何が世界を元に戻すだ











何が世界を平和にするだ











そんなこと俺の望んだことじゃない












俺の目的はただひとつ











この世界を――
















































































黒い涙白い月


















































































カプセルの中から現れたはもはやただのではなかった。

白月の姫。遥か昔に現れたまさに真のメシアそのもの。あまりにも神々しいその姿に、榊たちは言葉を失った。

「くっ!なぜ黒涙の君が白月の姫に・・・!!」

榊をはじめ、その場にいた三上も戦闘態勢を取る。しかし、ただ一人一馬だけは黒涙に支配されたままをじっと見つめているだけだった。

はそんな一馬をすっと見下ろし、優しく微笑む。全てを思い出したにとって一馬は今誰よりも愛しい存在。いち早く黒涙の呪縛から彼を放ちたかった。

が静かにカプセルから下りる。そして優しく一馬の頬を包むと、の手からまばゆい光があふれ出した。

「あ、れ・・・?」

その瞬間。一馬の瞳から黒くよどんだ光は消え、生気が戻る。正気を取り戻した一馬は今起きている状況が理解できなくて、呆然とした。

しかし、目の前で優しく微笑むの姿を見て気付く。の顔はとてもすっきりとしたものだった。思い出してくれたのかもしれない。前世の記憶を・・・。

「一馬――」

の声を聞いて、一馬の予想は確信に変わる。数百年前、共に愛し合っていたの呼び声。それは今でも忘れない。

思い出してくれたんだ。あの日々、楽しかったときも全て。

嬉しくてしょうがなかった。やっと出会えた気がする。本当のに、本当の愛しい人。

は静かに腕についているブレスレットを見せる。その中心には一馬の武器である勾玉がはめ込まれていた。

それを見たとき、一馬の記憶もまた蘇った。

そうか、そうだったんだ。この勾玉は・・・。













-これ、あげるよ-













小さな頃。まだ廃れた生活をしていたときに、一馬は一人の少女に出会った。

それは幼き頃の。小さな手に握られていたのは、紛れもなく勾玉だった。

やがて二人が出会うなんてことそのころはまだ知る由もなくて、ただ始めてもらったプレゼントに一馬は感動しているだけだった。

どんな力があるのかもわからないまま、一馬はそれを宝物のように大事にする。思えば、あの時から一馬とが愛し合う運命は始まっていたのかもしれない。

やっと思い出した。自分の過去。自分の全て。これで二人はあの頃に戻れる。

は一馬ににっこりと微笑んだあと、両手を空高くに掲げた。その両手からまたも神々しい光が溢れだす。

白い光は瞬く間に部屋を包み込み、次第に外へと広がっていった。

狂った世界を、邪悪に満ちたこの世界を、白い光あ包み込んでいく。














































































「なんだ、あの光・・・」













































































これ以上悲しみが増えないように


















































































・・・?」







































































これ以上涙を流す者が増えないように















































































「行かない、と・・・あの場所へ」













































































さぁ、みんな























































































「北の、廃墟へ・・・・」




















































































全部、終わりにしましょう


















































































白い光に導かれ、各地に散らばってゲリラ戦を行っていたB・TとW・Mたちはの元へと集まっていった。

北の廃墟。B・Tのたまり場となっている、諸悪の根源の住まう場所。そこは今、白月の姫によって明るく照らされている。

その光、まさに神か天使の光。太陽にも似た、いや太陽以上に明るく誠実な光だった。

廃墟に集まったみんなは、光の源になっているを見て言葉を失う。あれが白月の姫。伝説のメシア。

いつものとは違う雰囲気が漂っているが、その姿はまさにそのもの。しかし、あまりにも神々しい。

「みんな」

はよく響く、涼やかな声で言った後静かに微笑む。白いドレスに身を包んだに、天使のような印象を受けた。

そしての手が集まった全員のほうに向けられる。そこから発せられる光を、全身に受けたみんなは瞬く間に傷が直っていくのを見た。

「これは・・・」

「傷が治った?」

驚きと疑問の声があがる。に治癒の能力はなかったはず。いやそれ以前に、これは治癒の直り方じゃない。

再生という言葉がそれぞれの頭の中に浮かんでいた。

、いったいどうなってんだ?」

光宏が複雑な表情で尋ねると、は少し寂しそうな顔をして俯いた。

「私は白月の姫、。遥か昔、この地を平和へと導いたメシア。私の使命は再びこの地を悪魔の手から救うこと」

「じゃあ記憶が・・・!」

結人が明るい顔で聞くと今度はもにっこり笑って頷いた。一馬もそれに合わせて微笑む。

「ハハっ、そっか!そっかそっか!」

嬉しそうに笑う結人。それは潤慶と英士も同じことだった。

記憶が戻った。全てが昔の二人に戻ってくれた。そして、が白月の姫になったことできっと黒涙からも開放されたんだ。

これでこの世界もやっと平和になる。元通りの世界に戻るんだ。

全員が希望に満ちていた。が、しかし。それを一人だけ望まないものがいる。

「冗談じゃねぇ!」

ドン、と近くにあった壁を拳で殴り、三上は叫んだ。

「お前ら忘れたのか?Dispar of nightmareの惨劇を!この世界を支配するのがお前らの目的じゃなかったのかよ!」

すっかり世界平和の概念に囚われてしまっているB・Tに対して、三上は怒りをぶつける。

彼の心の中では今、忘れられない記憶たちがめぐっていた。内乱の悲劇。それを知らぬ者はいない。元はといえばB・Tのメンバーたちはみな、この世界に恨みを持っている者ばかりだった。

それを今更W・Mと協力して世界を立て直す?馬鹿げた話だ。

いくら世界が元に戻ったって、昔の生活に戻されるだけ。またあの悲劇を繰り返すかもしれない。

それに、この身体はもう時間の軸からはずされている。Dispar of nightmareの所為で永遠に生き続けるこの身体。

なんど捨てようとしても、ムリだった。ならいっそ、このまま世界と一緒に消えてしまえばいいじゃないか。

三上はさらに熱弁をふるった。

「今まで散々裏で動いてきたお前らが元の生活に戻れるとでも思ってんのか!?」

「お、おい三上・・・お前何をそんなに熱く・・・」

近くにいた設楽が声をかけても、そんなことには全く囚われなかった。

W・MはもとよりB・Tたちですら、こんなに熱くなった三上など見たことがない。

三上といえばB・T一の古株。いつも何を考えているのかわからないような奴で、常に冷静沈着。そして冷酷。その三上がここまで熱くなるなんて、考えられないことだ。

「三上亮」

は三上に向かってその名を呼んだ。ギラリと光る三上の目が、を見据える。

「あなたは本当にこの世界をどうにかしようと思ってるの?」

、それどういう意味だ?」

一馬の質問に、は少しだけ顔をゆがめる。できれば当たってほしくない予感。それを問いただしているのだから。

三上はいつもの笑みを浮かべてふっと口元を緩めた。そして握っていた拳を開き、肩のところで両手を広げる。

「さすがは白月の姫。察しのいいことだ」

「やっぱりあなたは・・・」

三上の目が鋭く、凍る。

「そう、俺の目的は―――」





















































































「この世界の破滅だ」













































































その言葉に、全員の動きが止まった。世界の破滅。それはB・Tのリーダーである榊がやろうとしていることと正反対だ。

「どういうことだよ三上!お前、世界を支配しようとしてたんじゃ・・・!」

「元から世界なんぞになんの興味もねぇよ」

絶対零度の言葉。三上はきつい目を暗く光らせながら言った。

「この世界は暗く、廃れてる。人々は奪い合い、殺し合い、死んでいく。人の情なんて所詮は上辺だけのもんだ。誰しも心の底では暗く深い闇を持ってる。そんな汚い世界なんて、支配する意味ないだろ?」

誰も言い返すことなどできなかった。B・Tの人間は特に、三上と同じ考えを持っている者が大多数だ。

「それならいっそ壊れちまえばいいんだよ。変な特殊能力の所為で忘れられない記憶を持った俺には、それしか方法がないんだ」

お前らにはわからないだろうがな、と三上はまた不適な笑みを浮かべた。

この世界でただ一人、驚異的記憶力という能力を授かった三上の背負うものは他人が思っている以上に重かった。

忘れたくても忘れられない記憶たち。それらから逃れるために、必死にもがいてもドロ沼にはまっていくだけ。

「けど、そんなことしたら俺らも・・・お前自身も消えることになるんだぞ!?」

結人が大声を張り上げていうが、それにも三上は動じない。

「何言ってんだ。それも目的のひとつだよ」

「どういう・・・」

「あのなぁ、俺達はもう何百年という時を生きてるんだぜ?時間の軸から外れたこの身体。もういらねぇじゃねぇか」

この世界と共に朽ち果てる。それが三上の真の目的。もとより榊の下についていたのは、仮の姿だったというわけだったのだ。

「それじゃあ第2のDispar of nightmareも――」

英士の言葉に、三上はゆっくりと頷く。そしてまた、笑った。

「その通り。今度のは本物のDispar of nightmareだ。だがそれは、黒涙をばら撒くことじゃない。この世界を壊すことが目的」

「だましてたのか・・・!」

「だます?違うな。利用しただけだ」

もはや彼の意思を変えることなどできない。三上はそれほど強固な決意を胸に秘めていた。

「一番初めのDispar of nightmare。あれも本当はこの世界をつぶすためのものだったのね」

「あぁ。その時は失敗に終わったが、今度こそこの世界をつぶさせてもらうぜ」

はキッと三上をにらみつける。

そんなこと、絶対にさせない。ここは一馬との思い出がたくさん詰まった世界。そしてみんなが生まれ育ったかけがえのない世界。

きっと元に戻してみせる。

が両手につけていたブレスレットを光らせる。それと同時に三上も、自分の武器であるムチを一気に2本取り出した。

だが、その時。北の廃墟に響きわたる足音。

「三上ぃ・・・」

その主は、B・Tのリーダー榊。だが普段と様子が違った。

いつもはニヒルな笑みを浮かべている榊も、今は目が黒く光っている。

「私をだましたのか!!」

「ちっ、聞かれてたか」

悪びれる様子もなく、三上はただ榊を見つめる。それに対して榊は顔色を変えて怒りをあらわにしていた。

「許さん!絶対に許さんぞぉ!!!」

その言葉と同時に、榊の姿は急変した。

頭からは2本の角。髪の毛は黒くなびき、長くなった。そして何よりも背中から黒い翼が生えたのだ。

まさに悪魔。太古の昔に世界を破滅へと導いた諸悪の根源。

「悪魔・・・!!」

がそう呟いた。

榊の本性が現れてしまった。