神聖な場所
















それは人によって違うけど
















そこは汚いものを入れなくする魔力がある
















だから俺は

















穢れた俺は

















あの教会に入れなかった
















































































黒い涙白い月














































































渋沢たちは南方の中心部に位置する街に生まれた。

それぞれに親はおらず、子どもの頃から苦しい生活を強いられてきた。それでも彼らは生きることをあきらめず、ひたすら前向きに生きてきた。

ひょんなきっかけから、4人での共同生活がはじまる。相変わらず貧しい生活だったが、毎日が楽しくて充実していた。

まるでずっと昔からこうなる運命だったかのように、4人は自然とこの生活に慣れていく。それはそれは幸せな日々だった。

「キャプテン、なんかまた兵隊さんが歩いてるっすよ」

藤代は渋沢のことをキャプテンと呼んでいた。なんでも、渋沢はこの家のキャプテンだからという意味らしい。

藤代に倣って笠井も窓の下をのぞく。するとそこには、銃を持ったたくさんの兵隊が行進していた。

その目には生気がなく、まるで生きる人形が歩いているみたいだった。その兵達たちに、2人は恐怖を覚える。

「おい、バカ代。そいつらのどんな腕章つけてる?」

「バカ代じゃないっすよ三上先輩!えーっと黒い星です」

「じゃあ反乱軍の奴らだな」

古びた新聞を見ながら、三上はそう呟いた。新聞の日付は3日前のもの。笠井のやっている新聞売りの残り物をもらってきているのだ。

その新聞には今動き出している情勢が書かれていた。なんでも今の南方政府に反対する人々がついに武力を用いて抗議しようとしているとのことらしい。つまり、内乱だ。

現南方政府はこれに全面対抗。そっちが武器でくるならこっちも武器で対抗してやろうと、軍を立てている。内乱情勢は深刻化していた。

「内乱なんて、いきなりどうしたんでしょうね反対派は」

「前までは武力を用いるなんてこと、絶対にしなかったのにな」

笠井の疑問に渋沢も首をかしげた。確かにごく一部の反対派は激しい部分もあったが、力で相手を押さえつけるということはしなかった。あくまで平和主義を唱えている派閥だったから。

それが突然の宣戦布告。4人だけではなく、街中の人が同じ疑問を持っているだろう。

「まぁ俺たちに被害が出なけりゃそんなもんどうでもいい。今日も仕事だ、俺はもう行くぜ」

「あぁ、気をつけてな。藤代たちもそろそろ行かないとまずいんじゃないか?」

「やばいもうこんな時間!タク行こ!」

「俺はとっくに用意でできてるよ」

ばたばたと3人が出て行ったあとで、一人残された渋沢は静かに窓の外をみる。三上が呼んでいた新聞は3日前のもの。ここ数日間で情勢がめまぐるしく変化していることを考えれば、内乱はすぐそこまで迫ってきていると見てまず間違いない。

やっと安定した生活を得たのに、内乱でまた壊されるのか。そんな不安が胸をよぎる。

反対派の急激な宣戦布告。渋沢にはそれが気になってしょうがなかった。誰かが裏で糸を引いているような気がしている。

「俺もそろそろ仕事の時間だ」

時計を見てそう呟き、渋沢も家を後にした。渋沢が考えていたことが起ころうとしているなんて、このときはまだ誰も予測できなかった。

それから数日後、ついに反乱軍の攻撃が始まった。街の人々は反乱軍が街を荒らすたびに逃げ惑った。家に火を放たれ、街が炎に包まれる日もある。それは渋沢たちも例外ではなかった。

「藤代!早く!」

「キャプテン、三上先輩とタクがまだ帰ってきてないです!」

「三上ならさっき連絡があって、先にシェルターへ行ってるそうだ。笠井も後から追いかけてくるだろ」

偶然家にいた2人は近くのシェルターに逃げ込むため、家を飛び出した。せめてこの家だけは炎に包まれないように祈りながら。

一方その頃三上は、仕事場から渋沢たちの行くシェルターへと急いでいた。

慌てふためく人々を掻き分けて、炎の熱さに耐えながら必死に走る。

悲鳴、罵声、泣き声、絶叫。そして崩れる建物。火の海と化した街。まるで地獄絵図だ。

そんな中、ただひとつ炎に包まれながらも凛と聳え立つ教会が見えた。物心ついたころから、三上はずっとこの教会を心の支えにしてきた。

美しく響く鐘の音は、自分の穢れ全てを浄化してくれるような気がする。教会から聞こえてくる賛美歌をよくこっそり聞きに行ったが、決して立ち入ることはしなかった。

一歩その教会に踏み込んでしまえば、汚れてしまうと思ったからだ。自分は汚い。だから神聖なこの場所には立ち入らないほうがいい。幼いころに考えていたことは、今でも胸に染み付いていた。

三上は走るのをやめ、教会と向きあう。十字架はこんなときでも綺麗に輝いていた。しばし時が止まった気がした。

「いやぁー!!」

女の悲鳴で、はっと我に帰る。現実に引き戻されればまたあの地獄が広がっていた。

悲鳴を上げた女はすぐ近くにいた。女が泣きながらしゃがみこんでいる前には瓦礫の山。その下から小さな手が見えていた。

「誰かー!誰か助けてー!」

子どもが崩れた建物の下敷きになってしまったんだろう。女は半分狂ったように叫び続けた。しかし、当然助けてくれる人などいない。みんな自分のことで精一杯だった。

三上はしばらくその場から動けずにいた。自分には助けられない。早くシェルターに行かなければ。

泣き叫ぶ女を尻目に三上は再び走り出す。やっぱり自分は汚い。教会には入れない。

握り締めた拳からは血がにじみ出ていた。

反乱軍の攻撃が終わり、人々が続々とシェルターから出てくる。渋沢たちも4人で家路を急いだ。

家は焼けていないだろうか、まだ一緒に生活できるだろうか。そんな不安が胸をよぎる。

たどり着いた家は、前のまま無事だった。よかった、と渋沢が声ももらす。それと同時に藤代と笠井が家へとかけていった。

しかし、三上だけは浮かばない表情。何かあったなと渋沢は感づいていた。

夕食が終わり、藤代と笠井が寝たあと。渋沢は三上にコーヒーを差し出し、向かい側に座った。

「どうした。何かあったのか?」

三上はひとつため息をついたあと、ゆっくりと窓の外を見つめた。教会は夜も輝いて見える。

「人間は汚いな」

ぽつりと呟いたその言葉は、渋沢の胸に深く突き刺さった。それは薄々渋沢も思っていたこと。内乱が始まってからずっと、人間の暗い部分を見てきた。

食料を奪い合う人々、銃を携え暴れまわる人々。大事なものを守るために、人は鬼と化した。

そして自分も、いずれそうなるだろうと思うと怖くなる。きっと自分はこの生活を守るため、鬼と化してしまう。三上もそれはわかっていた。

「こんな内乱、なんの意味があんだよ。ホント人間って汚ねぇ・・・」

「三上・・・」

「だけど、俺もその人間の一人なんだよ」

「それは違う」

「違わねぇさ。俺は汚い、真っ黒だ」

人一人助けてやれねぇ、と三上は頭を抱えて俯いた。かける言葉が見つからない。渋沢もまた、窓の外を見つめた。三上が教会を尊んでいることは知っている。自分は汚いと思っていることも。

自分と同じだ。渋沢は三上の肩に手を置いた。

「今は内乱だ。だからみんな大事なものを守るために鬼になる。だが、人は必ず心の中に綺麗なものを持ってるさ」

「渋沢・・・」

「俺はそう信じてるよ」

渋沢の笑顔をみて、三上もまた笑った。そう、きっとこいつらがいる限り、自分はまだやっていける。そう思っていた。

そのとき、また大きな爆発音が聞こえてくる。慌てて窓を開け、外をみると再び炎が街を包んでいた。今度はかなり近い。

「キャプテン!三上先輩!」

「また反乱軍ですか?」

部屋から出てきた藤代と笠井の言葉に渋沢は静かに頷いた。1日に2回も反乱軍の攻撃があるなんて、今までになかったことだ。

とにかく4人はシェルターへと逃げるために家を出た。しかし、その途中で三上の足がふっと止まった。

「三上!何してる!」

「悪ぃ、先に行っててくれ!」

「待て三上!!」

渋沢の制止を振り切って、三上はシェルターとは逆の方向へ走り出した。

三上は見た。反乱軍の数人が見知らぬ男と話しているところを。軍服を着ていないそいつは、きっと偉い人なんだろう。もしかしたらこの内乱を起こした張本人かもしれない。

もの影からそいつらの様子を窺っていた。すると、兵士の一人が三上に気付いて突然発砲してきた。

「っ・・!」

腕を掠めた銃弾は後ろにある建物に穴を開ける。

「なんだ貴様!」

兵士の全員が三上に銃を向けていた。死を覚悟する。あぁ、俺の人生もこれまでかと。

-みんな大事なものを守るために鬼になる-

渋沢の言葉が頭をよぎる。大事なもの。それを守るために、俺は生きなくてはならない。

教会の鐘が聞こえてきた。渋沢、藤代、笠井。大事な奴らを守るために俺はまだ死ぬわけにはいかない!

「うぉおぉ!!!」

近くにあった大きなガラスの破片を手に取り、三上はがむしゃらに振り回した。銃弾をいたるところに受けたが、それも気にせずただひたすらに兵士達と戦う。

気が付けば、倒れている兵士と体中血にまみれた自分。そしてさっきまで兵士と話していた男がいた。

男はニヒルな笑みを浮かべながら、三上を見ている。もうこれ以上三上は戦えない。今度こそ死を覚悟した。

「B・Tで待っている」

男はしばらく三上を見たあと、そう言ってその場から消えた。三上の身体から力が抜ける。

汚い。体中血だらけになっている。俺は人殺しだ。これじゃあ反乱軍とやっていることは同じだ。

やっぱり俺は汚い存在。世界も、人間も、自分もいっそのこと消えてしまえばいい。















コンナ世界壊レテシマエ














朝になり、渋沢たちが家に戻ると、そこにいたのは血まみれの三上。そして灰と化した我が家だった。

「三上!その傷は!」

渋沢が駆け寄り、三上を案ずるが彼はそれに答えなかった。ただ前を向いて、立っているだけ。

「家が・・・」

藤代は寂しそうに呟いた。反乱軍はついに、この家までも炎の餌食にしてしまったのだ。

笠井も悲しそうな顔をして、俯く。渋沢は怒りに身体を震わせ、三上を見ずに言った。

「この内乱、B・Tという組織が反対派をけしかけて始まったそうだ・・・!」

「B・T?」

さっき三上あ出会った男もそう言っていた。B・Tで待っているとは、そういうことだったのか。

「そのB・Tという組織を撲滅するための組織があるらしい。俺達はそこに入ることにした。もちろん三上も・・・」

「俺は―――」

渋沢の言葉を遮って、三上は静かに呟いた。

「俺はB・Tへ行く」

3人に衝撃が走った。内乱を起こした組織のもとへいくなんて、正気じゃない。

「なんでっすか三上先輩!」

「考え直してください!」

「三上・・・!」

それからしばらく3人は三上への説得を試みたが、どれも失敗に終わる。三上の意思は固かった。

そして三上は3人に背を向けて歩き出す。一度だけ振り返って見せたものは、あの意地悪い笑顔だった。













































































「それからB・Tに入った三上は榊に黒涙をはめ込まれ、特殊能力とB・T1の信頼を得たってわけだ」

渋沢さんはふっとため息をついてすっかり冷めてしまったお茶に手をつける。誠二と笠井くんもなんだか寂しそうだった。

「すみません、渋沢さん。ムリにこんな話・・・」

「いやいいんだよ。気にしないでくれ」

いつもどおりの笑顔に見えるけど、やっぱりどこか影があった。

「三上は榊の手下になって、この世界を破滅へと導こうとしてるんですよね」

がそう呟くと、渋沢さんは首を縦に振った。そこで私もある疑問にたどり着く。

榊が目的としているのは世界の支配。だけど三上が目的としてるのは世界の破滅。そこで狂いが生じてきている。

「三上は、他になにか目的があって・・?」

「俺はそう考えている。あいつが何をするのかも、今度のゲリラ戦ではっきりするだろう」

真剣な面持ちで呟いたその言葉は、あまりにも重かった。そのとき、すっと誠二が立ち上がった。

「俺は絶対にB・Tを許さない!三上先輩を引き込んだのもあいつらだ!だからぜっっっったいに許さない!以上」

よくわかんないけど、意気込みだけは伝わってきた。思わず笑みがこぼれる。笑うところじゃないんだろうけど、誠二らしくて頼もしかった。

「そうだな。俺は三上とこの世界を救ってまた一緒に暮らしたい」

「俺もです」

場の雰囲気がよくなって、渋沢さんも本当の笑顔を取り戻した。この決意、私達もしっかり受け継いで戦わないといけない。

今度のゲリラ戦は、それぞれの思いがつまってるんだから・・。

「がんばりましょう!」

「あぁ、

笑った顔に私もつられて笑顔になる。内乱を起こして、人々を傷つけたB・Tを私も絶対に許さない。


















そして数日後。いよいよゲリラ戦当日が訪れた。