神様、私がわるいのでしょうか
確かに、退屈退屈といっていました
そのことは認めます。でも…
だからといって、こんな非現実に放り込まなくても
いいじゃないですか!
+黒い涙と白い月+
あれ…?なんだろうここ。なんで私、こんなところにいるの?
あ〜頭痛い…ってか、身体中が痛い。どうしたんだろう?
「あ!気がついたと?」
気がつくと、目の前には見知らぬ天井と見知らぬ美形少年。
どこだっけ、ここ。誰だっけ、この人は。
頭をフルに回転させて思い出そうとするけど、思い出せない。私は一体どうしたんだ!?
「みっくん〜! ちゃんが目ぇ覚ましたと〜!!」
大柄の少年は大声でみっくんという少年を呼んだ。
あれ?なんで私の名前知ってるの!?もうわからないことだらけだよ・・・
少し経って、黒髪の少年が現れた。少しつりあがった目にストレートな髪。…モデル?
「よう、気分はどうだ?」
「はぁ、おかげさまで…あの〜ここは一体?私は何故ココに?」
私がそう言うと、二人はまるで爆弾を投下されたように固まった。
「……・もしかして、覚えてない?」
「ええ、全く」(キッパリ)
「「…………」」
しばらくの沈黙の後、みっくんと呼ばれる少年はため息をついて肩を少し落とした。
「これやるの、疲れるんだけど…しかたないか」
そう言うが早いか、少年は私の頭をガッとつかんだ。
「わ、わぁ!!」
「大丈夫だって、少し記憶戻すだけだから」
んなこといったって!!私がまだ慌ててる間に、小さく呪文のようなものを唱えた。
彼の手が、白く輝く。
私の頭の中が一瞬真っ白になったかと思うと、今までの記憶が一気に流れ込んだ。
そうか。私、真由美に襲われたんだ…
頭から手が離れると、みっくんはフゥと息を吐く。
私はまだ、なにがなんだか分かっていないが今分かる事が一つだけある。
私、拉致された…・!!
大体この人達何者なんだ!?さっきからいろんな技使ってるし、人間ッぽいけど中身は違いそう。しかもなんなんだこの美しさ!!みっくんと呼ばれる人の美しさもさることながら、昭栄という人も負けじとカッコイイ!
ジャ○ーズか?これはジャニー○の収録かなんかなのか!?
誰か教えて〜〜〜(泣)
「 ちゃん、さっきからなして一人で百面相しとると?」
「え、あ、べ、別に…それより、なんで私の名前知ってるの?」
「そげんこつ、調べたからにきまっちょる!」
し、調べられたのか…
私の不信感がさらに積もっていくのが分かった。
「まぁ、そのことは追々説明するとして。俺、日生光宏。んでこいつが高山昭栄」
「よろしくばい☆」
あぁ、まぶしい…こりゃさぞかし女性にもてるんだろうなぁ〜
「で、 さん。これからちょっとうちのリーダーに会ってもらいたいんだけどいいかな」
リーダー!?なんでそんな大それた人に会わなきゃなんないんだ!
内心、疑問と不信が入り混じってかなりドロドロしていた。ヤバイ…
日生君と高山君は私の反論も聞かず、ついてきてと私を連れ出した。
にしてもココはどこなんだろう。部屋をでると細長い廊下が続いていた。
まるでどこかの会社みたいだ。でも、その割に人が少ない。気配すらない。
どこを見ても窓が無いため、外の様子をうかがうことはできなかったが、夜だとは思う。なんとなく。
あ、そういえばお腹へったなぁ〜
などとくだらないことを考えている内に、立派なドアの前へと到着。
他の部屋とは違って木製の大きなドア。きっと社長室かなにか。
この中にリーダーとやらがいるのかな。
日生君がトントンとノックする。
「日生と高山です。 さんをお連れしました」
名前を呼ばれ、すこしドキドキしてきた。
「どうぞ」
中から聞こえてきたのは、透き通ったソプラノボイス。女の人?
立派なドアを開けてくれた高山君の後について部屋の中へ入ると、広い部屋の中に大きなデスクが置いてある。
そこに座っていたのはやはり女性。結構ゴツイ系のがめつい男を想像していた私は完全に肩透かし。
「日生、高山、ご苦労様。もう下がっていいわ」
軽く礼をして二人は出ていった。
モデル並のスタイルに大人っぽい雰囲気。強い目。整った顔。
女の私でさえ、赤くなってしまうような綺麗さ―
緊張しまくりの私に対して、社長さん(勝手に命名)は口元に豊艶な笑みを浮かべている。
「貴方が さんね?初めまして、西園寺と言います」
「は、はぁ…どうも」
噂通りかわいい人ねと誉められて少し照れる。なんかこの人に言われるとすごい嬉しい。
「時間が無いから、早速用件を言うわね。今回貴方を連れてきたのは、私達の力になって欲しかったからなの」
「力…?」
「そう。あなたも見たでしょう?貴方のクラスメイトが恐ろしい姿になってしまうところを」
不意にあの場面を思い出す。髪が私に襲いかかる瞬間、今まで感じた事のなかった恐怖を私は感じていた。
「あれは『BLACK TEARS』の仕業なの」
BLACK TEARS?黒い涙か。なんか胡散臭い…
「彼等は人が持つ様々な負の感情に付けこみ、その人を操る力を持っているわ」
「じゃぁ、真由美は…」
「そう。彼女は貴方に対する嫉妬の感情に付けこまれ、操られていたのよ」
「でも、なんでそんなことするんですか?」
西園寺さんは口元で手を組み、真剣な眼差しで私を見つめた。
「全人類を自分達の支配下に置くため」
すぐには信じられなかった。言っている内容は、どこぞのファンタジー映画に出てくるような事なんだけど、笑い飛ばせるような軽さはなかった。
まるで死の宣告を受けたように、重い。
「BLACK TEARSは操る人の体内に『黒涙』というものをはめ込むの。それを回収するのが私達『WHITE MOON』の仕事」
ますますわけがわからない。なんでそんな意味不明な仕事をしてる人達の仲間に誘われているの?
「なんでって顔してるわね。それは、貴方が特別な存在だからよ」
よ、読まれた…!エスパー?それより、特別な存在って…私なにもできないけど。
日生くんや高山くんみたいに特殊な能力があるわけでもないし…ん??
「気がついたみたいね。そう、貴方は無意識のうちに力を使っていたのよ。」
あの白い半透明の膜が、私の力…
「B・TとW・Mの争いは、つい最近始まった事じゃない。太古の昔から私達は幾度となく争いを続けてきた。でも、私達には黒涙を回収するだけが精一杯。それを元に浄化することはできない。それができるのは、貴方だけなの」
「ちょ、ちょっと待ってください!私はただの女子中学生ですよ?私にそんなことできません!」
「確かに貴方は、ただの中学生だったわ。でも、あの事件をきっかけに貴方は目覚めてしまったの」
「目覚めたって…・?」
西園寺さんは静かに足を組みなおした。
「貴方は――――――」
「『白月の姫』!?」
「それホントかよ!三上!」
荒廃の進んだ廃墟に、複数の人影がある。彼等は思い思いのところに腰掛け、三上という男の話しを聞いていた。
「あぁ、間違いないぜ。ちゃんとこの目で見てきたんだからな。あの力は間違いなく白月の姫だ」
長めの前髪を掻き上げながら、少しタレた目を閉じる。月明かりに照らされた顔はとても整っていた。
「 かぁ〜!めっちゃ可愛かったんだろ?俺も見たかった〜」
ふわふわした茶髪の少年が拳を握り、熱弁を振るう。
「若菜はいっつもそればっかだな;」
古い柵にもたれ掛った三上が小声で呟いた。
「でも、それまずいんじゃないか?白月の姫がやつらにつくと、こっちが不利になるぜ」
ストレートの黒髪につり目の少年が、隣りにいるカリアゲの少年に聞く。
3人とも、三上に負けないくらいの美形だ。
「確かに、一馬の言う通りだね。こっちも早めに仲間にしたほうがいいんじゃない?」
「やっだな〜英士!そうじゃないでしょ?」
黒髪を逆立てた少年が、にこやかに言う。
「どういう意味だよ、ユン」
若菜が聞くと、潤慶はさも嬉しそうに答える。
「邪魔な奴は消せ、ってね♪」
普通の人が聞いたら、その場に凍りついてしまうだろうこの冷たさ。しかし、ここにいる彼等はその言葉を聞いて、楽しそうに笑った。
「じゃあ、次は僕が行くよ」
大きなコンテナに乗っていた小柄な少年がいう。少しくせのある濃いめの茶髪がどこからともなく吹いてきた風に揺れる。
「椎名か…どうする気だ?」
「まぁ、情報収集ってとこかな。どんなやつか、見てきてやるよ」
そう言って笑った顔は、天使のように美しかった。その悪魔のような内面とは裏腹に―
「ずっりーよ!俺も ちゃんに会いたい!!なぁ!今から会いに行こうぜ!」
「いいかもね。俺も興味あるし」
「あはは☆じゃ、4人でいこっか!ね、一馬!」
「別に…・いいぜ///」
4人の影が音もなく消え去り、その場は再び静寂に包まれた。
白月の姫。B・Tから回収した黒涙を浄化できる特別な存在。
西園寺さんがいうに、私はその白月の姫なんだそうだ。
一通り説明を受けた私は、すぐに答えを出さず、頭の整理がつくまで待って欲しいとたのんだ。
わかったわと彼女はOKを出してくれたが、なるべく早くねという言葉も忘れなかった。
社長室をでると、日生君と高山君がドアの前で待っていた。
「話しを聞いた感想はどうだ?」
「う〜ん…まだよく分かってないから・・」
「俺達も最初はそうだったと!」
彼等も世界は違えど、元はといえば普通の人間だったんだそうだ。けど、なんらかのキッカケで力が目覚めたところを西園寺さんにスカウトされたらしい。まぁ、全部西園寺さんから聞いた話だけど。
「というわけで、俺達が一応護衛役になったから。よろしくな!」
「ご、護衛…役?」
「聞いてなかと? ちゃんの体制が整うまで、俺達が守るばい」
あぁ…そういえばそんなこと言ってたような…。頭混乱しすぎて、所々聞いてなかった。
「このことはB・Tのやつらも当然知ってるはずだから、仲間に誘うかもしくは――」
「始末する…でしょ?」
二人の顔が神妙になり、悲しくなる。そんな二人を元気付けるように私は言った。
「大丈夫!!一応武道の心得はあるし、みすみすやられるような奴じゃないから!」
二人は笑う。心なしか、少し顔が赤かったような気もするけど。
そうしているうちに、私達はビルの外に出た。外から見ると、やっぱり大きい…
でも、なんでこんな大きいビルが建っていたのに、私は気付かなかったんだろう。
「それは、ココが現実世界であって現実世界でないからさ」
え……・?
後ろから聞こえたのは、日生君の声でも高山君の声でもない。私達は同時に振りかえる。
「久しぶりだな。日生、高山」
「あ〜!!その子が白月の姫?やっぱ可愛いなぁー!!くぅ〜!お前等にはもったいねーよ!」
つり目の少年とその隣りにいた茶髪の少年が言う。
二人の言葉からして、どうやら私達の事を知ってるらしい。でも、味方…ではなさそう。
ということは――
「ご名答。俺達はB・Tの人間だよ」
凛とした感じの少年が、静かに言う。声からして一番最初にしゃべったのはこの人らしい。
「な、なんで答え…B、T?」
「あいつは郭英士。人の心を読む力を持ってるんだ」
日生君が小声で私に言う。
人の心を…読む?私は西園寺さんが言っていた特殊能力という言葉を思い出した。
まさか、B・Tにもそんな人がいるの?
両隣にいる二人から、とてつもない緊張感を感じる。
それもさることながら、目の前にいる4人からの威圧感も相当なものだ。
「やだな〜そんなに構えないでよ。今日はちょっと挨拶しにきただけなんだから」
黒髪を逆立てた少年がいう。顔は笑ってるけど、あきらかに黒いものを感じた。
「初めまして、 サン。俺は、郭英士」
「若菜結人!よろしくな!」
「…・真田一馬」
「李潤慶デス☆」
なごやかに挨拶をしていった4人。だけど、その間も威圧感は与え続けている。
怖い――
「顔見せも終わったし、今日はこれで帰るよ」
「せいぜい守ってやるんだな、そのお姫様を――」
「バイバイ☆」
そう言い残し、彼等はすっと闇に消えて行った。
すると、間髪いれずにドサっという音がして、両隣の二人が地面に座りこんだ。
「フゥ〜…焦ったと;」
「4対2じゃ、勝ち目ないもんな〜」
私は彼等に会ってからずっと握り締めていた手のひらを開く。
手に汗握るとは、このことだなぁ…なんてのんきなことを思っていた。
青白い月が私達を包み込んだ。


