わからないことがたくさんある
だけど、それはみんな同じなんだ
これから先のことなんて誰も知らない
もしかしたら
神様ですら、知らないのかも
+黒い涙と白い月+
「!!」
ドアの開く音と共にが勢い良く入ってきた。痛い首を声のしたほうに向けて、私は力なく笑う。
「大丈夫なの!?もう、心配したんだからね!!」
大きな瞳に涙をいっぱいためながらは私の傍に駆け寄った。
心配かけちゃったんだなぁ・・・ゴメンね、。
「、起きたの?」
開けっ放しのドアから有紀がひょこっと顔を出す。
「有紀もも心配かけちゃってゴメンね」
「具合はいいの?一応渋沢にみてもらったから平気だとは思うけど、どこか変なとこある?」
「ううん。大丈夫だよ。ありがとう」
私が少し微笑むと、有紀とも笑顔を見せてくれた。相変わらず可愛らしい!はぁ〜和むわぁ・・・。
「あ、そうだ。二人ともヘッドがお呼びよ。、行ける?」
西園寺さんが?なんだろう、トーナメントのことかな?
「うん、私は大丈夫♪」
「OK!それじゃ、着いてきてね」
有紀とに続いてベッドから飛び起きると、思ったほど身体に違和感はなかった。さすが、W・Mの医療班。
部屋を出ると、相変わらず窓のない細長い廊下が続いている。ここに来てからけっこう時間が経つけど、未だにこの薄気味悪い感じには慣れなかった。
しばらくして、西園寺さんのいる部屋――本部管理室に着いた。少しだけ、緊張感が漂っている。
「小島有紀です。、の両名をお連れしました」
背筋を伸ばして有紀が言うと、中から凛とした声が返ってきた。
「「失礼します」」
私たちは一礼をして部屋に入る。部屋の中央にある大きなデスクには麗しい西園寺さんの姿があった。
「トーナメントご苦労様。、今回は災難だったわね。身体の方は大丈夫なの?」
「はい、おかげさまで」
「そう。それは良かったわ。今回の件でわかったと思うけど、B・Tはいつどんな形で襲ってくるかわからない。貴方たち二人はもうW・Mの一員よ。それも戦闘の部類に入ることになる。つまり、貴方たち自身に直接攻撃してくるB・Tがいてもおかしくないの」
真剣な目つきで話す西園寺さんの言葉には、かなりの重みと説得力があった。
「つまり、私たちは今とっても危険な立場にあるのに実力があまりにも乏しすぎるってことですよね?」
私の隣でが言う。この確信を着いた言い方がなんともらしい。
「そういうことね。だから、貴方たちにはこれから自分の力を最大限に生かして戦ってもらいます。有紀、あれを」
「はい」
西園寺さんが私たちの少し後ろにいた有紀に何かを持ってくるように伝えると、有紀はドアの近くにある棚らしきところから、二つの箱を取り出した。
一つは長細く、大きめ。もう一つはそれより少し小さい。どちらとも三日月の紋様が施されている長方形の箱だ。
・・・これは?
「貴方たち二人に、私から武器を授けます。まずは、貴方から」
有紀がの前に大きめの箱を差し出す。ふたを開けるとそこには真紅の棒が入っていた。どこかで見たような形をした、なんとも珍しい棒だった。
「それが貴方の武器、如意棒よ」
「如意棒!?それって孫悟空とかが使ってるような、あれですか!?」
あまりにも意外な武器だったので私は思わず驚きの声をあげる。他のみんなが持っているのは大体が西洋系のソードや弓だったので、こんなに古典的なものがくるとは思ってもみなかった。
私の反応をまるで予想通りだとでも言うように西園寺さんは口元に艶やかな笑みを浮かべる。
「その如意棒は貴方のために作った特別製よ。だから、貴方の意思一つで伸縮、大小も自由に変えられるわ。さらに、炎、氷、風、地の4つの属性を操ることができるのよ」
「え、でもどうやって・・・」
「使い方は戦いながら覚えていけば良いわ。大丈夫。貴方ならできるはずよ」
そう言い切った西園寺さんの顔は自信に満ち溢れていた。
は力強くうなずくと箱の中から如意棒をつかんだ。
「そして、。貴方の武器はこれよ」
有紀が小さい方の箱を開ける。黒いクッションの上には神々しく輝くブレスレットがあった。
あまりの輝きに一瞬目を閉じかけたが、次第に目がなれるとそのブレスレットの姿があらわになる。
全てが銀色で出来ていて、先のほうが少し丸まっている、少し変わった形をしていた。
「この武器は代々、W・Mの限られた人しか使うことができない武器なの。今W・Mに属している人たちの中でこのブレスレットを操れる人はいなかった。でも、白月の姫である貴方なら・・・」
これは賭けなの、と西園寺さんは口元で手を組んだ。もう一度ブレスレットを見る。ただならぬ威圧感をこのブレスレットから嫌というほど感じ取ることができた。
緊張のあまり少し震える手で私はブレスレットに触れ、そのまま左手の手首にはめる。
腕につけた瞬間、ブレスレットは鋭い光を発した。部屋が一瞬にして光に包まれる。私は思わず目を閉じた。
「っ・・・・!」
痛い目をそっと開けると、私の腕にはブレスレットがぴったりとはまっていた。
「おめでとう。貴方はブレスレットに認められたわ」
「それじゃあ、は!!」
「ええ。そのブレスレットを貴方の武器として認めます」
「よ、よかったぁ〜」
緊張が一気に解けて、私はへなへなと座り込む。それをしょうがないなという目でが見つめた。
もしこのブレスレットが私に会わなかったら、きっと私は戦闘部から外されてしまっていただろう。
そうしたら、もうたちと戦えない。私の決意が崩れてしまう。
それだけは、どうしても嫌だった。
「西園寺さん。このブレスレットの効果は?」
が目をらんらんと輝かせながら言う。まったく、何にでも興味を示すんだから;
まるで子供みたいだ。あ!まぁ、まだ子供なんだけど・・・
「実は、まだそのブレスレットの能力はわかっていないのよ」
「「「は?」」」
部屋にいた3人の声が重なる。わかっていないって、それじゃあ私はどうやって戦えばいいの!?
「その武器は遺跡の跡地で見つかったものなの。私たちも今までずっと調査してきたんだけど、どうにも解読は難しくて・・・。それに、使いこなせる人もいなかったからね」
少し困ったような顔をして西園寺さんが手を頬に当てる。つまり、私が始めてってこと?
「もちろんこれからもそのブレスレットの能力は調査していくつもりよ。その間はもそのブレスレットでいろいろ試してほしいの。わかるわね?」
「実戦で試せ、ってことですよね」
にっこりと綺麗な笑顔を向ける西園寺さん。つまりはその通りって意味。
はぁ〜私はもっと頼もしい武器が欲しかったけど・・・。まぁ、何はともあれたちと戦えるだけで十分か!
ブレスレットを見せながらありがとうございますと頭を下げると、それに続いても頭を下げた。
「ふふ、期待してるわよ。二人とも」
その笑顔に顔を上げた私たちは思わず赤くなってしまった。
「それじゃあ、早速明日からその武器の使い方を知るためにも能力テストを・・・」
「ああ!!!!!!!!!!」
西園寺さんの言葉を切ってが突然大声を上げた。全員がびっくりした顔でを見つめる。
「ど、どうしたの?」
「テストよテスト!!!私たちもうすぐテストじゃん!!」
「あぁ、そういえば」
こっちの世界に来てからいろんなことがありすぎて、すっかり現実世界のことなんて忘れていた。確かに私たちの学校ではもうすぐテスト期間に入る。
まぁ、どうでもいいことだけど・・・
「どうでもよくないわよ!あんたは秀才だから何の問題もないでしょうけど、私はこのテストで一つでも赤点とったら今月のおこづかいもらえないのよ!?」
涙目で私の肩をつかんでぐらぐらと揺らす。くっ!のやつ、さっそく霊視の能力使ったわね・・・!
私の心を勝手に読むなぁ!!
「あ〜欲しい服あったのにぃ!!」
ようやく私の肩を離したかと思うと、今度は天井に向かって叫び始めた。、そんなに悲しまなくても。
「そうね、そろそろ貴方たちも向こうの世界に帰らなくてはいけないわね。トーナメントで疲れたでしょうし、しばらく元の生活に戻るのも悪くないわ」
西園寺さんは立ち上がると、私たちの肩をポンと叩いた。
「、。貴方たち二人に現実世界での観察調査を命じます。有紀、その間は護衛をよろしくね」
「西園寺さん!」
「ホントですか!」
「ええ、じっくり休んでらっしゃい」
綺麗に微笑む西園寺さんはまさに天使のようで。
「「やったぁ!!!」」
私たちは手を取り合って喜び合った。
本部管理室をでて、私たちは現実世界への入り口へと足を進めていた。
「は〜帰ったらテスト勉強かぁ・・・」
深いため息とともにががっくりと肩を落とす。
「別にどうでもいいじゃん、テストぐらい」
「だから!今月のおこづかいが!」
「あ〜はいはい;」
再び涙を浮かべながら私に向かってくるをなだめつつ、私たちは先を急いだ。
「あ、でも・・・」
「どうしたの?」
有紀が私の顔をのぞきこむ。
「もしかしたら、テスト終わってるんじゃない?」
「えぇ!?なんで!」
「だってさ、こっちに来てからかなりの日にちがたってるし。もしかしたら、捜索願とかまで出されてるかも」
もっとも、私の家が私を探すなんてことはないと思うけど。
心の中にちょっとだけ闇が広がった。それを振り払うように、頭を強く振る。
「?大丈夫?」
が私の不安を察したのか、心配そうな顔をした。やっぱりには隠し事、できないなぁ。
「ごめん、なんでもないよ」
ぎこちない笑みを浮かべながら私は再び話題を戻す。
「で、そこんとこはどうなの?有紀」
「その点は心配いらないわ」
有紀は胸を張って自信満々に言い放った。お〜すごい自信!
「こっちの時間と現実世界の時間帯は全然軸が違うの。だから、こっちでの1年は現実世界の3日ってとこかしら。だから、今はまだ一日が終わってないわよ」
っとなると・・・あの椎名翼事件の日からまだ日付が変わってないってこと!?
うれしいような、悲しいような、不思議な気持ち。
「ということは、私たちは親に怒られることも学校に遅刻することも欠席することもないってわけね!やったぁ!まだテストに間に合うv」
ガッツポーズをとってが軽くジャンプする。茶色い髪が風に揺れた。
そんなことを話しながら歩いていくと、いつか見たトンネルが姿を現す。
「しばらくはこっちの世界ともお別れだね」
「そんなことないわよ。どうせまたすぐに呼び出されるんじゃない?」
「え〜なんで?」
「なんとなく。勘よv」
有紀との会話を聞きながら私はすぐ目の前に聳え立つW・Mのビルを見つめた。
今回のトーナメントで私はいろいろなことを知らなくちゃいけないような気がした。
W・Mのこと、B・Tのこと、過去になにがあったのか、Dispar of nightmareとはなんなのか、白月の姫、黒涙の君の存在、それに・・・
私は一体何者なのか――
今はまだわからないことだらけで、たくさん矛盾もある。だけど、その矛盾が全て解けてこの世界に隠された謎が全て明らかになったとき。私たちはどんな末路をたどるのだろう。
ビルは私の不安を見透かすように、堂々と暗闇に立っていた。
B・Tの総本部。普段はB・Tに属するものでもほとんど利用しないこのビルに、一人の男が入って行った。
明かりなどほとんどないこのくらい廊下を迷彩帽の少年――カズは黙々と歩く。
その目には鋭い光が宿っていた。
しばらく先を進むと「立ち入り禁止」と書かれた黒い大きな扉がゆく手を阻んだ。冷や汗が流れる。
カズは上から下までその扉を眺めたあと、己の武器である弓を構えた。
-シュッ!!-
小さく鋭い音と共に、弓矢は扉の中心へと突き刺さる。その瞬間、弓矢の回りには人が一人やっと通れるくらいの穴が開いた。
カズは弓を持ったまま穴から扉の中へと入っていく。どうやら、警報装置などの類はないようだ。
あまりに広く、あまりに静かなその部屋を慎重に進んでいくと、前方になにやら巨大な物体が立っているのが見えた。
暗くてあまり見えないが、その物体に近づくにつれて徐々に全様が明らかになっていく。
そして――
「な、なんね・・・これは」
部屋の天井まで届きそうなくらい巨大なガラスの箱を見て、思わず声をあげる。
箱の中は赤い透明な液で満たされており、その中心には黒涙にも似た大きな丸い水が漂っていた。
カズもB・Tに入って日が浅いわけではないが、それでもこんなに大きな黒涙をみたのは初めてだ。
引き込まれそうなその黒にしばし目を奪われる。
(もしかして、こん黒か水は・・・)
カズがガラスの箱に手を触れようとしたそのとき。後ろから石を踏む音が聞こえた。
ハッとして勢い良く後ろを向く。どこまでも続く暗がりには、背の高い人影が写っていた。
「おいおい、ここは立ち入り禁止だって扉に書いてなかったか?」
笑いを含んだ声を響かせる人影が、月明かりに照らされる――
「きさんは・・・っ!!」
そこには、不適な笑みを浮かべる三上亮の姿があった。


