昔々
世界を混沌の渦に巻き込んだB・T
それを倒すべく立ち上がったW・M
今、その組織が
戦いを始めようとしている
+黒い涙と白い月+
黒い夜空には白い月が浮かび、この乱れた世界を怪しく包みこむ。
ゲリラ戦当日。W・Mのメンバーたちは先ほど発表された東西南北それぞれの決闘場所へと移動していた。
東方、黒川、風祭、山口。西方、水野、小島、小岩。南方、渋沢、笠井、藤代、功刀。北方、日生、高山、そしてと。
この配置はデータ管理である水野がそれぞれの戦闘能力を計算した上で決めたもの。誰も異論はなかった。
「B・Tは誰がくるんだろうね」
北方、北の廃墟へ向かっている途中がポツリと呟いた。他の3人も同じ事を考えていたのだろう、ぐっと押し黙る。
「誰だろうと、B・Tなら叩き潰すのみ」
「みっくんの言うとおりばい」
「そうだね」
比較的前向きな3人とは対照的に、はこのゲリラ戦に不安を抱いていた。W・Mのヘッドである西園寺は、配置発表のときにこう言った。
「この戦いはW・MとB・Tの最終決戦よ。必ずどちらかが滅びることになるわ」
どちらかが滅びる。その言葉がの心にとても響いた。
数日前、渋沢たちの話を聞いて内乱の悲劇を知った。しかしそれは、B・Tのリーダーである榊が悪いだけであって、兵士たちやB・Tのメンバーはただ黒涙で操られているだけだ。
確かに、今までB・Tがやってきたことは許せない。だけど、本当にB・Tは滅びなければいけないのだろうか。にはまだ少しならず迷いがあった。
「、そんな深く考えないこと」
「・・・」
ただ前だけを見て進むが、にそっと声をかける。霊視の能力を使わなくても長年の経験からの考えていることなど、にはすぐ察しがついた。
「倒そうなんて考えないで、救おうって考えたほうが楽じゃない?が私を救ってくれたときみたいに」
が翼に操られていたとき、は見事を救って見せた。にはそういう優しさがあることを、は痛いほど知っている。
「そうだね、わかった」
「がんばれ。は白月の姫なんだから」
きっとできるよ、と静かに微笑む。その笑顔にもつられて綺麗な笑みを見せた。
険しい道をさらに進むと、しばらくして辺りに白いモヤが出てくる。北の廃墟が近い証拠だった。
「そろそろやね」
「あぁ」
昭栄と光宏が息をのみ、ともそれに乗じて拳を握った。遠くのほうに廃れた建物の影が見える。
そして、北の廃墟の前。モヤの向こうに立っていたのは見慣れた顔の4人の少年たちだった。
東の楽園。かつてそう呼ばれいたこの地には、今やその面影はない。
瓦礫の山、こびりついた血、見渡す限り廃れた世界が広がっているこの地に今、6人の少年達が対峙していた。
「また会ったね、柾輝。将も久しぶり。そっちは確か・・山口だったっけ?」
ニヒルな笑みを浮かべながらW・Mの3人を見渡す翼。その余裕が翼の武器のひとつでもあった。
「推測どおりのメンバーだ。勝機はB・Tにある」
「不破くんの計算は狂ったことないですからね〜。この前みたいにはいきませんよ、ケースケくん」
もっていたパソコンをパタンと閉じ不破が言うと、須釜もそれに合わせて圭介を挑発する。
ものすごいプレッシャー。B・T達からは殺気がひしひしと伝わってくる。黒川は視点をただ翼だけに定め、こちらも負けじと殺気を放った。
圭介も須釜とにらみ合う。2人はトーナメントで戦った仲。そのときは圭介の勝利で終わったが、須釜には制御装置がついていた。
見たところ、今回の戦いにB・Tは制御装置を用いていない。つまり、本気というわけだ。
「返り討ちにしてやるよ、スガ」
「望むところです、ケースケくん」
数本の鋭いナイフと取り出すと同時に須釜もきらりと光る扇子を構える。それを合図に他のメンバーもそれぞれの武器を取り出した。
「相手は決まったようだな」
不破が長い槍を構え、静かに言う。その矛先は風祭に向いていた。
「俺の相手はお前のようだ、風祭」
「不破くん・・・」
この2人もかつては同じ仲間だった。だがしかし、Dispar of nightmareによりその仲は引き裂かれる。
風祭は、なんとしてでもこのゲリラ戦に勝たなければならなかった。勝って、不破と以前のような仲に戻りたい。それは水野や小島も同じ思いだった。
「不破くん、僕は―――」
覚悟を決め、風祭も身体に似合わぬ大きな尺杖を取り出す。
「君をB・Tから救うためにW・Mに入ったんだ」
芯の通った意思の強い目。その目は、昔不破も見たことのある目だった。不意に、楽しかった平和な世界が脳裏に浮かぶ。
俺は風祭たちと道をたがえた。なぜB・TがDispar of nightmareを起こしたのか。その真意が知りたかった。
だが俺はもう、昔のようには戻れない。黒涙と身体に埋め込まれたあのときから、俺は完全にB・Tの人間となった。
悪いが風祭。俺は本気で行かせてもらう。いくらお前たちが望んでも、後には引けなくなってしまったんだ。
「それじゃ、行くよ!!」
翼の掛け声と共にB・T、W・Mとも真剣勝負が始まった。
ガン!という鋭い音が西の果てに響き渡る。水野の両手にある長めのソードがシゲの剣を間一髪のところで受け止めていた。
ギリギリの攻防でも、シゲは相変わらず余裕の笑みを浮かべて水野と対峙している。逆に水野の顔には焦りの表情が出ていた。
「なんでお前がこの戦いに参加してるんだ!シゲ!」
「そんなん、簡単なことやでたつぼん!」
シゲの剣を両手のソードではじき、互いに間合いを取る。荒い息を整えながら、それでも2人は相手から目を離さなかった。
「お前ら情報屋はW・MとB・Tの抗争に巻き込まれたくないからという理由で、どちらにも属してないんだろう!それが今更なんでB・Tについてるんだ!」
「そないなこともわからんのかいな、たつぼん」
数メートルはあろうかという間合いを、シゲは一気に縮めて再び水野と剣を交える。本気で切りかかってきたシゲを、水野も本気で受けた。
「俺らは金で動く組織やで?金のためならなんでもやるんや」
「お前、まさか・・・!」
シゲの力がぐっと増し、その場にしりもちをつく水野。そしてシゲの剣は水野の喉もとを捕らえる。
「そや。俺らはB・Tに金で買われたんや」
衝撃の告白に、しばし身体が動かなくなった。それでもなんとか無理やり身体を動かして、水野はシゲの鋭い剣先を避ける。
また間合いを取れた。最悪の事態が起こってしまったと、水野の頬に冷や汗が流れた。
「そういうことなんや。堪忍してな」
そう笑ってウインクをする吉田に、有紀は怒りを覚える。こいつも自分が女だからといってなめていると感じたのだ。
余裕の笑顔を見せ、シゲと同じ型の剣を構える。有紀も同じく短剣を両手に構えた。
「B・Tについたからには、今まで情報をくれた恩一切忘れて潰しにいくわよ」
「おぉ〜怖いわぁ。そないに怒らんで、小島ちゃんv」
唇を噛んで、すばやく間合いをつめ、吉田に切りかかる。吉田はそれを軽く身をかわすことでさらりと避け、逆に剣を振り下ろした。
完全に背中をとられたと思ったが、そこは有紀も戦闘が専門。しっかりと短剣で受け止めていた。
「勘違いしたらあかんで、小島。俺らがなんで金で雇われたか知っとる?」
「どういう意味よ・・・!」
「情報屋。つまり、そちらさんのことなら・・」
有紀の身動きを封じ、吉田はもう片方の手から小さなナイフを取り出した。
「お見通しや!!」
その言葉と同時に振り下ろされたナイフは、間一髪のところで有紀のもう一本の短剣により止められる。
「・・そっちこそ、勘違いしないで。私は今までの私じゃないのよ」
吉田の頬から一筋の血が滲み出す。有紀の投げた短剣が、彼の頬を掠めたのだ。
互いに、拮抗した状態が続いた。
「うおぉぉ!!!」
チェーン付のソードを大きく振りかぶって、藤代は三上に襲い掛かった。
しかしその刃をムチでかわし、反対にもう一本のムチが藤代の肩を掠める。
「またバカ代じゃもの足んねぇな!」
「バカ代じゃねぇっすよ!」
さっきかわした刃がブーメランのように戻ってきて、三上の背後を取る。三上はニヤリと笑みを浮かべ、さらりと刃を避けた。
「俺を忘れてもらっちゃ困る」
渋沢の暗器が三上の頬を掠める。2対1とは卑怯かと思われるかもしれないが、三上の実力からしてこれくらいで互角だった。
「渋沢・・・!」
「もう、俺達も手段を選べないからな・・・」
3人の目にはそれぞれの思いと闘志がみなぎっていた。
「4対3じゃ、不公平だな」
「なんや、B・Tが頼れるんは数だけと?」
設楽とカズも先ほどから激しい争いを続けている。設楽の武器は気孔術。様々な角度から繰り出される黒い気を、カズは必死に避け続けていた。
「まさか俺が裏切り者と戦うことになるとはね。光栄だよ」
「・・・せからしか。そげんなめた口ば聞いとると、痛いめ見るったい」
互いにしばしにらみ合う。実力はほぼ互角。勝負を決するのは、もはや己の気力だけだった。
カズが弓をすっと放つ。その矢をかわし、設楽も気孔術を放った。
一方こちらは笠井と杉原。この2人も拮抗した状態が続いていた。
「さすがはもと忍者。一筋縄ではいかないね」
「俺はもう忍者じゃない」
その言葉と同時に笠井が手裏剣を投げつける。杉原も武器である短剣を使い、それを全て落とした。
「この剣、意外と便利なんだ」
杉原が短剣に手を添えると、その長さはたちまち大きくなった。伸縮自在の剣。やっかいだと、笠井は舌打ちする。
だが、笠井の武器も手裏剣だけはない。杉原と同じ剣の類も持っている。
(悪いけど、俺がトーナメントで全ての武器を見せたと思ったら大間違いだよ)
袖の中に隠してある剣を握り締め、笠井は杉原を見据えた。
モヤのかかる北の廃墟。他の土地ですでに激しい戦いが繰り広げられている中、ここだけはまだ戦闘に入っていなかった。
「遅いよ。待ちくたびれたー!」
潤慶が抗議の声をあげると、4人の姿が明らかになる。
郭英士、若菜結人、李潤慶、そして真田一馬。口元には余裕の笑みを浮かべているが、その殺気はトーナメントのときとは比べ物にならなかった。
「不破の言った通りのメンバーが来たね」
「さっすがクラッシャー不破ってか?」
「結人、それ褒めてない」
くだけた場の雰囲気でも、そのプレッシャーはひしひしと伝わっている。さっそくたちはそれぞれの武器を構えた。
結人は有紀と、英士は日生と、潤慶は昭栄と、目線を交えている。対戦相手は決まったようだ。
「・・・・・・!」
一馬は自らの対戦相手であるの名を呟く。それはかつて、愛した人の名前。それはかつて、悲しい別れを体験した人の名前。
そして、今もなお愛しいと思ってしまう人の名前。
まだは思い出してはいないようだが、この戦いできっと思い出させて見せる。
そしてまた、あの日のように・・・。
「俺は絶対に、思い出させてみせる!」
勾玉を取り出して、一馬はすばやく剣へと変化させた。それを見てもブレスレットを取り出す。
ドクン、と一馬の鼓動が高鳴った。
今、北の廃墟で最後の戦いが始まろうとしていた。


