惨劇は繰り返される
たとえどれだけ時間が経とうとも
決してあきらめはしない
それがこの世界の
破滅につながればいい
+黒い涙と白い月+
BLACK TEARS。そもそもこの集団は、黒涙を使って全世界を悪魔の子孫である榊の支配下に置くことを目的として作られた組織。
Dispar of nightmareが起きる前から、世界各地で内乱や黒涙を使った暴動を起こしていた。
そこで世に恨みを持った人や悪名高い人々をスカウトしたりして徐々に勢力を強めていったの。
入団した人たちは榊の手により黒涙をはめ込まれ、特殊能力とそれに匹敵する高い戦闘能力を得た。その代わり、二度と元の人間には戻れない身体になってしまった。
「それじゃあ、黒涙をはめ込まれた人はみんなB・Tたちみたいになっちゃうってこと?」
その通り。黒涙をはめ込まれた人を普通の人間が助け出すことはまず不可能。そこで登場するのが、私たちW・Mなのよ。
W・Mは黒涙を回収できる唯一の組織。この前した、悪魔とメシアの昔話覚えてる?あの少し後、つまりB・Tが出来たと時を同じくして出来た組織なの。
「だけど、私たちには黒涙みたいなものははめ込まれてないのに、なんでこんな特殊能力が出てきちゃったわけ?」
いい質問ね、。私たちの特殊能力は、メシア・白月の姫の術者たちのものなの。もちろん、の能力は白月の姫そのもののものだけどね。
悪魔との戦いで死んでしまった術者たちは、自分達の能力を来世へと受け継がせた。その能力を偶然受け継いだのが、私たちの能力ってわけ。
「そこを西園寺さんにスカウトされたり、自ら志願したりしたってことだな」
そう。私たちは遥か昔から、この組織に入る定めだったのよ。
内乱や暴動で集めた人々の「不」の力を糧に、榊は人類を一斉にB・Tの仲間にする計画を立てた。
それが「nightmare」のちに、Dispar of nightmareと呼ばれる計画。
だけど、この計画は完全じゃなかった。人々の微量な不の力を集めたところで、たいした力もなかったし、第一切り札になる人物もいなかったから。
「切り札になる、人物・・・?」
。これは貴方にとって、とても重要なことだからよく聞いておいて。
昔話で出てきた悪魔。その悪魔によって操られていたお妃様がいるわよね。悪魔が復活している以上、そのお妃様も現世に蘇っている可能性があるの。
「一説によれば、この妃と白月の姫は姉妹関係にあったと伝えられてる。まぁ、確かな話じゃないけどな。だけど、その話が本当なら、メシアの中にも悪魔の手先の血が混ざってるってことになる」
それを私たちは『黒涙の君』と呼んでいるの。まだ実際に現れてはいないけど、その存在になるとしたら、。あなたに黒涙が埋め込まれたときよ。
「つまり・・・・私が救世主になるか、悪魔になるかは紙一重ってこと?」
そうなの。そのために私たち術者がいる。W・Mのもう一つの目的は、白月の姫の護衛でもあるのよ。
「ふーん。昭栄、お前意外と重要なポジションなんやな」
「そうですたい!カズさん!」
うるさいわよ、そこ。それじゃ、続けるわね。
nightmareの計画を、榊はB・T内で一番信用の厚かった、三上に一任したの。
三上は黒涙の君の存在を知らなかった。もちろん、榊も同じことだけど。この話はW・M内で語られているだけの話だから。
「やけん、今はもうB・Tの奴らも知っとるとよ」
「ホント!?」
「当たり前や。あの事件から何年たっとると思っちょる?とっくにB・T内では白月の姫を仲間にするか、始末するかの議論が始まっとおよ」
「始末したらダメなんじゃないのか?Dispar of nightmareにはの力が必要なんだろ?」
「ばってん、日生。それは賭けでもあると。白月の姫をB・Tに迎え入れ、一掃しようとされたらこっちは迎え打てんばい」
「あぁ、なるほどな」
どっちにしろ、当時のB・Tはまだまだ発展途上だったのよ。
そして数百年前。三上は大量の「不」を世界中にばら撒いた。
暗く、静かな部屋。その部屋の中心では、巨大なカプセルが聳え立っていた。
中には真っ赤な血を連想させる液体が入っていて、ところどころから泡が立っている。
三上はその前に立ち、ゆっくり上を見上げた。どこまでも高いこのカプセル。この液体の正体は、内乱や暴動で集めた人々の「不」だった。
自らの街も内乱で失った三上にとって、この計画は心苦しいものがある。未だに忘れられぬ記憶の数々。このカプセルを見るたび、その記憶達は三上を苦しめた。
「三上先輩」
不意に、昔の仲間の声が聞こえた。
身寄りのない三上たちは、渋沢、藤代、笠井の4人で一緒に生活していた。
しかし、あの内乱が起こってから、三上はB・Tへ。渋沢たちはW・Mへと道を違える。
何度も引き止められ、説得された。だが、己がなさんとする事は、W・Mでは叶えられない。
いらない。もうこんな世界は必要ないんだ。
世界の破滅を望んだ三上は、すんなりとB・Tへ入団を志願する。そして、リーダーの榊から今回の計画を任された。
この液体を世界中にばら撒けば、一瞬にして世界は榊のものになる。
そうしたら、自分も・・・。
三上はボタンに手をかける。
このボタンを押せば、全てが終わる。文字通り、世界の破滅が訪れる。
「悪ぃな、だけどわかってくれよ」
誰に向かって言ったのか、三上が呟いた声は静かに響いて消えた。
あばよ。もう二度と会うこともない奴ら。バカ代も、渋沢も、笠井も、みんな消えてなくなっちまえ。
そしたら会おうぜ、あの世ってとこで。みんなで逝けば怖くないだろ?
俺もすぐに逝くから。先に待っててくれよ。たぶん地獄行きだろうけど、三途の川あたりで顔くらい見られるだろうからさ。
「じゃあな、腐った世界・・・・」
三上はゆっくりボタンを押した。とたんに中の液体が光りだし、地響きが起きる。
だが、ここで狂いが生じてしまった。
ばら撒かれるはずの「不」が暴走しだしたのだ。
「っ・・・!」
大きく揺れる地面の上、必死に体制を保とうとする三上。だんだんカプセル内は光を帯びてきて、やがて爆発した。
ものすごい爆発音と共に、まばゆい光が世界中を包み込む。そこで三上の意識も途切れた。
真っ白になった世界に残ったのは、瓦礫の山。世界はもろくも崩れ去ってしまった。
これが数百年前にあった出来事。Dispar of nightmareと呼ばれる、この世界でもっとも悲惨なことよ。
今の世界は、そのときのまま何一つ変わっていない。昔はここも、たくさんの人が行きかうにぎやかな場所だったのに、今ではこのありさま。
「でも、元はといえば榊って人が計画を始めたんでしょ?だったらなんで三上さんが起こしたことになってるの?」
の言うとおり、計画を提案したのは榊よ。だけど、その後全ての過程・実行を全て三上一人で行ったの。
「一部の噂によると、三上はこうなることが予測できてたんじゃないかって言われてんだ」
だから、榊の思惑っていうよりも、どっちかといえば三上が実権を握っていたのよ。
話が逸れちゃった。続けるわね。
Dispar of nightmareがもたらしたのは、何も街の破壊だけじゃない。この世界の人間はほとんどが死んでしまった。
残ったのはB・Tのメンバーと榊以外に、十数人の子供達。それと、W・Mのリーダー西園寺さん。
この事件をきっかけに、能力に目覚めた人もいるわ。そして一部の人を除いて、みんなB・TかW・Mに志願していった。
みんな己の思想と一致したというだけで志願したわけじゃない。そうしなければ、誰もいないこの世界で生きていくのは難しかったの。
まぁ、情報屋として生活を立ててる人もいるけどね。
「シゲとかいう金髪の人のこと?」
「あぁ。シゲのほかに、あと二人いるがな」
こうしてB・T、W・M共にまた一からやり直さなければならなくなった。体制を立て直したりするのに、ずいぶんと時間を要したわ。
だけど、まだ榊はあきらめていなかった。そして偶然にも、この世界とは別の世界を見つけてしまったの。それがたちが住む世界よ。
この世界にはもうB・TとW・M、それに数人の人々しか残っていない。
それならこんな世界捨てて、新たなる世界を手に入れよう。
榊はたちの住む世界に眼をつけ、B・Tたちを送り込んだ。そしてその世界にある「不」につけこんで、黒涙をはめ込んでいったの。
それを察知した私たちW・Mも、同様に向こうの世界を守るため戦っていた。そんなときに出会ったのが白月の姫・との二人ってわけなの。
「じゃあ、私たちの世界でもDispar of nightmareが起こる可能性があるってこと!?」
その通り。今は白月の姫を手に入れることで頭が一杯だろうけど、手に入れ次第即実行に移せるように準備はしているでしょうね。
現に三上も「白月の姫を生贄にして」と言ってるし、ますますを渡すわけにはいかなくなった。
黒涙の君にでもなったら、もう私たちはなす術がないの。黒涙の君を倒せるのは白月の姫だけ。つまり自分でしかないからね。
「そっか・・・私って結構重要な位置にいるってことなんだ・・・」
「今頃気付いたのか!?何のために俺達護衛がいると思ってんだよ!」
「「なんとなく」」
「・・・・・・」
「みっくん、そげん落ち込まなんと・・;」
もも結構言うわね;まぁいいわ。ここまで話したけど、何か質問ある?
「あ!あるある!!」
なに?。
「有紀たち、さっきから百年前とかすっごい表現してるけど、どういう意味?」
忘れてた。こう見えても私たち、あなたたちより数百歳は年とってるのよ。
「うそぉ!?見えない!どうみても同い年じゃん!」
そういうけどね、。ホントなのよ。悔しいことに。
Dispar of nightmareで生き残った人間は、何百年経っても年をとらなくなっちゃったの。
たぶんあの光の所為だと思うんだけどね。
だから、私たちは数百年も前から外見はわかってないの。私たちがたちくらいのときにあの光を浴びたから、同い年に見えるだろうけど。
「要するに、時間の流れから外れたってことだ」
「そうだったんだ。だけど数百年経った今でも忘れられないってことは・・・」
忘れるわけないわ、あんなこと。今でもたまに夢に出てくるもん。まさに悪夢。
私の村も、全部なくなっちゃったし。
この世界は、本当に壊れちゃったのよね。
・・・・・。さて、一通り話したわ。他にはある?
「ううん、大丈夫」
「まだ全部は飲み込めてないけどね」
「そっか。無理もないわよね。あーこんなにしゃべったの久しぶりだわ!」
「ごめんね、有紀。ムリに話させちゃって」
「いいのよ、気にしないで」
有紀にすっごい辛い話をさせちゃったから、とても心苦しかったけど、有紀はなんだかすっきりした顔をしていたから、私も安心した。
あ、そういえば・・・。
「あのさ、功刀くんってこれからどうなるの?」
「私も気になってた!B・Tには戻らないんでしょ?」
「あぁ、今から西園寺さんのとこば行ってくるとよ」
「そうなんだ。ねぇ、私もついていっていい?」
私がそういうと、その場にいたみんなが一斉に私を見た。そんなに驚くこと?
「あ、別に盗み聞きしようとかじゃなくて、ただ私も西園寺さんに用事があったからさ」
「・・・あんたまさか・・・」
が心配そうに私を見つめた。たぶんは気付いてる。その通りだよ、。
だって私はもう・・・。
「とカズさんが行くなら、俺も行くとです!」
「それじゃあ護衛である俺も行くべきだよな!」
なんだか増えちゃったけど、まぁいいや。とにかくあのことを西園寺さんに話さないといけない。
騒がしい3人とは対象に、私とは少し暗かった。
、ゴメンね。私はもうだめなの。
こっちの世界のこと、知っちゃったから・・・。
「そうと決まれば早く行こう!昭栄も光宏もくるんでしょ?あと、功刀くんも」
「カズでよか」
「あ、わかった。カズも早くいこ?」
有紀と黒川くんにお礼を言って、騒がしく応接室を出て行く。心なしかカズさん(さん付けしなきゃいけない気がした;)の顔が赤い気がするけど、まいっか。
応接室に残ったのはと有紀、そして黒川君。ゴメンね、。本当はついてきてほしかったけど。
やっぱり自分のことは自分で解決したいから。
だからもう少し、そこで待ってて。
少し手が震えた。でもきっとすぐに収まる。
これから西園寺さんに言うことは、手の震えくらいじゃ済まされないことだと思うんだ。
廊下はどこまでも長く、続く。
歩く私は、普通なように見えているんだろうか・・・。


