あの子にはどうしても勝てない


あの子にはどうしても敵わない


それでも私は


あの子の傍にいたかった――


























































黒い涙白い月





























































B・Tの人達に会ってから、私は日生君と高山君に送ってもらった。

郭英士っていう人が言っていたように、ここは現実世界であって現実世界ではないそうだ。

なんでもココは特別な方法を使わないと入って来れないそうで、尚且つ普通の人に存在を知られてはいけないって言ってた。

ビルの外は、とてつもなく淀んでいた。灰色の空、壊れた建物、人のいない街。

その中心に聳え立つW・Mのビルは異様な雰囲気をかもし出していた。

「ここには昔、もう一つの世界があったんだ。俺達もそこに住んでいた。だけど、B・Tの奴等に俺達は全てを奪われたんだ」

そう言う日生君の顔は、憎悪に満ちていて。でもとても哀しそうで。

それは高山君も同じだった。

自分達の世界を壊された彼等の怒りや憎しみは私にはわからない。だけど、想像できる。

私も『私の世界』を壊された身だから。あの男の所為で――

ビルから出て少ししたところに、小さなトンネルがあった。

そこが彼等の世界と私達の世界をつなぐ境界線なんだそうだ。

「自分が辿り着きたいところを思い浮かべながら通ると、その場所に着くばい」

「わかった。いろいろありがとね。日生君、高山君」

「昭栄でよかと!! ちゃん!」

「光宏でいいよ。俺達も って呼ぶし」

「うん。じゃあまたね、光宏、昭栄」

バイバイと手を振って私はトンネルへ入っていった。

しばらくは真っ暗な道が続いた。遠くの方に明かりが見えたかと思うと、そこはもう私の家の前だった。

振り向いてみたけど、向かいの家があるだけ。トンネルなんてどこにも無い。

まるで全てが夢のようだった。朝になればまた何事もなかったかのような日常に戻るのだろうか。

いや、違う。あれは夢なんかじゃない。

確かに感じる、私の中で息づく未知の力。それが良いものでも悪いものでも私は胸を躍らせていた。

退屈な日々に突如訪れた変化。それがなによりも嬉しかった。



翌日。私はいつも通り、並木道を歩いていた。

昨日あんなことがあった割には、普通な日常を送れる自分に少し感心する。

同じような制服が並ぶなかで、忘れもしない後姿が目に入った。真由美だ。

「真由美〜!!!」

大声を張り上げて真由美を呼ぶと、彼女はゆっくりふりかえった。

心なしか、少しやつれたように見える。やっぱり、昨日の事件がこたえたのかな。

「なに?」

相変わらず冷たい言葉。それでもいつものことだと私は先を続けた。

「あ、あの〜昨日のことなんだけど…その〜大丈夫だった?」

「は?昨日?なんのことよ」

真由美は全くわからないというような顔をして私を睨み付けた。

表情からして、とぼけているわけではなさそうだ。

「……覚えてない?昨日の夕方…」

「昨日の夕方なら、塾にいたわよ。朝から寝ぼけたこといわないで頂戴!!」

彼女はそう言い放つと、私に背をむけ怒ったように歩き出す。

覚えてない。なんで?やっぱりあれは夢だったのかな…

『大丈夫よ。黒涙を抜き取ったあと、そのときの記憶を入れ替えただけだから』

声が聞こえた。否、頭のなかで声が響いた。でも、どこかで聞いた事のある声…

私がしばらくその場でフリーズしてると後ろからトントンと肩を叩かれた。

かな?そう思って振り向くと、そこには に負けないほどの美人さんが立っていた。

「おはよう。 さん」

「お、おはよう…」

どもっちゃったよ(呆)たしかこの人は、小島さん…だったかな?

「ちょっと話があるんだけど、一緒に行ってもいい?」

私はとりあえず頷いた。でも頭の中はなんかしただろうか…という疑問が渦巻いていて。

必死に過去の出来事を思い返すけど、そんな覚えはない。

ましてやクラスも違うし、あまり接点がないからなんかする方が大変だけど。

まさか、美人で有名な小島有紀と肩を並べて歩く日がこようとは夢にも思っていなかった。

「さっきはゴメンね。驚いたでしょう?」

「え…?じゃああの声は」

「そう、私の声。私もW・Mの人間なの。それで今のが私の能力ってわけ」

そういって小島さんは笑った。ま、まぶい…;ってそうじゃなくて!!

ビックリした。こんな身近なところにもW・Mの人がいるなんて!

「でも、W・Mの人っていつも向こうの世界にいるんじゃないの?」

「基本的にはどっちでもいいの。こっち側で暮らしてもいいし、向こうでずっと仕事しててもいい。まぁ、こっち側にきてるのは私も含めて、そんなに多くないけどね」

へぇ〜そうなんだ。意外と自由なんだなぁ。

「あ、そうそう!話しってなに?」

話題が別の方向にそれちゃって、肝心の話しを忘れてた;私が聞くと、小島さんはまた私の頭の中に声を送った。

『周りの人に聞かれるとまずいから、この状態で話すわね』

わかったと言いそうになって、私は慌てて言葉をふさいだ。はたから見れば、一人でしゃべってることになってしまう。

顔に少しの不安を浮かべながら、神妙に頷く。

『今日から、学校がある間は私が さんを護衛することになったから。よろしくね』

え!?でも、私の護衛って光宏と昭栄なんじゃ…

『彼等は向こう側にずっといるタイプの人間なの。学校まではきたこと無いから、その間は私が変わり』

そうなのか…私の疑問は解けたけど、新たな謎。小島さんも人の心が読めるのかな…

『違うわよ。私はただ貴方の表情を読んでるだけ』

表情を読む!?そんなことできるの?

『はは!だって さん、顔にでやすいんだもん』

う〜ん…誉められてるのか、けなされてるのか…(けなされてます)

「というわけだから、私のことは有紀でいいわ。よろしくね、

急に普通の会話へもどったから、一瞬ドキッとしたけど小島さん…じゃなかった有紀の綺麗な笑顔をみてちょっと安心した。

「うん!こちらこそ、よろしくね。有紀!」

祝・ に(新しい)お友達ができた日!まさか、あの有名な小島有紀さんとお友達になることがあろうとは…思いも寄らなかった展開に少し驚き、それでいて嬉しかった。

二人並んで学校へ行くとなぜだか異様に人の視線を感じた。やっぱりモてるな有紀は…

いつものように下駄箱は二つ膨らんでた。どうやら の方はまだ来てないみたいだ。教室行ったらメールしてみよ。

「じゃあ、お昼休みにまた来るから。なんかあったらよんでね!」

そう言って有紀は自分の教室へと向かう。私は手をふって別れを告げた。

教室へ入るとやっぱり はまだきてなくて私は人目も気にせずに堂々とメールを打った。

私は機械にめっぽう弱くて、携帯も最低限しか使わない=打つのが遅い。

やっとのことで送信ボタンを押そうとした瞬間、メールの相手が勢い良く入ってきた。

「よかった〜ギリギリセーフ!!」

綺麗な髪を乱し肩で息をしている親友へ近づくとまたしても勢い良く肩を捕まれた。

「ちょ、ちょっと!どうしたの!?」

「ビックニュースよ !!これはもう、今世紀最大のビックニュース!!!!」

興奮している を私はなだめるように手を前に出した。

「落ち着いてよ。どんなニュース?みのもん○もビックリな感じ?」

「みの○んただけじゃなく、全人類がビックリだよ!!なんと…」

なんと………・?(ゴクリ)

「転校生が来るのよ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!」

………………………………………………はぁ?

「あ!今、はぁ?って顔したでしょ!もっと喜んでよ!せっかく朝いちで仕入れてきたネタなのに!」

まで私の顔を読むのですか?(泣)いや、それはともかくとしてこの時期に転校生かぁ〜

帰国子女かなんかかな?

「それも!男子!しかもめっちゃ美形って噂!!きゃ〜早く来ないかな〜vv」

私の親友で毒舌家の ちゃんは、こうみえても超ミーハー。1年の時からそうだけど、転校生が男だとその日1日はテンションがハイ!なのだ…。

「え〜!それホントなの、 !!」

「うそ〜vvやった〜〜vvv」

ハイテンションな の声は教室中に響き渡り、瞬く間に女子へと伝わった。一斉に雰囲気がピンク色になる。

その様子を見てクラスの男子は、ちょっと妬いたもよう。どうせ対した奴じゃないだろ?と余裕をかます人や弱そうな奴だったら呼び出そうぜと強気の人まで、様々。

しかし、その自信はあっという間に崩れ去ることとなる。

「今日はみんなに転校生を紹介する!どうぞ、入ってきて!」

待ってましたとばかりにざわめくクラス内。ガララという音を立てて入ってきたのは・・・

まさに天使だった。

「「「「「キャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜vvvvvvvvvvvvvv」」」」」

黄色い歓声が教室中にこだまする。それとは反対に男子の方は完全にフリーズ状態。(合掌)

「こら静かに!!」

担任の注意などまったく耳に入らないようで、クラスの全員が転校生にくぎ付けだった。

濃いめの少しクセのある髪、大きな目、白い肌、整った顔立ち…。まるで女の子のようなその可愛さに、男子ですら顔を赤らめる始末。

「家庭の事情でこのクラスに転校してきた、椎名翼君だ」

「よろしく」

椎名君が一言言うと、それだけで女子達がため息をつく。

「えーっと、椎名の席は…あ! の隣りが空いてるな。じゃあ、そこで」

女子の目が一斉に私へとむけられる。興味、羨み、怨み…って、私にいってもしょうがないでしょうが!!

椎名君は隣りの席に着くと、にこっと笑って私の方を向いた。

あぁ…天使が舞い降りた(遠い目)なんで私の周りには可愛い人しかいないの!?

「よろしくね、 さん」

「あ、ええと…よろしく・・」

そう言った瞬間、私はとてつもなく嫌な予感を感じた。なんだか、具体的には言えないけど…すごくイヤな気分になってしまう。

どうしたんだろ…なんか変だ。さっきまでは普通だったのに…!

有紀に相談した方がいいよね。そうしよう…

私は、すでに授業へ入っていることすら気付かずにいた。そして、一度大きく深呼吸をするといつも通りに窓の外を眺める。

それでも、私の中のモヤモヤは消えてくれなかった。




















































































ふ〜ん。これが白月の姫ね。思ったより大した力は感じないな。

それでも僕が発した『気』くらいは感じたみたいだけど。

さて情報収集と言ったからには、それ相応の手土産がないと。また色々うるさいやつがいるし。

それにはやっぱり、試してみるしかないよね。

―――――へぇ!良い奴がいるじゃん!白月の姫の親友ね…。よし、こいつでやってみるか。












































































きゃ〜v翼君、噂通りかっこかわいい〜〜vv との2ショットがまた決まってるわァ♪

『どうやってもあの子には勝てない』


!?


『勉強でもルックスでも、私はあの子には勝てない』



な、なに!?なんなの、この声!!



『あの子がいる所為で私は私を見てもらえない。一生「 の親友」のまま』



や、めて…やめてよ!!!



『お前のその怨み、はらしてあげる。黒い涙をながしてみなよ』



『BLACK TEARS――』



イヤぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!
















































































気持ちが晴れないまま、1時間目が終わった。私は有紀のところへ行く前に、 に声をかける。

、チョット小島さんのところ行ってくるね!」

の反応がない。いつもなら、わかった☆って笑顔で言ってくれるのに。

?どうかし…」

。今日の放課後、屋上で待ってる」

私の言葉をさえぎって、 はそれだけ言うとスタスタ教室を出ていった。

なにかあったのは目に見えてわかるのに、それがなんだか分からない。もどかしくてたまらなかった。

追いかけてそばに居ようとしたけど、 が自分から話すまで待とうと思った。

もしかしたら、私が感じてるモヤモヤと何か関係があるかもしれないし。

このことは昼休みに話そう…。

有紀の所へ行くのをやめて私は自分の席につくと、隣には女子に囲まれている椎名君がいる。

天使のようなその笑顔に、私はとてつもない不安を覚えた。



























































が出ていったきり戻らないまま、昼休みが訪れた。私はお弁当を引っつかむと有紀のクラスまで猛ダッシュした。

「有紀〜〜〜!!!」

「そんなに慌てなくても逃げないわよ;テラス、行こっか」

テラスにつき、お弁当を広げる有紀とは対照的に私は食事すら喉を通らなかった。

「何か…あった?」

真剣な眼差しできいてくる有紀。私は泣きそうになるのを必死にこらえながら今までの事を伝える。

「今日、うちのクラスに転校生がきたの」

「転校生!?この時期に?」

「うん…それで、私の隣りの席なんだけど、その子見た瞬間イヤな予感がして…気持ちがモヤモヤしてきて…。そしたら、 まで変になっちゃって…」

さんが?どんなふうに?」

「虚ろな目で「放課後屋上で待ってる」って言った後、すぐ教室出て行っちゃって。まだ戻ってきてないんだ…」

「転校生…虚ろな目…。――― !その転校生の名前は?」

「え…?椎名翼君だけど…」

「椎名翼ぁ!?」

有紀は慌てて立ちあがると、自らのポケットからケータイを取りだして急いでボタンを押した。

「あっ!もしもし?水野?私!小島よ!黒川に代わって―――黒川? のところに椎名が現れたわ!!ええ、そう!今日の放課後、私達がいる中学校の屋上よ!場所は……」

すごい焦った様子で電話をする有紀。この雰囲気からして、椎名君はもしかして…

ケータイをポケットにしまって、一息つく有紀に、私は恐る恐る聞いてみた。

「有紀、もしかして椎名くんは――」

「ええ。椎名翼。B・Tの一人よ。そして、恐らく さんは椎名に黒涙をうめこまれているわ」

「そ、そんな…!でもなんで が・・」

「たぶん の実力を図ろうとしているんだと思う。 さんは の親友だから…」

全身の力が抜けていった。私の所為で…私が白月の姫なんかになっちゃったから… が大変なメに…

ふらふらと立ちあがった私の腕を、慌てて有紀がつかむ。

「どこいくの!?」

「助けなきゃ!!私の所為で が… が!!!」

「落ち着いて!!無理に刺激して黒涙が身体に根付いちゃうこともあるのよ?ここはとりあえず、放課後になるまで待ったほうが良いわ」

今まで我慢していた涙が、とめどなくあふれ出た。そして私は心に誓う。

絶対に許さない!!!










































































昼休みも終わり、有紀に気遣われながら私はなんとか教室へ戻った。

そして、全く聞いていなかった午後の授業が全て終わり、私は有紀の所へ向かった。

すると有紀は屋上ではなく、昇降口へ行ってしまった。なんでも、昼休みに話していた『黒川』君という人が助っ人として来てくれるらしい。

昇降口には、背の高い色黒のかっこいい男の人がいた。

「黒川、お待たせ。こっちが電話で言ってた よ」

「はじめまして。黒川政輝デス」

「はじめ、まして…」

「それじゃ、行きましょうか」

簡単な挨拶を終えて、私達は屋上へ向かった。隣りを歩く黒川君を見ると、とても強張った表情をしていた。もしかしたら、椎名翼と何かあったのかもしれない。

それでも深く考えている余裕は無かった。それくらい、私の頭ん中は のことでいっぱいだったから。

屋上は風が強く、少し肌寒かった。緑色の高いフェンスに持たれるようにして、 が立っていた。

!!!」

慌てて駆け寄ろうとするところを、黒川君に止められ思わず睨む。

「っ!!離して!!!」

「よく見てみろ」

「!!!!!」

そう言った黒川君の視線の先には、いつのまにか黒い半透明の膜で包まれた親友の姿があった。

「やぁ、遅かったじゃないか」

上の方から声がした。貯水タンクに腰かけた椎名翼がにっこり笑ってそこにいる。

「久しぶりだね、政輝」

「…翼ぁ!!」

とても怒っていて、とても寂しそうな瞳が椎名を捕らえる。

それでも椎名は不敵に笑っていた。それはまるで、私達をあざ笑うように。



そう、まるで天使のように笑っていた。