動き出す二つの世界は









きっとどこかで繋がっていて









私たちを結んでくれた


































































黒い涙白い月






























































「えぇ!?それじゃあはずっとこっちに住むことになったわけぇ!?」

、声大きいって」

静かなW・M内のカフェテラスに、の声が木霊する。の隣には光宏、私の隣には昭栄が座っていて、なぜか昭栄と光宏の間にはカズさんが座っていた。

西園寺さんからここに住む許可をもらったこと、に報告していたんだけど、護衛だからという理由で他の3人(カズさんはきっと昭栄に連れてこられた)も着いてきた。

「それやったら、学校はどげんすると?」

「学校は行くよ。もいるしね」

「学校なんてどうでもいいのよ!あの人たちにはなんて説明・・・」

そこまで言っては慌てて口を押さえた。たぶん、光宏たちがいること忘れてたんだと思う。

そんなに気にしなくてもいいのに、と私も苦笑を浮かべた。

ふと、の横にいる光宏が眼に入る。その顔はまたもや沈んでいた。どうも最近の光宏はおかしい。なにか悩みがあるなら、言ってくれていいのに。

「光宏、どうかしたの?」

「え!あぁ、なんでもないよ」

また苦しそうに笑う。本当に、どうしたんだろう。あまり深く聞いちゃいけない気になってきて、私はそっか、と話を戻した。

「とにかく。私は反対よ。第一、がここにいたらB・Tに狙われる可能性が高くなるでしょ?」

「確かにそうやな」

の言葉にカズさんが頷く。確かにその通りだった。

向こうの世界にいれば、W・Mの護衛はつくものの、基本的な人数は圧倒的に少ない。その代わり、あまり派手な行動はできないはずだ。

でも、こっちの世界にいればやりたい放題。その分W・Mの人数は増えるけど、それでも数は互角。勝てる確立は充分にある。

光宏と昭栄も私たちの世界に来てくれたことだし、本当は向こうの世界にいたほうが何倍も良いってことくらいわかってるんだけど、私はもうあの家に耐えられなくなってしまった。

この世界の優しさを、知ってしまったから。

「でもさ、こっちにいれば何かと都合がいいし・・・」

「どんな都合よ?」

「うーん・・ま!とにかく、こっちに住むことになったのは変わらないから」

「ダメ。絶対」

麻薬ですか?さん。それにしても、の家でお世話になるわけには行かないし、せっかくこっちにそういう施設があるんだから、利用しない手はない。

も話せばわかってくれると思ったんだけど、ここまで食い下がるとはなぁ。

「ねぇ、。お願いだから許して?ね?」

「・・・・・・。わかった、そこまで言うなら私からも条件を出すわ」

「条件?」

はそう、とにっこり笑った。うわ、嫌な予感がひしひしと・・・。

「私もこっちに住む」

やっぱり;そうくると思った。長年親友やってると、大体相手の行動が読めてきちゃうもんなんだよね。

「それこそ、ダメ。絶対、だよ」

「だって!が住むんなら私だって住めるはずよね?」

「それはそうだけど・・・。の家族みんな悲しむよ?」

「大丈夫。と住むっていったら安心するから」

私はの家族にどう思われてるの!?まさかもう親友の域を超えて・・・ってこんなときになにバカなこと考えてるんだろ。きっとけーすけがいたらまた怒鳴られてる。

だけど、なんだかんだ言って、がいてくれたらどれだけ心強いかわからない。実のところ、が着てくれないか期待していた部分もあった。

だから、がこっちに住むって言ってくれたことは正直嬉しい。だけど、その分の人生を狂わせちゃうことになるのが嫌だった。

私もの家には何回も行っているけど、あんなに楽しい家族があるんだって思うほど、の家は仲が良かった。そんな家庭を私がつぶしていいはずない。

あぁ、なんか矛盾してるなぁ。来て欲しいって思ったり、やっぱりダメとか思ったり。

ー!また余計な心配してるでしょ!」

「そんなこと・・・・」

「ある。どうせまた、私の家族のこととか心配してるんじゃないの?」

ず、図星・・・。恐るべき、親友の読心術。やっぱり私って読まれやすいのかなぁ。

はため息をついて、私の肩に手をかけた。

「あのね。そんなの心配することないのよ。私が自分でと一緒にいたいと思ってるだけなんだから、は別になにも考える必要ないわけ。わかる?」

「・・・・ホントに大丈夫?」

「当たり前よ。私たち、親友なんだからいつも一緒にいるのが当たり前、ね?」

この台詞・・・がW・Mに入るときも言ってくれた。そうだよね。が決めてくれたことだもん、私が考える必要ない。

むしろ、が私の傍にいてくれることを感謝しなくちゃ。こんなにも頼もしくて、優しい親友がいてくれるんだもんね。

「ありがと!!」

「あーもー!そんな笑顔で笑って!可愛い〜vv」

が私をきつく抱きしめる。私なんかよりのほうが断然可愛いけど、私もをぎゅーっとした。

「カズさん、カズさん」

「なんね」

「女の子抱きしめ合うちゅーことは、やっぱり二人は・・」

「違うわよ。バカ昭栄。私たちは親友なの」

、きつかよ・・・;」

小さく言ったつもりでも、昭栄は元の声が大きいから私たちのところまで丸聞こえだった。にしても、昭栄の発想って、恐ろしい。カズさんも呆れてため息をつくばかりだった。

さてと、とが立ち上がる。他の人たちの目線も、全部そっちへ向いた。

「西園寺さんに話してくるわ。昭栄、付き合って」

「了解ばい!カズさん、みっくん、行くとです!」

「アホ。全員で行ったら、誰が白月の姫を守るとね!?」

「うぅ〜すんません、カズさん」

うわぁ〜絶対的な上下関係。さすがはもと同じクラブの先輩と後輩。にしても、本当にいいコンビだわ。

「俺が残るよ。ここで待ってればいいんだろ?」

「えぇ、お願いね。それじゃ、また後で!」

「よろしくばい!みっくん!」

3人は本部管理室へと向かって行った。光宏とはまた二人っきり。

この前聞けなかった話っていうのを聞きたいと思っていたから、こういう状況は都合が良かった。

見れば、光宏は少し俯いていた。何かを言うのを躊躇っているみたいに、落ち着きがない。

やっぱり、何か話したがってるんだと確信する。水臭いよ、私たち仲間なんだからなんでも話して欲しいのに。

「光宏、この前言ってた話の続きなんだけど・・・」

「あぁ。俺も今それ言おうとしてたんだ」

しばらくの沈黙が流れた。私は光宏が話を切り出してくれるまで待っていようと思い、黙っている。

つらそうな顔を見るのは耐えがたかったけど、なんとか静寂を守っていた。そして光宏が、やっと口を開く。

「俺、実はこの間の話聞いちまったんだよな」

「この間の話?」

神妙に首を縦に振る。この間ってなんのことだろう。そんなに深刻な話をした覚えはないけど・・・。

本部管理室で、西園寺さんと話していたときのこと?だけどあそこは私以外に人はいなかったし、外から中の会話は聞こえないはず。

あ、もしかして・・・。

と話してた、家のこと?」

光宏は黙って目を伏せる。やっぱりそうだったんだ。それでこんなに気にしてくれてたんだね。

そっかぁ、聞かれちゃってたんだ。恥ずかしいな。私、泣いてたし。

光宏も私のこと、心配してくれてたんだ。なんだか嬉しい。自然と笑みを浮かべた。

「ありがとう、光宏。心配してくれてたんだね」

泣いてたから・・・」

光宏は伏せていた顔を一気に上げて、私を見た。しっかりとした目つきに驚いたけど、私はすぐに理解した。この眼は、何かを決意したときの眼だと。

「俺、の力になりたいんだ。護衛とかそういうの全部ひっくるめて。何か悩んでるなら言って欲しいし、辛かったら助けてあげたい・・・なんて言ったらいいのかよくわかんねぇけど・・・」

ガシガシと頭をかきながら、光宏は強く言った。その姿がどこかおかしくて、嬉しくて、私はつい噴出してしまう。それにつられてか、光宏もやっと笑ってくれた。

「光宏、すっごく嬉しいよ!ありがとう。よかったら話、聞いてくれる?」

「おう!まかせとけ!」

頼もしい言葉。大丈夫。西園寺さんが言っていた通りだった。W・Mの人たちは私をきっと受け入れてくれる。私の過去を話しても、きっと普段どおりに接してくれるだろう。

それは光宏に限らず、全員がそうだと思う。なぜか自信があった。この人たちになら話してもいいと、心からそう思えた。

「ちょっと長くなるけど、大丈夫?」

「大丈夫だよ。当たり前じゃん!」

また私は笑った。そして、少し眼を伏せる。私のことを話すなんて、何年ぶりだろう。

「あれは私が4歳のとき・・・」

大丈夫。きっと話せる。きっと受け入れてくれる。

それだけの絆を、私たちは作ってきたのだから・・・。




































































北の廃墟。言わずと知れた、B・Tたちのたまり場となっているところだ。

今日もそこには数人の人影があった。まだ昼間だというのに、この廃墟は夜並に暗く、重々しい雰囲気が漂っていた。

「おう、集まったな」

暗がりから、三上が姿を現す。口元にニヒルな笑みを浮かべ、思い思いのところに座っているB・Tたちに言った。

「どうしたのさ、いきなり集めるなんて」

まぁだいたいの察しはつくけどね、と翼が呟く。三上はふっと笑って、錆びた鉄の柵にもたれかかってあたりを見渡した。

どうやら翼と同じように、もうほとんどのB・Tがこれから三上の言う内容についての察しはついているらしく、どこか緊張した面持ちだった。

これなら理解も早いだろうと、三上が余裕の笑みを浮かべ、そして真剣な顔つきで前を見据える。

「榊さんからの指令が来た」

廃墟に緊張が走る。リーダーである榊が直接指令を下すなど、めったにないこと。これはかなり大きな仕事になることは間違いなかった。

「今から一週間後。東西南北にそれぞれ分かれ、W・Mとのゲリラ戦を行う。もちろん、目的はW・Mの壊滅と白月の姫の確保。今回は制御装置をつけないから、思いっきり戦え」

恐ろしい内容を伝えてもB・Tのメンバーはひるみすらしない。むしろ、面白そうな笑みを浮かべていた。

何か質問は?と三上が問うと、場にそぐわない元気のいい声が上がった。

「どういう意味?」

「はぁ;やっぱりお前か、若菜」

予想通りだ、とため息をついて呆れている三上の代わりに、近くにいた親友の3人が説明を補った。

「つまり、もう邪魔なW・Mを一掃しようってことだよ」

「B・TとW・Mをそれぞれ東西南北に分けて、個別で叩く。それに加えて、白月の姫を確保する」

「白月の姫が手に入って、W・Mがいなくなれば、俺達の目的は100%達成されるってわけ。簡単でしょ?」

潤慶、一馬、英士の順で三上の言ったことを噛み砕いてやると、結人はやっと理解できたらしく、なるほどなと面白そうに笑った。

どうも最近B・Tの雰囲気は崩されることが多い。それは三上の悩みの種だった。

「でもさ、そんなに簡単にW・Mが個別に別れるのか?一箇所ずつ全員で潰しにかかってきたらどうすんだ?」

設楽が小さなコンテナの上から三上へと声を発する。いつもは我関せずな設楽も、このときばかりはわくわくしていた。

「その点はぬかりないよ」

翼が手をひらひらさせながら言う。どういうことだ?と設楽は首をかしげた。

「ちゃんと玲に招待状を渡しておいたからね」

天使のような悪魔の微笑み。美しく笑う翼の姿はまさにそれだった。黒い手紙を見せた翼は、自信満々の表情だ。

「そっか」

翼の書いた手紙なら、間違いないだろう。おそらく、個々に戦わなくてはならないような条件が書いてあるはずだ。設楽も安心して、またコンテナの上であぐらをかいた。

「こっちの配置は誰が決めるんですか?」

小さく手を上げ、次は杉原が聞く。細い眼が開かれ、少し怖い雰囲気が漂っていた。

三上は不破に声をかける。不破は持っていたノートパソコンらしきものを開き、なにやら作業を始めた。

「この前のトーナメントで採取したW・Mの能力を分析して、確実に勝てる相手にそれぞれを当てる。すでに90%は分析済みだ」

パソコンの画面にはW・Mの顔と名前、戦い方のパターンなどが細かく書かれている。不破の言葉に納得して、杉原は下がった。その眼には、他の者と同じく殺意のこもった色が宿っていた。

「他になんかあるか?・・・ん?真田?」

「捕獲した白月の姫は、どうなるんだ?」

静かに、だが力強い声で一馬が問う。一馬の過去を知っている三上と親友の3人にとって、その質問はとても重いものだった。

三上は一馬をしばらく見つめたあと、ふっと息を漏らして肩をすくめる。

「そうだな。そろそろお前らにも、新しい計画を言っとかねぇと」

「新しい計画〜?」

のんびりした声で須釜が言う。三上は頷いて、再度あの鋭い目つきに戻って言った。

「Dispar of nightmareの再来だ」

これにはさすがのB・Tたちもどよめいた。彼らの心の中にもDispar of nightmareによってつけられた傷はある。

そんな悲劇をまた起こすのには、どうしても抵抗があった。

「白月の姫はそのための生贄というわけですね〜」

須釜の言葉に三上は頷く。そしてさらに説明を続けた。

「前回のDispar of nightmareは結果的に失敗に終わったが、その原因は知っての通り黒涙の君がいなかったことのみ。それ以外は完璧だった。白月の姫さえ手に入れば、今度こそこの世界をB・Tのものにし、向こう側の世界をも支配できる」

あくまでもB・Tの目的は両世界の支配。それにはの存在が不可欠になってくる。

白月の姫に強力な黒涙を入れれば、黒涙の君となり、世界破滅への鍵となるのだった。三上たちはすでにその特性黒涙の開発も進めている。

「今度こそ、間違いはないんですね・・・」

力をこめた声で須釜が言った言葉に、力強く頷く三上。その眼は強い意思で満たされていた。

それなら安心です、とまたあののんびりとした笑みを浮かべて、須釜は古びた椅子に腰掛けた。

一方一馬は、さっきした質問の答えを理解した。生贄、つまりは殺すということ。

過去、自分の恋人だった人をみすみす死なせたくはない。だが、それが自分の選んだ道。新たなる黒涙を入れられたときから、一馬の運命は決していた。

どう足掻いても、の死は避けられないもの。それを止めることも助けることも出来ない。

胸が痛んだ。それは己の過去を知った上での、悲しい痛みだった。

「もうないよな。あぁ、それと一つ言い忘れていたが・・・」

先ほどとは変わって、どこか軽い感じの言い方をする三上。B・Tたちも再び三上に注目を集める。

「功刀がB・Tを抜け、W・Mへと移った」

「えぇ!?それホントかよ!」

「俺はいつかやると思ってたけどね」

「さすがヨンサ!読心術って便利だよね」

「なんで寝返ったりしたんだ?」

いつもの4人組がさっそく声をあげる。まぁ落ち着け、と三上は肩を落とした。

「どうやら功刀はスパイだったらしい。だから俺が始末した。んで、倒れてるところをW・Mの奴らが見つけて仲間にしたってわけだ」

「物好きだよね、W・Mの奴らも」

「バカみてぇ」

翼と設楽がそれぞれに感想を述べる。他のメンバーにも、たいした動揺は見られない。三上はめんどくさそうに頭をかいて、みんなに解散を告げた。

早々に散っていくB・Tたちのなかで、一人だけその場に残っている者がいる。翼だ。

「さて、仕事にいくか」

「あれ、椎名。今日は仕事ないって言ってなかったっけ?」

「急に入ってね。そうだ、設楽も一緒に来てよ。そっちのほうが何かと便利だし」

(人を物みたいにいいやがって・・・)

こうして設楽と翼も廃墟を後にした。向かう先は異世界へとつながるトンネル。

二人の悪魔が、今現実世界へ入り込もうとしていた。