城の窓











そこに座っているのは











見知らぬ誰か











その人は











とても











うらやましそうにしていた













































































ローマの休日

















































































この国に城下町に引っ越してきてから早1ヶ月。ようやくこの街にも慣れてきた。

毎日が平和で平穏、何も変わらない。今日も畑を耕し、昭栄を怒鳴り、ヨシがそれを止める。そんな日々が続いていた。

ただ、引っ越してきてからずっと気になっていることがある。それは、この街の中心に聳え立つ巨大な城。

その窓から、毎日飽きもせず誰かが城下町を見下ろしていた。俺達の家は正面に城が窺える、とても立地条件のいい土地に立っている。その所為か、城の様子がよく見えた。

確かこの国には4人の王女さまがいるという。しかしその人(たぶん女だ)は王女さまたちが隣国のパーティーに出かけても、ずっと窓から外を眺めている。

使用人なのか、それとも王女さまの一人なのか。身元ははっきりしなかったが、俺はとても不思議だった。

俺達とは違い、全てが揃っている王室。欠けたものなどないはずなのに、その人はひどくうらやましそうに城下町を眺めていた。

いや、厳密に言うとうらやましそうに感じるだけだ。俺だって化け物じゃない、城の窓から外を眺めている人の顔なんて見えるわけがなかった。

でも、これはほぼ確信に近い。なぜかわからないけど、その人は俺達をうらやんでいる。こんなちんけな生活をしている俺達を。

今日もまた、あの人が街の風景を眺めている。楽しそうに、悲しそうに。その複雑な雰囲気は、俺達が王室をうらやんでいるのと似ていた。

俺達にあって王室に足りないもの。それはなんだろう。俺もまた、その人を見つめて考える。だけど、未だに答えは出ていない。

「カズさん、またボーっとしとぉとです。よっさん」

「ほっとけ、カズもそういう年頃やけん」

「アホかお前ら。どういう年頃や。それより、早う畑ば耕さんね」

ヨシと昭栄の会話で我に返った俺は、また畑を耕す。それでも俺の思考は止まらなかった。あの人が気になってしょうがない。

その人はまるで、鳥篭に閉じ込められた美しい鳥のように見えた。出たくても出られない。ただ、大空に羽ばたきたいだけなのに、それすら叶わない。

その代わり、充分な安全が保障されている。俺達とは真逆だ。

俺達は自分たちの努力が全て。努力しなければ食べていけない。その代わり、国のいたるところへ行くことが出来る。その気になれば何でも出来た。

どちらがいいかなんて、俺にはわからなかった。

「さて、休憩するか。昭栄、茶ば持ってきぃ」

「うっす、よっさん!」

昭栄が家の中へ入っていくのを見届けたあと、俺とヨシは大きなまるたに腰を降ろす。一通り汗を拭うと、また城の窓が目に入った。

目が合っているのかすらわからない、それでも俺は気付いてほしかった。なぜかはわからない。けど、俺たちという・・・いや、俺という存在に気付いてほしい。

そうすれば、きっと何か変わるはずだと、根拠のない自信があった。

「カズ、最近お前変やな」

「変やなか。普通ばい」

「城の窓」

「・・・・・・・・・」

「図星やな」

ヨシは笑って俺と同じ目線になった。その先には、窓の外を眺める女の人が一人。

「あの人が気になっとるんやろ?」

「そげんこつ・・・」

「ある。ことあるごとにあの人ば見とるけんな。あの昭栄ですら気付いとぉ」

バレれた。そりゃ、あんなに見てたら気付くよな。でも、どうしても気になるんだ。どうしてだろう。こんなにも、あの人のことが知りたい。

「なぁ、ヨシ」

「ん?」

「王室になくて俺たちにあるもん。なんやと思う?」

ずっと前から考えていた疑問をヨシにぶつけてみる。ヨシはしばらく考えたあと、ふぅと一つため息をついて空を見上げた。

「そげんこつ、本人やないとわからんもんや。人は立場や地位によって考え方が変わるけんな」

「あの人は、俺達をうらやんでるんやろか」

「さぁな。そうかもしれんし、ただ見下しとぉだけかもしれん。それは、あの人だけが知っとることや」

人にはそれぞれの悩みがある。俺達が王室にあこがれるように、あの人もきっと俺達にあこがれている。手の届かないものを望むのが、人というものだから。

見下しているだけなら、まだ理由はわかる。だけど、うらやんでいるのならなぜ・・・。

「カズさん!よっさん!お茶もってきたとです!」

「おう、ごくろうさん」

人がせっかくいろいろな思考をめぐらしているときに、こいつはいつもバカでかい声を上げる。少し怒りを覚えつつ、俺は昭栄の淹れた茶をすすった。

昭栄も勢いよく俺の隣に腰をおろし、元気に茶を飲み干した。そしてヨシと同じように、城の窓を見上げる。

「また見とぉとですね、カズさんの想い人」

「想い人やなか!こんアホ!」

「痛っ!殴らんでくださいよ!」

「お前がアホなこつぬかすからや!」

「まぁ落ち着け、二人とも」

幾度となく繰り返してきたこの掛け合いも、今ではすっかり慣れてしまった。ただ最近は、昭栄を怒鳴る回数よりも城を見つめる回数のほうが増えた気がする。

想い人ではない。けど、気になっているのは確かだった。

しばらくして、遠くのほうから数台の馬車が向かってくるのが見えた。俺達は慌てて立ち上がる。馬車はどんどんこっちへ向かってきて、俺達の家を通り過ぎた。

「なんすか?あれ?」

「アホ!早う頭下げ!」

昭栄の頭を無理やり下げさせ、自分も深々と頭を下げる。この馬車には王室の印が記されていた。つまり、王室の方が乗っているということだ。

頭を下げないと、無礼者といわれ刑を受けかねない。内心少し冷や冷やしながら、俺達は馬車が通りすぎるのを待った。

やっと王室一族が通り過ぎ、頭を上げると俺達は一斉に安堵のため息をついた。

王室の馬車が通るときは、大抵隣国のパーティーに出席するときだ。ということは、やっぱりあの人は使用人なのだろうか。それならなぜ、外を眺めるのか。

ますます謎が増えてしまった。どうして、なんで。そんな単語が頭を駆け巡る。

「王女さまたちがパーティーに行かれたってことは、あの人は王女さまやなかってことか?」

「でもよっさん、王女さまって4人おるとやなかですか?」

「やけん、その4人があの馬車に乗って・・・」

「あん馬車には3人しか乗っとらんかったとですよ」

「「なにぃ!?」」

昭栄の言葉に、俺とヨシは揃って大声を上げた。

「おまっ・・!馬車の中見たんね!?」

「本当に3人しかおらんかったのか!?」

ヨシはなんて無礼なことをしたんやと嘆いていたが、俺は違った。昭栄の言うとおりあの馬車に3人しか乗っていなかったのなら、窓から外を眺めているあの人は王女である可能性が高い。

それならあの人の身元はすぐにわかるだろう。隣国のパーティーに行かない王女。きっと街の人なら誰か知っているだろう。

ヨシが昭栄に説教をしている中、俺は一応昭栄を殴っておいた。いつものグーではなく、パーで。

「なしてカズさんまで殴るとですか!?」

「せからしか。ホラ、仕事再開せんね」

俺はまた鍬をもって畑を耕していく。あの人はまた城のそとを眺めていた。いったい4人のうちのどの王女さまなんだろう。けど、きっと優しい心の持ち主なんだろう。

俺の目には、そう映っていた。

















今度はヒロインが出てない・・・(泣)すみません;次回は出会いますので!ここはCの部分です。軽やかな感じはカズさんたちの掛け合いということで。

花月