とサッカー観戦することが決まった日の夜はほとんど眠れなかった。そのことを結人と英士にメールで伝えたら、どっちからも『ナイーブだ』って返ってきて少し驚いたけど。

試合は8:00キックオフ。場所は何回も行ってるところだから迷うことはないと思う。全席指定だから、場所取りする必要もないし、ゆっくり行っても大丈夫だな。

『帰りはちゃんと送ってあげなよ?』

英士の言葉を思い出す。そういえば、の家ってどこら辺なんだろう。俺ん家の近くか?

『はぐれないためにも、手ぐらい繋げよな!かじゅま!』

手…////つ、繋げるかよ!//でも、万が一はぐれたら困るしな…やっぱ繋ぐしかないか。よし、逃げんなよ?俺。(←内心嬉しい)

そしていよいよ、待ち合わせの6:30。場所は駅の改札口前。帰宅ラッシュと重なってかなり人が多かったけど俺は20分前からを待っていた。

見つけられるかどうか不安だったけど、そんな心配は無用。すぐに見つけることができた。それがとても嬉しい。

「ごめんね、待った?」

さっぱりとした服装に身を包んだは、いつも以上に可愛かった。学校じゃ制服とジャージしか見ないからとても新鮮。これだけでもう充分な気もしたけど、メインのサッカー観戦はこれから。自分の顔が赤くなるのを感じた。

「いや、別に。じゃ、行くか」

緊張と照れで言葉が途切れる。そしてに背を向けると、すぐに改札を通った。

後ろからちゃんとがついてきているか何度も確かめながら先へと進む。『そんなに心配なら手、繋げばいいだろ?』と結人の声が聞こえてきそうだ。それでも俺は、サッカー観戦に誘うとき全ての勇気を使い果たした気がする。全くといって良いほど勇気がでない。アンパン○ンを見習いたいぜ;

凄すぎる人ごみをかきわけながら、いつもの電車がくるホームへ降りた。どうやら試合を見に行くのは俺達だけじゃないらしく、他にも何人か日本代表のユニフォームをきている。

なんだか、まわりの目線が異常に気になってきた。俺とってやっぱりこ、こ、恋人同士//に見えんのかな////やべぇ、めちゃくちゃ嬉しい!

となると、別に手繋いでも違和感なかったり?人もそこそこいるし、はぐれないためっていう口実もある。






















































……チャンス?
















































っ…!」

「なに?」

言え、言うんだ俺!なんか前にあったシュチュエーションだけど、気のせいだ。気にすんな!

「て、手を――」

『2番線、電車がまいります』

残酷なアナウンスと共に、すぐ俺たちが乗る電車がホームに入ってきた。言いそびれた俺はそのまま言葉を飲み込んで、顔を背けた。がすっごい不思議そうな顔で見てる。

なんて運がないんだ、俺は;

電車に入ってすぐ、俺達は近くにある席に座れた。隣りで嬉しそうにしてるに対して、俺はさっきのがショックでろくに会話もできない。

「真田くん、さっきなんて言おうとしたの?」

「え!?いや、別に…大したことじゃないよ」

手を繋ごうとしたなんて言えるかよ///!だけど、今日手ぇ繋げなかったらもうこんなチャンス一生ないかもしれない。よし、この電車降りたら言おう。ただ「はぐれないように手、つながないか?」って言うだけだろ?勇気だせよ、俺。

は本当にサッカーが好きらしく、鞄からサッカー雑誌を取り出して読んでいた。それには今日の試合について特集が組まれていて、スタメン予想なども書かれている。

「やっぱりGKは楢崎かな。DFは松田が出て欲しいよね」

「そうだな。MFはヒデあたりが出ると嬉しいけど」

「とすると、中田浩二もくるかな」

「たぶんな」

会話らしい会話になってる!やればできるじゃん、俺も。にしてもかなりくわしい知識持ってるんだな。なんだか嬉しい。別に一緒にサッカーの会話ができたことじゃなくて、いやそれもあるんだけど//なんていうか…サッカーが好きな人に出会えて嬉しいんだ。

ここからどんどん盛り上がっていくぞって時に、電車が目的地に到着。大量の人に流されながら俺たちは電車を下りた。

改札を出ると、どこを見ても青いユニフォームばっかり。これ全員日本のサポーターなのか。こういう風景を見るたびに、サッカーっていうスポーツがどれほど人気なのか思い知らされる。

さぁ、ここからが勝負だ。手を…繋がないと////いざ言う場面になると、頭ん中真っ白でなんて言っていいか全然わからなくなる。さっきまで考えてた台詞が全部どこかへ飛んでいってしまった。

こういうときは、結人と英士いわく「行動あるのみ」らしい。

つまり…何も言わずに手を繋げと?できるかよ!そんなこと////

だけど、ここでやらなきゃいつやるんだ?俺も男だ!やってやる!!

俺はが少し後ろから付いてきていることを確認すると、タイミングを見計らって勢い良くの手を取った。

顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかる。それを見られたくないから、のことを振りかえれなかったけど、たぶんすごく驚いているだろうな。心臓が飛び出すくらいにドキドキしてる。

「さ、真田…くん?」

「////」

少し小さな声で呼ばれたけど、俺は返事をしなかった。別に聞こえてないわけじゃない。ただとてつもなく恥ずかしくて、なんて答えていいかわからなかったんだ。

しばらくの沈黙が続く。やっぱいきなりすぎたかな…と思っていたとき、俺の手がぎゅっと握られた。

が握り返してくれたんだ。

これ以上嬉しい事はなかった。人間何事もやってみることなんだな。俺の顔も熱かったけど、繋いだ手の温もりに勝てるもんはなかった。






















































しっかりと手を繋ぎながら、当然はぐれることもなく俺たちはスタジアムに着いた。

チケットを渡して、指定の席につく。まだ試合が始まるには時間があった。だけど俺は試合のことより隣にいるの方が気になってしょうがない。さっきまで繋いでた手にはまだ感触が残ってる。

お互いに一言もしゃべらずにその場は流れた。そしてついに、試合開始のアナウンスが放送された。

スタメンが発表されると場内のムードは一気に高まり、もの凄い歓声があたりを包んだ。

「真田くん」

俺たちだけが場違いのように静かだったけど、不意にが俺の名を呼んだ。

「楽しみだね、試合」

とても楽しそうに、嬉しそうに笑う。その笑顔を見て、俺の中にあった緊張もだいぶほぐれた。もうごちゃごちゃ細かいことを考えるのはやめよう。今日はと一緒にサッカーを見に来たんだから。

楽しまなくちゃ損だよな。

俺は大きく頷いて笑った。少し照れたように俺たちは笑いあう。幸せだと感じた。

しばらくして、試合が始まった。俺たちが電車の中で予想していたスタメンとほぼ一緒。二人で同時に驚きあった。

誰かがシュートを打つたび、日本がピンチになるたび、会場の盛り上がりに合わせて俺たちも嬉しがったりヒヤヒヤしたりする。そして――



『ゴーーール!!』



後半ロスタイム。絶妙なタイミングで出されたスルーパスを日本がそのまま押しこみ、決勝点が決まった。

「やったーー!!」

「よっしゃ!!」

俺たちはまるで幼い子供のようにはしゃいだ。お互い手を取り合い、歓喜の声を上げる。

嬉しさで胸がいっぱいだった。






















































「楽しかったね!試合!」

「まさかあんなに白熱するとは思わなかったな!」

スタジアムを出て、人ごみに押されながらも俺たちはなんとか目的の駅で降りる事ができた。

もう夜も遅いので英士に言われた通り、を家まで送る。

試合終了からだいぶ経つのに、俺たちの興奮は今だ冷めることはない。それどころかますますヒートアップしていった。

人通りのない道で、二人きり。夜空に笑い声が響く。

突然俺は、隣りを歩くが気になり始めた。今まで普通に話していたのに。

ちゃんと伝えなきゃ。が好きだっていう俺の気持ちを。俺、ヘタレだし口下手だけど、このまま終わりにするなんてできない。結人が作ってくれたこのチャンス、英士が教えてくれたデートの仕方。

無駄にしちゃいけないよな。

!」

俺は立ち止まっての名を呼ぶ。少し前を行っていたは俺の方を振りかえった。

「なに?」

にこっと笑うその笑顔だけで、もう顔が赤く染まる。頭が大パニックで心臓が早く脈打っていた。

ここで諦めちゃいけない。俺は両手をぎゅっと握りしめてを見つめた。

「お、俺…」
























いつも優しく笑っている
























のことが、す、す///」
























世界中の誰よりも










































































「好きなんだ!!!」
































































一気に言ったその言葉は、夜の道に溶ける。はビックリした表情を浮かべて何も言えずただ俺を見ていた。

あ〜〜〜!言っちまった!サッカー観たあとだったから興奮してその勢いで言っちまったのかも;それにしても、よく言えたな…。

ドキドキが早すぎて、自分でも少し驚いている。俺は今にも倒れそうになりながら、の返事を待った。

やっぱり…ダメだったかな。

そう思って前に立つを再度見た。すると、は俺の好きなあの笑顔で綺麗に笑った。

そして――








「私も」








え…い、今……

「なんて…」

「私も、真田くんのこと好きなの」

照れくさそうに笑うがたまらなく愛しくて、俺はそのままを抱きしめた。

「さ、真田くん///」

「ありがとう」

「え?」

「俺、口下手だし女の子と話すこと苦手だし、そんな俺を好きって言ってくれてありがとう」

腕の中にある俺だけの温もりが愛しい。俺がそう言うと、は腕の中から俺を見上げた。

「私嬉しかったよ。真田くんがサッカー誘ってくれて」

…」

「だから私の方こそ、ありがとう」

俺ももお互い真っ赤になりながら、笑い合う。

そしてどちらからともなく、キスをした。











君を僕だけのものにするための7日間は













僕が君をもっと好きになる7日間






fin





ヘタレ一馬の告白大作戦。よかったね、一馬。

花月