いつも傍にいる
たとえどんなに離れていても
俺たちを切り裂けるものなんて
なに一つありはしない
約束
白いベッドの上に横たわる俺が見える。その周りで泣いている家族が見える。
おいおい、どうなってんだ?なんで俺が2人もいんだよ。
たしかさっき、とデートしてて、家に帰る途中で、この交差点渡ってて。
あぁ、そうだ。トラックが突っ込んできたんだ。そこからの記憶がないから、たぶん死んだんだろう。
ってことは、俺は幽霊か?
困った。史上最大に困った。
この様子だともう1日はたっている。今日は大切な用があったのに。との大切な用事が。
くそっ!とにかく、のことに行かねぇと。ならもしかしたら、俺のことに気づいてくれるかもしんねぇし。
あいつ、霊感あったっけ?
するりと病室の壁をすり抜けて、俺はの元へむかった。
あいつがいる場所なんてすぐに分かる。今日はきっとあの場所に・・・
空中を猛スピードで飛びながら街の見える小高い丘に向かう。あそこは2人がはじめて出会った場所だから、何かあるとはいつもあそこに行くんだ。
丘につくと、やっぱりはそこにいた。花束を抱えて、街を眺めるように座っている。
その後ろ姿は俺が見てきたの姿そのものだった。いつもと変わらないの姿と。
「亮・・・」
不意にが俺を呼ぶ。もしかして、俺の存在に気付いてるのか?
「」
俺が呼びかけても、は街を見下ろしたまま。こちらを振り返ることはなかった。
見えてない、か。まぁ、当然だろうな。俺、幽霊だし。
「今日は、2人がはじめて出会った日だよ」
あぁ、覚えてるぜ。だからこうして来てやったんだ。感謝しろよ。
「私が彼氏に振られてここで泣いてたとき、後ろから急に現れたんだよね」
急にじゃねぇよ。お前が気付かなかっただけだろ?
「そしたらいきなり『そこは俺の場所だ、早くどけ』って言い出して」
そんなこと言ったか?それだけは覚えてねぇな。
「最初はなんて失礼な人だと思ったけど、なんだかその時の亮、とっても寂しそうだったから」
選抜に落ちたときだったからな。悔しかった。けど、寂しそうな感じは出してなかったぜ。お前の気のせいだろ。
「私がよかったら一緒にいませんか?って誘ったんだよね」
あぁ。今思えば、本当に嬉しかったんだ。の隣で見た街の景色は、いつもと違って数倍綺麗に見えた。
何もかもが特別に感じた。
「あの日のことは忘れてないよ」
俺も。全部覚えてる。忘れるわけがねぇだろ。
「あの時は、いつまでも一緒にいられると思ってた」
、お前・・・・・
「ただ漠然と、そう思ってたんだよ」
泣いてるのか?
花束に顔をうずめながらしゃくりあげるを、後ろから抱きしめられない自分に腹が立った。
なんで一緒にいてやれない。なんで慰めてやれない。
もどかしくてしょうがなかった。
「亮、どこにいるの?」
俺はここにいるぜ。のすぐ近くに。
「姿が見たいよ」
、すぐ後ろにいるんだよ。
「声が聞きたい」
こんなに呼んでるだろ。気付いてくれよ。
「あき、らぁ・・・」
!!こっち向けよ!
「会いたいよぉ・・・!」
ここにいるんだ!俺はここにいるんだよ!気付いてくれ、。
俺はここにいるんだ
いくら叫んでも、いくら呼びかけても、が俺を振り向くことはなかった。
俺はただ、泣きじゃくるを後ろから見つめるだけ。抱きしめることも、慰めてやることもできない。
こんな無力感、はじめてだ。
「なんで死んじゃったの?」
そんなの俺が聞きてぇよ。
「どうして隣にいてくれないの?」
ゴメン。ゴメンな、。
触れられないと分かってても、たまらず俺はを抱きしめる。の身体からすり抜ける腕がすごく切なかった。
「亮?」
その声はいない俺に呼びかける声じゃなく、確かに俺自信を呼ぶ声だった。
ハッとして顔を上げると、そこには俺を見つめるがいる。泣きはらした赤い目を向けるの姿が。
「あき、ら・・・?」
「くく・・・ひでぇ顔だな」
涙でぐちゃぐちゃになったを見て、昔のように笑う。もう、と怒ったようにも笑った。
「ホントに亮なの?」
「当たり前だ。俺以外の誰に見えんだ?」
ニヒルな笑みを浮かべると、は俺の胸にとびこんできた。優しく髪をなでてやると、腕の中からまたすすり泣く声が聞こえてくる。
「今日なんの日か覚えてた?」
「忘れるわけねぇだろ」
「大遅刻だよ、バカ」
「悪かったな」
の肩をつかんで、顔を出させる。しばらく見つめあったあと、どちらからともなくキスをした。
今までにないくらい優しいキスは、涙の味がした。
とたん、俺の身体が白く光りだす。驚いたと同時には俺を不安そうに見上げた。
「亮?」
「どうやらタイムリミットらしいな」
足元から徐々に消えていく身体をみて、俺は笑う。
ここでお別れだ。なんとなく視界もぼやけてる。
「行かないで!ずっと傍にいてよ!」
「ゴ・・・な・・・」
あ、もう声すら出ないか。言いてぇこと、たくさんあったんだけど。
「約束したじゃない・・・!」
ずっと傍にいてやる、だろ。俺とがはじめて結ばれた日。確かにそう誓ったな。
「お願い、だから・・・・いかないでぇ!!」
を抱きしめる手がだんだんと消えていく。
、俺は今でもその言葉を誓ってるぜ。たとえどこにいても俺はお前の傍にいる。
「亮・・・」
・・・
「「愛してる」」
光の粒となって、俺は空に消えていった。最後に言った言葉は、ちゃんとに届いたんだろうか。
傍にいてやれなくて悪ぃ。だけど、俺はいつでも見守ってっから。いつものこと想ってるから。
だから、もう泣くな。そしたら、きっとまた会おうぜ。
あの日二人が出会った場所で。今日と同じように
君を抱きしめに行く――
急に切ない話が書きたくなりました;キリリクもあるのに、こんなの書いててすみません;
花月
