私は白月の姫











この世界を守るために、私はこの道を選んだ











だから私は戦う










この世界のために











悲しみをもつ人々のために











私は絶対












悪魔を倒す































































































黒い涙白い月























































































榊の・・・悪魔の姿は想像していたものよりもはるかに醜いものだった。

身の丈は私の何倍もある。その巨大な身体からは邪悪な気が満ち溢れていた。

悪魔は口から白い息を吹き出しながら私たちを見下ろす。その瞳をにらみつけて私はブレスレットに力をこめた。

取り出したのは白く輝く剣。一馬の勾玉を取り入れて完全態となったこのブレスレットは、以前よりもずっと性能が上がっている。

白月の姫としてW・Mに入った時から、いつかこうなることはわかってた。これが私の選んだ運命。決して逃げはしない。

怖いけど、大丈夫。私にはみんながいるから。

・・・」

が心配そうに私の名を呼ぶ。大丈夫、と力強く頷いて私は悪魔に飛び掛って行った。

風の力を味方につけて高く飛び上がると、悪魔の右肩に深く剣を突き刺す。

「ぐわぁっ・・!!!!」

うめき声をあげて悪魔は血の吹き出す肩を押さえ、うずくまる。意外にも簡単に決まってしまった攻撃に、少し驚いたけどその様子は顔に出さなかった。

私は再びブレスレットに力をこめる。今度は弓に変化させて、多大な量の矢を放った。

白い矢たちは一直線に悪魔の身体へと突き刺さる。また悪魔が苦しみだした。それでも攻撃を止めるつもりはない。

だけど、何かひっかかる。攻撃も全部決まっているけど、どこか大きなものを見落としているような気がしてならなかった。

最初におかしいと気付いたのは、悪魔の様子。なぜ抵抗しないのか。そして、もうひとつ。最大の疑問。

さっきつけたはずの右肩の傷。出血が止まっている。

「なんで・・・」

小さく呟いて悪魔をにらみつける。確かにさっきは深手を負わせたはず。その傷がこんなに早く直るわけがない。

何を見落としてるの?なにかがおかしい。でもいったいなにが・・・。

弓を剣へとまた変化させて、私は悪魔に矛先を向けた。こうして対峙してみると、ひしひしと感じる悪魔の邪悪な力。

この力にみんな操られ、悲しみを生み出した。私は絶対に悪魔を許さない。

はるか昔に傷つけられたお妃様の分も、今苦しんでいるみんなの分も、私は戦う。

必ず、悪魔を倒す!

「はっ!」

今度は肩ではなく、もっと急所を狙って悪魔の頭に剣を掲げた。振り下ろした瞬間、嫌な手ごたえと共に剣はすんなり悪魔の頭を貫いた。

「ぎゃぁあぁああぁぁあ!!!!!」

建物が揺れるくらいの大きな叫び声とともに悪魔はまたうずくまる。だがその表情はぞっとするくらいの笑顔だった。

「フッフッフ・・ハハハハ・・・アーハッハッハッハッハ!!!!!!」

低く、どすの利いた声で悪魔は頭から血を流しながら笑う。悪魔の笑い声はこの世界中に広がり、遠くの森の動物達を死なせた。

私も耳が痛い。鼓膜が破けそうなほどの音量と、邪悪な声。他のみんなも耳をふさいでいた。

「ありがとう、白月の姫。これでお前の敗北は決まった」

人間の声ではない。もはや榊の面影はどこにも感じられなかった。敗北、つまりは死。その言葉に私はまた背筋を凍らす。

「どういう意味」

それでもひるむことなく、自分を強く持って聞いた。悪魔は不敵な笑みを浮かべて深く切り裂いた頭に手を当てた。

黒く光ったその手のひらを離れた頭には、先ほどの傷がなくなっている。治癒の能力とは違う。これはさっき私がみんなの傷を治したときと同じような現象。

なぜ悪魔が私と同じような技を・・・?

「私の能力はこれだけではないぞ。私の真の能力、それは――」

悪魔が私の右肩に向けて指をさす。すると、私の肩から大量の血があふれ出て、激痛と共に私はうずくまった。

出血の止まらない右肩を押さえながらまた悪魔をにらみつける。そうか、わかった。なんで悪魔が私の攻撃をすんなりと受け入れていたのか。

心の底から楽しそうな表情を見せて、悪魔は言った。

「受けた攻撃の反映だよ」

反映。つまりは受けた攻撃を鏡のようにそっくりそのまま相手に返すこと。ということは、右肩だけじゃない。私が悪魔に仕掛けた攻撃の全てが、私自身に返って来る。

それじゃあ私が最後にした悪魔への攻撃を受けたら・・・私は死ぬ。

「そんな・・・・」

「自らの攻撃で死ねるのだ、感謝すべきだろう?」

このままでは確実に死んでしまう。なにか攻略法はないの?どうすればいい。私は、どうすれば。

フラフラと私は立ち上がり、再び剣に力をこめる。次の攻撃は弓矢。ここは盾でしのぐしかない。とにかく、ここは少しでも攻撃を避けないと。

武器を変えるだけでも相当な力を必要とする。かなり辛かった。白い盾があらわれて、それを私はしっかりと構える。

「フ、そんなもので攻撃がかわせるのか?」

悪魔は両手を私の方に向け、広げた。すると黒い光を放つ矢が私の放った分と同じ数だけこちらに向かってくる。

盾にすごい衝撃がきた。痛む右肩をかばいながら、それでも私は必死に盾を構え続けた。

出血はまだ止まっていない。だけど、ここで死ぬわけには行かないの。

みんなの悲しみ、私が代わりに打ち払う。悪魔を倒して、みんなの代わりにこの世界に平和をもたらす。

それが私の使命。白月の姫として、私がこの世界を救ってみせる。

だからここで死ぬわけにはいかないの!!

このとき、私はまだ気付いていなかった。

盾に小さなひびが入っていることを・・・・。
























































































































!!」

が戦うに向かって叫び声をあげる。右肩からの大量出血。あれはほっといていい怪我じゃない。それなのにはまだ戦っている。悪魔に屈することなく、一人きりで。

はそれがもどかしかった。自分もに加わって戦いたい。しかし、それをW・Mのみんなが許さなかった。

「やっぱり私も戦う!、怪我してるんだよ!?」

「落ち着いて!今行ってもあなたまで巻き添えになるだけだわ!」

「でもこのままじゃが・・・!」

有紀に言われた言葉で、に悔しさがこみ上げる。は自分を助けてくれた。それなのに自分はを助けることができない。

悔しくて、もどかしくて、次第に涙がにじみ出てきた。どうしようもない。どうすることもできない。親友が一人で戦っているのに・・・。

「もう、止めらんねぇよ・・・」

隅のほうから、ぽつりと聞こえた言葉。がその方向を向くと、俯いたB・Tたちが固まっていた。

「どういう意味よ」

「あの戦いはもう止められない。俺達が加勢してどうにかなるような戦いじゃねぇ・・・」

「結人の言うとおりだね。榊さんは完全に悪魔になった。俺達ですら、止められない」

見ればB・T全員が暗い顔をして戦いから目を背けていた。その姿には怒りをあらわにする。こんなの間違ってる。絶対に、違う。

「いい加減にしなさいよ!あんたたち!!」

悪魔とが戦ってる最中、爆音と共には怒鳴り声をあげた。B・T、W・M共にのほうを見つめる。

「何がもう止められないよ!あんた達、が誰のために戦ってると思ってんの!?」

「お前に何がわかんだよ!悪魔になった榊さんを止められる奴なんているわけないだろ!」

結人が涙声になりながら叫ぶ。しかし、それでもは怒りを抑えきれなかった。

はね、は・・・白月の姫である前にという人間。私の親友なのよ」

ぽろぽろと涙をこぼしながらは静かに言った。今まで一緒に過ごしてきた日々が頭の中をめぐっていた。

は誰よりも優しくて、正義感が強かった。そんなが白月の姫になって、一番初めに思うこと、あんたたちにわかる?」

静まり返るみんなの耳には、ただが悪魔と戦う音しか入っていなかった。ふと、そちら側を見る。そこには血だらけになりながら、傷だらけになりながら必死に戦うの姿があった。

「この世界を救いたい、ってことよ」

は誰よりも強くて、それでいて弱さを誰にも見せなかった。ずっとずっと一人で戦ってきた。この世界のため、悲しみを背負った人々のため、今もこうして一人で戦っている。

そのもどかしさは、親友であるが一番よく理解していた。それはW・M、B・Tの誰もが感じている思い。

が今戦ってるのは、ここにいるみんなのためでしょ!?Dispar of nightmareを起こした張本人は、B・Tという組織を作ったのは、紛れもないあの榊という悪魔じゃない!!」

・・・」

「それを黙ってみてるって言うの?はたった一人で、この世界のために戦ってるのよ!?なのに、それなのに・・・!!」

は如意棒を取り出して、ドンと地面に突き立てる。

「私は行くわ。たとえ一緒に巻き添えを食らおうと構わない。私はW・Mの一員、そしての親友だもの」

そう言ってはみんなのほうに背を向けた。するとその肩を叩くものが現れる。有紀だ。

「私も行くわ」

「小島・・!」

の言うとおりじゃない。私たちはW・M。悪魔を倒し、白月の姫を守るのが私たちの使命よ」

「俺も行くったい!な、みっくん!」

「おう!昭栄!」

それから気が付いてみればW・M全員、の近くに集まっていた。W・Mの団結力、そしてへの思いがには嬉しかった。

みんなが戦いに向けて意気込んでいる中、はそっとB・Tのほうを向いた。

「止めたきゃ力づくで来なよ。B・Tは悪魔の手先だもんね。とうぜん悪魔の味方なんでしょう?」

「それは・・・」

「悪魔の味方もしない、の加勢もしない。でもこの世界はどうにかしたい。そんなの通用するわけないわよ」

冷たく言い放ってたちはの元へ向かった。

後に残されたのはB・Tだけ。彼らは迷っていた。

今まで受け持ってもらっていたのは榊。しかし、その行いが本当にこの世界のためだったのか?

悪魔にも白月の姫にも加勢しない。そんな男らしくないこと、自分達だってしたくない。

「俺は・・・」

一馬が呟く。その言葉に、B・Tたちは一馬へと視線を移した。

「俺は、白月の姫に加勢する」

「一馬・・!!」

「だっては、俺達のために戦ってんだぞ!?もうB・TとかW・Mとか、そういうの関係ねぇよ。俺は俺の意思を貫く」

「俺もその意見に賛成だね」

「英士」

「へたれかじゅまに説教されたんじゃ、黙ってらんねぇよな!」

「結人」

「一馬もたまにはいいこと言うじゃん」

「ユン」

決意は固まった。

B・Tたちはそれぞれの武器を取り出して、悪魔へと立ち向かっていく。

その姿に、もう黒涙の支配は見られなかった。