大丈夫 大丈夫
私は一人じゃないから
大切な仲間がいるから
支えになってくれる人がいるから
私は充分やっていける
だから見守っていて
どうか 最後まで
+黒い涙と白い月+
黒川につれられて、たちは会議室へと向かった。大きなドアを開けると、すでにほとんどのW・Mは集まっていて、たちは少し緊張感を覚えた。
指定された席へ座ると、中央にいた西園寺が立ち上がり、机に両手を突いて立つ。その目はかなり厳しく、これから話すことの重大さを物語っていた。
「今日呼び出したのは、他でもなくB・Tのことです。水野くん」
「はい」
前の方にいた水野は手に資料を持ち、立ち上がる。そしてみんなのいるほうを向いて話し始めた。
「先日行われたトーナメント。そのとき、B・Tは全員本領を発揮していない」
室内が一気にざわめく。無理もないだろう、あんなに壮絶な戦いをしたのに、相手が本気を出し切っていないなんて、にわかには信じられなかった。
水野はそうだろ?とカズを見る。カズは帽子をかぶりなおすことによって、その返事を出した。つまりはYes。また会議室の中に衝撃が走る。
「だけど、なんでそんなことしたのよ。私たちを一掃するなら、本気で戦えばいいじゃない」
「小島。もしそれが、俺達を一掃することが目的じゃなかったら?」
「どういう意味?」
水野はポケットから黒いブレスレットを取り出し、少し高く掲げて見せた。そして、先ほどよりも大きな声で説明を続ける。
「これは実際にB・Tがつけていた制御装置だ。戦った全員がつけていたと思う。みんなも見覚えがないか?」
「あー!それ三上先輩もつけてた!」
藤代の言葉に強く頷いて、水野はブレスレットを机に置いた。
「俺の推測からすると、トーナメントを起こした真の目的。それは俺達のデータ収集だ。それには何も本気を出す必要なんてない。だからやつらはこれを使ったんだ」
「それじゃあ、もう奴らには俺たちの戦闘データが取られてるってことですか?」
「笠井の言う通りだ。つまり、今俺達がB・Tと全面対決をしたらまず間違いなく負ける」
「だけど、向こうもまだトーナメントが終わったばかりだし、そんな急には仕掛けてこないんじゃ・・・」
「いいえ、風祭くん。敵はすでに私たちと全面対決する気でいるわ」
水野に代わって、今度は西園寺が声をあげる。内ポケットから黒い手紙を取り出して、顔の横のところまで上げた。その手紙は、とがB・Tの椎名翼から預かったものだ。
「B・Tは私たちとゲリラ戦をしたいそうよ。ご丁寧に招待状まで書いてくれてね」
「そげんもん、行かなきゃよかとです!」
「こんアホ!条件つきに決まっとろうが!」
昭栄の提案をカズが拳で否定する。その通り、このゲリラ戦には条件があった。
「手紙の内容はこうよ。今から1週間後、東西南北に分かれてゲリラ戦を開始する。もし来なかった場合は最悪の悪夢を覚悟せよ」
最悪の悪夢・・・。どこか嫌な響きだった。そして、藤代の隣に座っていた渋沢が声をあげる。
「Dispar of nightmareの再来・・・ですか」
「えぇ、そうと見てまず間違いないわね」
来なかったらDispar of nightmareを再び起こす。しかし、今の状態で向かって行っても勝ち目はない。W・Mのメンバーに嫌なムードが漂った。
「勝ち目はあります・・・!」
暗い雰囲気の中、が立ち上がり力強く言った。全員の視線が一点に集まる。
「だって、こんなに強い人がたくさんいるじゃないですか!絶対に勝てます!私たちを制御装置なんかでなめてかかってきたB・Tを返り討ちにしてやりましょう!」
明るく言ったの言葉で、その場にいた全員の気持ちが戻ってきた。
そうだ、俺達は強い。Dispar of nightmareなんて起こす最低のやからに負けるわけがない。
自信に満ちたその顔は、いつも以上に輝きを増して雰囲気を明るいものにした。これも白月の姫の力なのか、と西園寺はほくそ笑む。
「の言うとおり。私たちがB・Tに負けるはずないわ。期限は後一週間。それまでに個人の戦闘レベルを上げてもらいます。いいわね、みんな」
『『はい!!!』』
景気良く響き渡った返事に、西園寺は勝利の笑みを浮かべた。
その後、ゲリラ戦に関する会議が引き続き行われる。結果、東西南北に分かれるメンツは西園寺とデータ管理である水野。それに渋沢が決めることになり、あとの者はトレーニングに励むよう指令が下された。
「以上を持って解散します。また詳しい情報が入り次第伝えるので、今は各自戦闘強化に努めてください」
西園寺の言葉で、会議は終了となった。みんなに続いてとも会議室を出ようとしたとき、西園寺から声がかかり、その足を止めた。
「、。2人にちょっと頼みごとがあるんだけど」
「はい、なんですか?」
デスクの傍に行って、座っている西園寺に目線を合わせる。
「あなたたち、もう与えた武器は使ったかしら?」
「いえ、まだですけど・・・」
少し言いづらそうにが呟く。すると西園寺はにっこり笑って、立ち上がった。
「それじゃあ、武器になれることもかねて、少しお使いをしてきてもらおうかしらね」
「お使い?」
「えぇ。もちろん、応援はつけるわ。道はその人たちに案内してもらって」
残り一週間しかないのに大丈夫だろうかと心配していた2人だったが、その心配はいらないといった風に、西園寺は話を続けた。
「あなたたちには、これをとってきてもらいます」
西園寺がポケットからとりだしたのは、白く光る石のようなもの。とても綺麗に輝くそれをみて、とは思わずため息をもらした。それほどまでに美しい。
「この石はWHITE STONE。通所W・Sと呼ばれるものよ。に与えた武器が発見された遺跡を知っているわね?これもあそこで発見されたものなの」
「それじゃあ、これにも武器に相当する能力があるってことですか?」
の言葉に、西園寺はゆっくりと頷く。
「だけど、最近の調べでW・Sは完璧ではないことがわかったの。この世界のどこかにもう一つのW・Sがあるらしいわ」
「それを私たちが探してくるわけですね」
「その通り。1週間で見つけてきてちょうだい。そのための人材とプランはこっちで用意したわ」
「「わかりました」」
しっかり頷きながらそういうと、西園寺もにっこり微笑んで返した。
期限が限られているため、さっそく行ってほしいそうだが、には一つ遣り残したことがあった。
それは、家族のこと。一度帰って決着をつけないと。もし、W・Sを探す途中になにかあったり、ゲリラ戦で帰って来られなくなったら、もう二度と会うことはできない。
そうなる前に、自分の気持ちを伝えておきたかった。
「西園寺さん・・・」
「えぇ、わかっているわ。家族のことでしょう?」
「はい・・・」
「1日だけ帰宅を許可します。時差があるから少ししかいられないと思うけど・・・」
「充分です。ありがとうございます」
丁寧に頭を下げて、が笑う。だがその目には、不安と緊張が入り混じっていた。
西園寺からの説明が終わり、二人そろって会議室を出る。そこではふと足を止めた。
「、やっぱり私もついてくよ」
「大丈夫。これは私でしか解決できないことだから」
「でも・・・」
「心配しないで、なにも殴りこみにいくわけじゃないんだから、ね?」
「わかった。だけど、無理しちゃダメだよ?」
「うん、ありがと」
2人で微笑み合い、会議室の少し先で待っていた護衛の2人(+カズ)と合流する。
そして、4人はを見送るために例のトンネルへと見送りに行くことにした。
「、応援しとるけん、気張ってな!」
「ありがとう、昭栄」
「あんまりムリすんなよ?なんかあったらすぐかけつけっから」
「了解、みっくん」
「しっかり決着ばつけてこい」
「はい、カズさん」
「必ず無事で帰ってきてね!約束!」
「うん、約束ね。」
ほんの少しの別れだけれど、やはり少しの物悲しさは感じている。はトンネルの中に入っていった。そしてそこから、4人に向けて大きく手を振る。
「行ってきます!!」
元気にそう言って、トンネル内を駆け抜ける。風が吹いて、目を開けるとそこにはあの家が建っていた。
「報告が遅うなってすんまへんなぁ。さっきやっと計画にのりましたわ」
「そうか。あいつらもやることが遅いな」
雲が空を覆う、北の廃墟。三上とシゲはそこで仕事の取引をしていた。
「にしても、なんでわざわざW・Mに制御装置のこと教えはったんです?」
「あいつらにも強くなってもらわねぇと、こっちもやる気がしねぇからな」
シゲの持ってきた資料に目を通しながら、三上は静かに答える。
そう、シゲが水野に与えた制御装置の存在。それ全ては、三上をはじめとするB・Tの意図だった。
彼らはW・Mにわざと力の差を教え、自ら強くなる時期を待っていたのだ。
その目的は、三上の言うとおり張り合いがないというのが一つだが、シゲが思うになにか他にも意図が隠されてるような気がする。
(これは調べておいて損はなさそうやなv)
ふっと心の中で笑みをこぼし、シゲは先を続けた。
「それと、白月の姫の滞在んことですけど」
「あぁ、どうなった?」
「あっちの世界に戻ることになってしまいましてん」
「そうか・・・やっかいだな」
「どうするん?計画が狂うんとちゃいますか?」
「そうだな。白月の姫にはこっちの世界にいてもらわねぇと」
「その点は抜かりなしだよ」
突然、暗がりの中から声が聞こえた。驚いてその方を見ると、声の主はポケットに手を入れ、口元に笑みを浮かべて近づいてくる。
「椎名」
「こうなると思ってね。予防線を張っておいたんだ」
「予防線?なんや、それ」
翼は意地の悪そうな笑みを浮かべて、笑った。その笑顔には、さすがの2人も背筋が凍る。
「白月の姫は、必ずあの家に戻る。だけど、絶対に戻ってくるよ」
「どういう意味だ?」
「まぁ見てなって」
翼が取り出した手のひらには、BLACK CRYSTALが浮かび上がっていた。そこに写るのは、現実世界へと足を踏み入れた白月の姫、。
その運命は、まさに今。この3人によって見届けられていた。
仕返しさせてもらうよ。借りは返す主義だからね。
お前なんかが白月の姫なんておこがましいけど、なったからにはその運命背負ってもらう。
さぁ、とくと味わって。俺の用意した黒涙・・・。


