仕返し、返り討ち、高笑い
なんてすばらしい言葉なの!
私的悪役論-ワタクシテキアクヤクロン-
「つまり、笑い方なのよ。笑い方」
松葉寮の一室。そこには、部屋主である三上亮と彼女のがいた。
は三上の前にビシっと人差し指を立てながら言う。対する三上は、はぁ?と呆れた顔をした。
「なんなんだよ、突然」
「亮に足りないのは、その笑い方。悪役たるもの、悪役っぽい笑い方をすべきなの」
至ってまじめな顔をしている。どうやら本気でそんなことを言っているらしい。
「ちょっと待て。俺がいつ悪役になったんだ?」
「ポジション的にそうじゃない。俺様三上様が悪役じゃないわけないでしょ?」
何の悪びれもなくひどいことを言われて、三上のこめかみにも青筋が立つ。が、そこは愛しい彼女のため。何も言わずにただ黙って耐えるのであった。
そうしているうちに、は何やらいろいろな準備を始めている。そして、はいと三上にはちまきを渡した。
「目指せ悪役!だぁ?」
「これから私が、徹底的に三上を悪役にしてみせるわ!」
「なんで俺がそんなことしなくちゃなんねぇんだよ!大体俺は悪役じゃねぇ!」
「あれ〜?この前のデートに30分も遅刻してきたのは誰だったっけなぁ〜」
「あれは急に監督が呼び出しくらわしたから・・・」
「誰だったっけなぁ〜」
こいつ、この前のことまだ怒ってやがるな。それで俺にこんな仕返しさせようとしてんのかよ・・・!
ふっとあきらめたかのようにため息をついた三上は、から乱暴にはちまきを奪った。
「わーったよ!やればいいんだろ、やれば!」
額にはちまきを巻きつけながら三上がそう言うと、は嬉しそうに微笑んだ。
そして、どこからともなくフリップをだす。そこには「悪役になるための10ヶ条」と題した名目が並んでいた。
「このうちほとんどは地で合格してる亮だけど、どうしても足りないものがあるのよね。それが笑い方」
「笑い方?」
それなら三上にも自信があった。いや、自信があるというか、周りからあれだけ「デビスマ」と言われていれば嫌でもそう思わざるを得ない。
このデビスマで何人の男どもを震え上がらせてきたか。もちろん、それをが知らないはずがない。
「デビスマはもう合格してるのよ。私が言ってるのは、高笑いのこと」
付き合い始めたころから、の奇妙な発言はよくあることだったので、もう慣れたと思っていたが、さすがの三上もコレには首をかしげるしかなかった。
「高笑いって・・・なんで俺がそんなことしなくちゃなんねぇんだよ」
「高笑いは悪役にとって必要不可欠なもの。その絶対条件をクリアしてないなんて、悪役としてそれでいいわけ!?」
「別にいい・・・」
「いいわけ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よくないデス」
それを聞いて満足したようにうなずくと、さっそくは特訓を開始した。
その1 シチュエーション
「悪役の高笑いは、必ず高い場所から聞こえてくるもの。さ、亮。ここに上って」
「ここって・・・崖じゃねぇかよ!いくらなんでも危険すぎんだろ!」
「悪役がこんなことでへこたれてどうすんの!?ここをクリアしなければ、悪役なんて一生ムリよ!」
「だから俺は悪役になりたいわけじゃねぇって!」
「つべこべ言わずに、さっさと上れぇ〜!!」
「おい、押すなってっ!!う、うわぁ〜〜〜〜!!!!!!」
崖から落ち、荒波に飲まれる三上をは満面の笑みで見ていたという。
その2 衣装
「次は衣装ね。これ、着て」
「・・・・・嫌だ」
「なに言ってんのよ。さっさと着て」
「こんな恥ずかしい格好誰ができるかよ!」
「悪役である亮ならできるから!別にそこまでかっこ悪いわけでもないでしょ!?」
が差し出したのは、黒い全身タイツと黒い巨大マント。三上はコレをそこまでかっこ悪くないというのセンスを疑った。
「あ、角もあるから」
「いらねぇよ!!」
その3 立ち振る舞い
「つまり、敵に対する態度ね」
「そんなもん、どうやって特訓すんだよ」
「私を敵だとおもって、まずは立ち振る舞ってみて」
「え・・・」
「思いっきり罵ってくれて構わないから」
「いや、それはちょっと・・・」
「なんで?」
「なんでも」
可愛い彼女を罵れるかよ、という愛からくる発言であったが、心のどこかには「これをネタにまたなんかやられたらたまったもんじゃない」などという恐れもあった。
その4 笑い方
「ついに来たわね。悪役の最終形態。笑い方が!」
「、お前そんなに張りきんな」
「これが張り切らずにいられますか!それじゃ、亮。笑ってみて」
「面白くもないのに笑えるか」
「別に面白くなくてもいいのよ。悪役の高笑いは、これから起こる最悪の出来事を想像したり、敵の悔しがる顔が見れたりしたときに楽しくて起こるもんなんだから」
「俺はそんな嫌な性格してねぇよ!」
「いいから早く笑って。こんな感じよ。アーハッハッハッハ!!」
「(お前のほうが悪役に向いてるんじゃねぇの?)あーははははは」
「気持ちがこもってないわ!アーハッハッハッハ!はい」
「アーははははは?」
「う〜ん、もうちょっとだね。アーハッハッハッハッハ」
「アーはっはっはっは!」
「もっとこう・・・悪!ってな感じに」
(もう勘弁してくれ・・・)
その夜、三上の部屋では一晩中笑い声が聞こえてきたという。
その5 総合テスト
「亮。いよいよ、ココまで来たわね」
なにやら意志の強そうな顔をして、拳を握る。それに対して三上は、連日の特訓ですっかり疲れてしまっていた。
「、総合テストってなにすんだ?」
「今日はちょっと、エキストラのみなさんに協力してもらうの」
が指差した方向にはざっと200人はいるであろう女子の群れが出来ていた。
よくみると、それは全員武蔵森の生徒。つまり、の広い人脈で集めた三上ファンたちだった。
「あの子たちの前で、今までやってきたことをぶちまけるのよ」
「はぁ!?冗談だろ!?」
いくらとはいえ、もう限界だ。これ以上好き勝手されてたまるか!
三上は黒いマントを翻して、早々にその場を立ち去る。すると・・・。
「ひっく・・・あ、きらぁ・・・・」
のすすり泣く声を聞いて、三上はあわてて振り向く。そこには大粒の涙を流してしゃがむがいた。
「やって・・・くれないの?」
潤んだ瞳に下から見つめられ、三上の心が揺らぐ。そして、三上は再び女子の前に立った。
「ったく。しょうがねぇな・・・」
少し小高い丘のようなところに立つと、下から黄色い悲鳴が聞こえてくる。
「わ、わたしを捕まえたくば、ここまで上ってこい。ぐみん共・・・・アーハッハッハッハ!!」
なにやらつまりながれではあるが、高笑いはしっかりできていた。これでようやくの変な特訓から開放されると安心したのも束の間。後ろからドドドド・・・という地響きが聞こえてきた。
「「「「「「「「「「「三上くぅ〜んvvvvv」」」」」」」」」」
どうやら本当に女子たちは上がってきてしまったようだ。目がハートになった女子たちがいっせいに三上へ突進してくる。
「う、うわぁ!!!」
角もマントも放り投げて、三上は必死に逃げ続ける。それを見守っていたは、一人腕を組んで立っていた。
「ふ、ざまぁないわね。亮・・・」
そう、全てはの思惑通り。こうなることを前提して、いままで三上に特訓をさせていたのだ。
「私を怒らせるとこうなるのよ。精々覚えておくことね。オーホッホッホッホ!」
の高笑いはしばらく止むことがなかった。
三上亮の教訓
本物の悪役、を怒らせるべからず
三上ファンのみなさま。ごめんなさい。
花月
