ただのゲーム機じゃないの?」
「違う違う。ゲーム機じゃなくて、ゲーム機の形したボイスレコーダー」
「ボイスレコーダー?」
ボイスレコーダーって声を録音できる、あれ?
なんでそんなものが2等の商品なんだろう・・・本物のゲーム機のほうがよかったのに。
結人からそれを受け取り、説明書にざっと目を通すとやっぱりゲーム機型のボイスレコーダー。
えーっと、Aボタンを押して声を録音。再生する時はBボタン、か。
やってみよう。
「あーあー、結人のバーカ」
「おい!なんてこと録音してんだ!」
カチっ。
これでOKあとはBボタンを押して再生するだけ。
『あーあー、結人のバーカ』
『おい!なんてこと録音してんだ!』
「「おぉ!!!」」
すごい!結人の声まで鮮明に録音されてる!
最近の機械はすごいなぁ。なんか思ったよりもおもしろい。もう一回やってみよっと。
「結人は茶髪の不良です」
「だからなんで俺の悪口しか言わねぇんだよ!」
うん、すっきりする。
再生、再生。
『結人は茶髪の不良です』
『だからなんで俺の悪口しか言わねぇんだよ!』
「「おぉー!!」」
二人して、さっきと同じ反応。バリエーション少ないなぁ;
そんな感じでしばらく遊んでいたら、あっという間に日が暮れた。やばい、これ面白い!
そろそろ帰ろうということになったとき、結人はボイスレコーダーを持ったままトイレに行った。
だからそれ私の商品なのに。
「お待たせお待たせ!じゃ、帰るか!」
「うん」
手を繋いで帰る星空の下。いつものように結人は私の家で送ってくれた。
「今日は買い物付き合ってくれてありがとう。また学校でね」
「あ、ちょっと待った!忘れ物」
バックの中をあさって、ボイスレコーダーを返す。あ、忘れてた。ってか覚えてたんだ。
「家帰ったら、再生ボタン押してみてな!」
「え、なんか録音したの?」
「いいからいいから♪じゃ、またなぁ」
大きく手を振って、結人は家に帰っていった。なに録音したんだろう。楽しみ。
すぐに自分の部屋に入って再生ボタンを押してみる。そこに録音されてた言葉。
『、大好きだ』
まったく、可愛い奴。
「私も大好きだよ、結人・・・」
ボイスレコーダーを抱きしめて、そっと呟く。
結人の声、とっても透き通っていて綺麗。
私たちはずっとずっと、一緒にいられると思った。
誕生日祝えなかった償い。
花月
