窓越しに見える平和な国
いつかこの街に下りてみたくて
毎日眺めているけれど
私の願いは
叶わない
ローマの休日
ホイッスル王国。優秀なお妃様が国を治める、それはそれは平和で豊かな国。その王室には、4人のお姫様がいた。
その中でも特に美しく、優しい心の持ち主。第四王女の。その美しさゆえに、今は亡き王様から城の外へ出てはいけないと言いつけられていた。
上の姉たちが出るパーティーにも出席せず、ただ城から平和な国を眺めるだけの日々。そんな毎日が、にとってはとても憂鬱でならなかった。
「さて、今日も国は平和かしら」
毎朝起きるとすぐに、は窓を開けて外の景色を眺める。城から出られない分、外の景色を眺めることはにとって唯一の楽しみであった。
行き交う人々、畑を耕す農民、活気ある市場。どれもにとっては憧れの存在。早く外の世界へ出て、味わってみたい空気。
いつ見ても王国は平和だった。毎日が同じ平和な国。しかし、それですらは楽しんでいた。王国が平和なのはとてもいいこと。幸せな気分になれた。
そして最近、には新たな楽しみが増えた。それは・・・。
「あ、今日もいるわ」
最近この城下町に引っ越してきたらしき人たち。小さな家を持ち、小さな畑を耕して暮らしている。
そこには少年が3人住んでいた。いや、正確に言うとが見たのは3人の少年だけだ。
は毎日3人が繰り広げる行動をそれは楽しそうに見つめている。もちろん声など聞こえない。だが、それを差し引いてもおもしろいものだった。
会話が手に取るようにわかる。身体の大きな少年が、毎日のように迷彩帽をかぶった少年に追い掛け回されていた。
そしてそれをただ傍観するだけのもう一人の少年。
一見相性があっていないように見えて、実は互いが互いに信頼関係を築いていることを、は感覚で感じ取っていた。
「私もあんな風に楽しそうな生活を送ってみたいなぁ・・・」
ふっと笑みをこぼしたと同時に、呟く。その願いはあまりに儚いものだった。
と、そのとき。大きな部屋のドアがノックされる。急いで窓を閉じ、はいと小さく返事をした。
「失礼いたします。様。上のお姉さま方がパーティーへ出かけられますので、お見送りを」
「わかりました」
今日は3人の姉達が、朝から隣の王国で開かれるパーティーへ出かけることを、はすっかり忘れていた。
急いで服を着替え、召使いを従えてエントランスへと向かう。少し息を切らしてたどり着いた頃には、着飾った姉たちが城を出るところだった。
「、おはよう」
「おはようございます、お姉さま」
淡い水色のドレスを着て微笑んでいるのは長女の。優しく温和な性格のがは大好きだった。
「遅いじゃない。何をしていたの?」
「どうせまた街でも眺めていたんでしょう?」
とげとげしい言葉を放つのは次女の楓と三女の葵。と違って少し厳しい性格の持ち主。そんな姉たちの言葉に、は黙って俯くことしかできなかった。
「楓、葵。そんなこと言ったらが可哀想でしょう」
「しかしお姉さま・・・」
「いいから二人は先に馬車へ行ってなさい。私は後から行きますから」
「・・・わかりました」
二人の姉が大きな扉から姿を消す。取り残されたは黙って下を向いたまま、その場に立ち尽くしていた。
そんなをは優しい笑顔で見つめる。
「、少しお話したいのだけれどいいかしら?」
「しかしお姉さま・・・パーティーに遅れてしまいますわ」
「いいのよ、そんなこと。それより今は大事な妹と話がしたいの」
「お姉さま・・・」
はいつもの味方だった。が城の外に人一倍憧れを持っていることも、毎朝城下町を眺めていることも知っている。
そんな妹を不憫に思っていた。できることなら城の外へ出してあげたい。パーティーへ行くとき、見送りに来てくれるの顔は、どこか寂しそうだったから。
二人はの部屋に移動した。召使いにお茶の用意を頼んだあと、はにそっと話しかける。
「楓と葵の言ったことは気にしないほうがいいわ。街を眺めることは、とてもいいことだと思うわよ」
「しかしお姉さま。私はお城から出ることを禁じられているにもかかわらず、こんなにも外に出たいのです」
「わかっているわ。ねぇ、聞かせてくれない?」
「え・・・?」
「が見た街の景色、きっと素晴らしいものが見えているのでしょう?」
の顔が一瞬にして笑顔に変わった。も優しく微笑んでいる。
そしては、嬉しそうに、楽しそうにへと街の様子を伝えた。
市場、農民、そして最近越してきた楽しそうな3人の少年。
どの話も、は笑顔で話した。こんなに楽しい会話は久しぶりかもしれない。は、の笑顔を久しぶりに見た気がした。
特に3人の少年の話をしているときのは、光り輝いていた。
「とても楽しい方々なのね」
「はい!見ていてとても楽しいんです!」
こんなに楽しそうに話すなんて・・・。やっぱりこの子は外の世界が・・。
はお茶に手をつけて、真剣な表情を見せた。その顔つきにが話を中断する。
「、城の外へ出たい?」
「・・・・・」
言葉を失った。それは一番聞かれたくないこと。
出たいという願望は抑えられない。しかし、それが無理なこと、はしっかり理解している。
どうしようもない葛藤がめぐっていた。
「本当のことを言っていいのよ?」
「私は・・・」
活気溢れる外の世界へ――
「外に、出たいです・・・」
言ってしまった、とは後悔した。亡き父上からの遺言。それを今、自分は破ろうとしている。
はふっとため息をついてを見つめた。そして2,3回りを見渡してそっとの耳元でささやく。
「私が出してあげます」
「!!」
はまた、言葉を失う。まさかからこんな言葉が出るなんて思ってもみなかったからだ。
唖然としているに対しては笑みを絶やさない。なにかいい方法を思いついているようだ。
「大丈夫、私にまかせなさい」
「し、しかしお姉さま・・・!」
「。あなたもそろそろ外の世界というものを体験してもいい年頃だわ。しっかり世界を見つめて、成長して帰ってらっしゃい」
どこまでも優しいの言葉は、の胸に強く響いた。
そしては深深と頭を下げる。
「ありがとうございます、お姉さま」
「いいのよ。それより、早く支度をしなくてはね」
「支度?」
「ええそうよ。お城から出るための秘策、に教えてあげるわ」
そう言っては立ち上がった。
そのしっかりとした言葉には微笑む。
やっと願いがかなうんだ。の胸は喜びに満ち溢れていた。
カズさんたちが出てきてない!すみません!次回は出します!この場面は最初からAあたりまでです。

