この世界に生まれ











この世界に生きた











その記憶は











その過去は











拭い去ることはできない








































































黒い涙白い月









































































旅から帰ってきた私とはすぐに西園寺さんのところへ報告をしにいった。

1週間のノルマをたった1日でこなしたことは、西園寺さんもすごく褒めてくれた。W・Sも本物だったみたいで、なお良し。

「お疲れ様。2人とも、武器の使い方はわかったかしら」

「はい、大丈夫でした」

がきっぱり言うのとは逆に私は苦笑い。だって使えたって言ってもまだまだ未完成のところが多い。本当の力もわからないのだから。

西園寺さんは受け取ったW・Sと自ら持っていたW・Sを二つ並べて机の上に置いた。そして、私の方を見上げる。

。あなたに渡したブレスレット、貸してもらえる?」

「え、あ、わかりました」

右腕のブレスレットをはずし西園寺さんに手渡すと、そのブレスレットを二つのW・Sの横に置く。刹那、まばゆい光が、そう遺跡で見たようなあの光があたりを包み込んだ。

思わず目を瞑る。そして光が消えた頃、目を開けるとそこにはブレスレットしか置かれていなかった。さっきまで確かにあったはずのW・Sはどこにも見当たらない。

「やっぱりね、思った通りだわ」

「西園寺さん、W・Sは・・・」

私が訪ねると、西園寺さんはブレスレットを返しながら説明してくれた。

「これはあくまで予測なんだけど、この世界にはW・Sと同じ力を持つものが4つあると考えられていたわ。石として残っていたのはさっきの二つだけだけど。残りの二つも違う形になってこの世界のどこかにあるはず」

「その一つがの持ってるブレスレットってわけですか」

「そうよ。おそらく何らかのきっかけで、ブレスレットに変化したんでしょうね。それで今この2つをブレスレットに融合したの」

つまり私の武器は完全じゃなかったってことか・・。あ、だから剣しか出せなかったのかも!

これで立派な武器になった。やっとみんなとまともに戦えるようになる。B・Tとの戦いも、しっかり自分で戦える。

「ただ、もう一つのW・Sがどこにあるか。それが問題ね」

「遺跡にはこれしかありませんでしたよ?」

「そう、それがおかしいのよ。4つのうち3つはあの遺跡にあった。となるともうひとつは・・・」

「誰かが持っている可能性が高い」

私の言葉に西園寺さんが神妙な顔をして頷く。この世界のどこかに私と同じ武器を持っている人がいる。それがもしB・Tだったら・・・。

嫌な予感がして、私は一度頭を振った。大丈夫。きっと戦える。

「白月の姫が所有する武器が使えるようになったのなら、勝機はこちらにあるわ。しっかり頑張ってね2人とも」

「「はい!」」

本部管理室を出て、私たちは廊下を歩く。そこで白衣を着た渋沢さんに出会った。

「お疲れ様、2人とも」

「渋沢さん。お疲れ様です。トレーニングはいいんですか?」

「あぁ、自分なりにやっているよ。二人はヘッドに頼まれて遺跡のほうに行ってきたんだろ?」

「はい、途中南方にもよりましたけど」

私がそう言うと渋沢さんの顔つきが一瞬変わった。は気付いてないみたいだけど、長年親の顔色をうかがって生きてきたからこういう変化には敏感だった。何かまずいこと言っちゃったかな。

「渋沢さん、南方の・・出身なんですか?」

が静かにそう尋ねた。そうか、の能力は霊視だった。相手のパーソナルデータならすぐにわかる。

渋沢さんは困ったように笑いながらそうだよ、と頷いた。それなら、あの内乱も体験したはず。異世界から来た私たちでもあの残骸を見ればどれだけひどい内乱だったか想像がつく。それを体験したとなれば、相当なトラウマだろう。

「キャプテーン!!」

シリアスな雰囲気の中に突然元気のいい声が聞こえてきた。声の主は廊下を走って、こちらに向かってくる。その後ろからはもう一人猫目の人が歩いてきていた。

「藤代、いい加減その呼び方なんとかならないか」

「キャプテンはキャプテンっすもん!あ、ちゃんとちゃんもいる!」

えっと確かトーナメントで戦ってた・・・藤代くん、かな。あとその後ろにいるのは笠井くんだっただろうか。2人とも、まともに話したことがないからよくわかんない。

にしても2人ともかっこいい。本当にこの世界は美系しかいないわけ!?

「はじめまして、さんさん。笠井竹巳です」

「私とはトーナメントのときに会ったじゃない」

「でも挨拶するのは始めてだから」

は、律儀だねーと笑っていた。笠井くんね。うん、覚えた。笠井くんは藤代くんにも挨拶しろって促してる。

「藤代誠二です!戦闘部署です!よろしくね、2人とも!」

「こちらこそ、よろしくね。藤代くん」

「誠二でいいよ、ちゃん。もちろんちゃんも」

「じゃあ私たちのことも呼び捨てでいいよ誠二。よろしく」

こうして新しい友達がまた一人増えた。私ももトーナメントのときにはこんなに楽しい人だとは思ってなかった。まぁ、あのときは戦うことで必死だったからそんな余裕なかったけど。

「さっき誠二キャプテンって呼んでたけど、私たちもそう呼んだほうがいいんですか?」

が尋ねると渋沢さんは爽やかに笑って首を振る。なんでもW・M内で渋沢さんをキャプテンと呼ぶのは誠二と笠井くんの2人だけなんだって。

「俺としては、もうそろそろ普通の呼び方をしてほしいんだがな」

「だってキャプテンって呼ばないとなんかしっくりこないんスよ。な、タク」

「そうですね。俺達の中では永遠にキャプテンですから」

渋沢さんは困ったように、だけど少しだけ嬉しそうに微笑む。この3人、昔何かあったのかな。とっても仲が良さそう。

「あの、渋沢さん」

「なんだい?」

「その・・・三上、って人。あの人も南方出身なんですか?」

言いにくいことだってことも、思い出したくないことだってこともわかってる。だけどすごく気になっていた。三上の存在。Dispar of nightmareを起こした張本人。有紀から事情は聞いたけど、心のどこかで何かが引っかかっていた。

渋沢さんはひとつため息をついて、真剣な目を私に向けた。すっと通るような視線。今まで明るかった誠二や笠井くんも浮かない顔をいている。

三上を入れたこの4人。昔何があったんだろう。

「少し、話をしないか」

「でも・・・」

「あの内乱からもう数百年。そろそろ思い出として語るころだと思うんだ」

「すみません・・・」

「謝ることじゃないよ。そうだ、藤代と笠井も付き合ってくれ」

「はい」

「わかりました」

私と、そして誠二と笠井くん。渋沢さん。5人でテラスへと向かう。その足どりは、少し重かったような気がした。
























































































北の廃墟、その屋上。一馬はそこで一人自分の武器を見つめていた。

記憶を見せられてから今まで、ほとんどの謎が解けた。どうやってB・Tに入ったのか、白月の姫とはどういう関係だったのか。

と俺は恋人同士だった。本人が忘れても、俺には今しっかりとした記憶がある。それにその気持ちも変わっていない。

もし、今度のゲリラ戦でとあたることになってしまったら?俺はちゃんと戦えるのか。

榊さんには感謝してる。この世界をどうにかしたいっていう気持ちもまだしっかり根付いていた。だけど俺は・・・。世界のために、自分のために愛しい人を殺せるのか?

一馬の持っていた武器が光る。俺の武器・・今まで数多の人を殺してきた俺と同じ殺人器。

一筋、生暖かい風が通り抜ける。風に揺れる勾玉を見て、一馬はふと思った。この武器、どうやって手に入れた?

記憶の中では榊に渡された場面はなかった。まして、自分ではじめから持っていたということもない。

じゃあなぜ今、この手の中にある?どうやって手に入れた、こんな武器。

何かがかみ合っていなかった。どうして、どうやって。また謎が増える。もしかして、俺の見せられた記憶は・・・。

「一馬!」

突然聞こえた声に、一馬の思考回路は停止した。振り返るとそこには親友達の姿。ほっとしてため息をつく。よかった、榊さんじゃなくて。

「いないと思ったらやっぱりここかよ」

「探したんだからねー」

「あ、ゴメン」

「一馬。またなんか悩んでるでしょ」

「え!?そ、そんなこと・・」

「ある。俺たちの能力、忘れたわけ?」

英士の能力は読心術、潤慶の能力は霊視。結人は変化の使い手なので、表情の変化にはくわしい。隠し事をするには圧倒的に不利な相手だった。

「一馬はナイーブだから、すぐ壁にぶつかるよなー。ほら、早く話してみろよ」

結人がからかい半分に、肩を叩く。一馬はふっと困ったように笑って、さっき考えていたことを全て話す。のこと、数百年たった今でもまだ愛している。ゲリラ戦のとき、俺は戦えるのか、と。

「・・・一馬、一途っていうかなんていうか・・」

「確かに可愛いけどさ、もう数百年も経ってんだぜ?さすがに冷めるだろ普通は」

「まぁ、あの頃の一馬は見違えるくらい幸せそうだったけどね」

それぞれの感想を聞いて、一馬は少し赤くなる。それはの顔を思い出してしまった所為でもあった。だが、好きなものは好き、しょうがないことだ。

「だけど、ちゃんの方はまだ思い出してないんだろ?ってか、前世だしな」

「それが問題だよね」

「あ、でも思い出しかけてるかもしれない」

英士がさらっとすごいことを言った。他の3人もその言葉に驚きを隠せない。

結人が言ったように、が一馬のことを思い出すとしたら前世の記憶を思い出すということになる。そんなこと、ありえないことだった。

「どうしてそんなことわかるんだ?英士」

「一馬と小島が戦ってるとき、俺と結人が白月の姫と話してたんだよ」

「あーあーそういえばそうだった!」

「ずるいよ2人とも!抜け駆け!」

「いいだろーユン!」

明らかに話が脱線している潤慶と結人は置いといて、一馬と英士はさくさくと話を進めた。

「そのとき、一馬の勾玉の話が出たんだ」

「これの話?」

一馬が手に持っていた勾玉を見せると、英士が頷く。これとどういう関わりがあるのか、一馬には検討もつかなかった。

「一馬がその勾玉を手に入れたルーツを簡単に話してたんだけど、そのとき何か思い出した感じだった」

「英士は知ってんのか!?この武器を手に入れたルーツ!」

別のほうに驚く一馬に、3人はまた不穏なものを感じた。この武器を手に入れたことは一馬が一番知っているはず。ましてや、もう記憶は全て戻っているはずなのに。

もしかして、榊さんは・・・。

英士の心に、ひとつの仮定が浮かんだ。とりあえずそれを頭の隅に寄せて、話を元に戻す。

「それは追々話すよ。とにかく俺が言いたいのは、白月の姫は記憶の戻った一馬と出会えば前世の記憶が蘇るかも知れないってこと」

「それなら、ちゃんを傷つけなくても済むかもしれないしね」

「そうだな。記憶さえ戻れば、一馬のためにB・Tへ着てくれるかもしれねぇし」

「そ、っか・・・」

記憶さえ戻れば。一馬は頭の中でその言葉を信じていた。忘れられている自分を思い出してもらいたい。そうすれば、きっとまたあの頃の2人に戻れるはずだ。

「ありがと、すっきりした」

「がんばれよ、純情少年!」

一馬の肩をバンバン叩きながら結人は笑う。それを真似して潤慶も一馬の頭をガシガシとかきまわした。

「やめろよー!」

「アハハ!」

明るい3人とは対照的に英士は一人、さっき浮かんだ仮定のことを考えていた。

もし、本当に一馬が勾玉を手に入れたルーツを知らないんなら、一馬の記憶は完全に戻ったわけではない。

なぜ榊さんは・・・。

英士が見上げた空には今日も深い闇が広がる。

新月。月の出ないこの夜に、昔を少し思い出していた。