いつからこうなったのだろう
いつからダメになったんだろう
あたいが一番聞きたいこと
どうして なんで
どこで間違えたのか
そんなこと
わからない
風
バイクを走らせるとどこか遠い世界に行けるような気がした。
最初はたった一人。
でも、もっと早く走りたくて。
いつの間にか関東最強のレディースに入るようになった。
毎日走って。走って。走って。
誰もあたいを超えられない。
まるで風になった気分だった。
何も考えなくていい。
あたいはただ走るだけ。
喧嘩上等なんて、本当はどうでもよかったんだ。
中学から走り続けて、早5年。
あたいは高校生になった。
入学式で、壇上に上がってたセンコーぶん殴って、一週間停学になって。
それ以来、誰もあたいには近づかなかった。
その方がいい。
あたいは一人でいい。
学校なんて、くだらない。
友だちなんて、くだらない。
あたいはただ。
一緒に走れる奴が欲しかっただけなんだ。
「!なんだその髪の色は!」
久しぶりに学校へ行ったら、朝から教育指導のセンコーに髪の色を注意された。
別にどうだっていいじゃねぇか、そのくらい。
やっぱり、大人なんてくだらねぇ。
指導室に連れて行かれる途中、いろんな周りの声が聞こえてきた。
「おい、見ろよ。だぜ」
「関東最強レディースに入ってる、あの?」
「怖ぇー金髪にピアス」
「背中にすげぇ刺青入ってるらしいぜ」
「目ぇあわすな、殺されるぞ」
あたいの評価は最悪らしい。
他人にどう思われようが、あたいには関係なかった。
自分の生き方を貫いてるだけ。
それなのに、周りはいろんなこと言いやがる。
どっちが迷惑だか、よく考えりゃわかるだろ。
あたいは誰にも迷惑かけてねぇよ。
あたいにとっちゃお前らみたいなカスの方が迷惑だ。
レールに沿った人生なんてつまらねぇ。
こっちの道の方がおもしろいと思っただけ。
そんなことすら、わからねぇカスだらけ。
でも、そんな中に。
一人だけ、あたいを真正面から見てるやつがいた。
「真田!目ぇあわせんなって!」
真田と呼ばれたその男は、あたいの目をじっと見据えた。
哀れみでもなく、同情でもなく、怖がるでもない。
その瞳は・・・。
とても、綺麗だった。
「何してる!早く来なさい!」
センコーはあたいの腕をむりやり引っ張り、指導室への道を急がせた。
その手が気に入らなかったから。
あたいはキレた。
「触んじゃねぇよ!この腐れセンコーが!」
あたりが静まり返る。
くるぶしまである長いスカートが風に揺れた。
「先生に向かって、なんだその口の利き方は!」
あたいを殴ろうとしたセンコーの平手を易々と受け止め、反対の拳で勢い良く殴りつける。
あぁ、これでまた停学だろうな。
キャーという悲鳴が廊下に響き渡って、生徒たちは一斉に自分の教室へと駆け込んでいった。
逃げるくらいなら、最初から見にくんじゃねぇよ。
誰もいなくなった廊下に一人だけ。あの男だけが立っていた。
真田。学校なんてろくに行ってないから、同級生かもクラスメートかもわからなかった。
「なに見てんだ!?あぁ!?」
真田の胸倉を掴み、少し高い目線を睨みつける。
それでも真田は動じなかった。
なんだかとてつもなくムシャクシャして、あのセンコー同様逆の手で真田を殴りつける。
「真田!」
「やめろ!!」
センコー共に腕をつかまれ、倒れた真田はクラスの女子に介抱されている。
どうやら、この真田という男はかなりモテるらしい。
女引っ下げてチャラチャラしてる奴なんて最低だ。
でも、真田はそういうわけじゃなさそうだった。
半ば引きずられるようにして、あたいは指導室へ入った。
何時間も説教されたけど、あたいの耳には入ってこない。
あたいの頭の中にあったのは、真田の存在だけ。
あんな風にみてくる奴、他にいなかった。
なんで真田はあたいのこと見ていたんだろう。
なんで殴られても何も言わなかったんだろう。
不思議でしょうがない。
それから指導室を出たあたいは、予想通り2週間の停学をくらった。
まぁ退学にならないだけマシだろう。
校庭の裏に止めてあったバイクを走らせ、あたいはすぐに学校を後にする。
こんなとこ、二度と来るもんか。
ふと、校舎の窓が眼に入った。
そこには確かにあたいを見ている人影。
真田、だろうか。
ちょっとだけ気になって、すぐに止める。
バイクを走らせ、あたいは集会の場所へ向かった。
「なんだよ一馬!その顔!」
選抜の練習でフィールドへ出た瞬間、結人が俺の顔を見て驚きの声をあげた。
英士も少なからず驚いているみたいで、俺の顔を心配そうに眺めている。
まさか女に殴られたなんて言えねぇし・・・なんて言おうか迷った。
「何があったの?一馬」
英士が聞いてくる。
俺が答えに困っていると、結人が更に声をあげた。
「どうせ喧嘩でもしたんだろ?で、こてんぱんに負けちゃったと」
「負けてねぇし喧嘩もしてねぇよ!」
「じゃあなんで顔にシップなんて張ってるんだよ」
「それは・・・その・・・」
「まぁそれは帰りにじっくり聞くとして。ほら、結人も一馬も早く集合しないと監督に怒られるよ」
英士が俺たちを諭して、監督のところへ集合する。
集合している間も、俺の頭の中はのことでいっぱいだった。
関東最強レディースに入ってる。
そこにはきっと、仲間も大勢いるんだろう。
なのになんであいつはあんな顔したんだ?
一人ぼっちで寂しそうな顔。
の目を見たとき、あいつは言った気がしたんだ。
『寂しい』って。
俺には家族もいるし、英士や結人っていう大事な親友もいる。
ユースにだって選抜にだって当然同じようにサッカー好きな仲間もたくさんいるから。
俺は一人じゃないってよく思う。
でもあいつは違った。
どんなに乱暴に振舞っても、どんなに強そうな格好しても。
あいつには孤独の影が見えた。
確かに、学校にはあいつの居場所がないと思う。
でも外に出れば。
あいつが必要とし、あいつを必要とする場所があるはず。
それなのになんで、あんな寂しそうな顔するんだよ。
俺にはわからなかった。
あいつの気持ちが。
俺がなんであいつに興味を持ったのかも、わからない。
寂しいなら寂しいって声に出せばいいのに。
それすら拒否するような、全てを否定するようなあの目。
弱いことは、群れることは、まるで悪いことかのように。
あいつの目は深く揺れていた。
「おい一馬!いつまで集合してんだ。早くパス練行くぞ」
「お、おう」
結人に頭をはたかれ、俺はやっと動き出す。
たぶんは停学をくらったのだろう。
それならしばらく学校で会えることはない。
でも、もう一度会って確かめたいんだ。
あいつの影の正体を。
レディースいいな
花月

