世界を混乱の渦に巻き込み
幾多の悲しみと絶望をあたえ
人々を苦しませた諸悪の根源
今ここで
葬り去る
+黒い涙と白い月+
悪魔から矢を受け続けて、もうどれくらい経ったのだろうか。私は未だにその攻撃を盾でしのぎ続けている。
右肩の出血はまだ止まっていなく、それどころか酷くなっていた。それでもなんとか耐えて盾を構え続けるけど、そんなに長くはもたないと思う。
悪魔の攻撃はさっき私が悪魔に与えた攻撃そのもの。つまりは、白月の姫の攻撃を私が受けているということになる。
その凄まじさといったら、今まで戦ってきたものよりはるかに上だった。矢は勢いを増し、さらに私を追い詰めていく。
矢が白い盾に当たる音が耳元で大きく聞こえる中、私は聞いてしまった。
何かがひび割れる音。それは紛れもなく、この盾自身の悲鳴だった。
どうしよう。これ以上は盾がもたない。いくらW・Sで作られたものとはいえ、今加えられてるのは白月の姫の攻撃。
同じW・S同士でこんなに長く攻撃を与え続けられたら、壊れるのは当然のことだった。ひび割れた箇所を探していると、確かに数センチのひびが入っている。
このままでは、まずい。早く何か別の策を考えないと。だけど、今一瞬でも盾を解いて別の武器に変えたらその間に悪魔からの一斉攻撃を食らってしまう。
どうすれば・・・。なんとか耐えしのぐしかない。今は悪魔の攻撃の隙を見つけるしか方法はなかった。どこかに必ず隙ができるはずだ。そのチャンスは絶対に逃さない!
私はしっかりと盾を持ち直す。そして無数に飛んでくる矢から己の身を守っていた。ひび割れた盾でどれだけもつのかわからないけど、とにかくしのがないと。機会を待つんだ。
と、その時。悪魔が攻撃を止めた。突然のことで一瞬たじろいたけど、それを逃す私ではない。瞬時に盾から顔を出し、W・Sに意識を集中させる。
しかし、盾から剣へと武器を変化させようとした瞬間。また大量の矢が向かってきた。
しまった・・・!攻撃を止めたのは、盾から私を出すためのおとりだったんだ。
矢が私の身体に突き刺さる瞬間、私はなんとか変形を中止し、また盾の姿へと武器を変える。そして間一髪のところで矢の攻撃を食い止めた。
だけど、悪魔の目的はまさにそこだった。
バキっ!という音と共に、目の前から盾の姿が消える。砕け散る白い盾、目の前に迫り来る無数の矢。全てがスローモーションに見えた。
「いやぁっっぁあぁああ!!!」
白く鋭い矢が私の身体に突き刺さる。たまらず地面に倒れこみ、全身に走る激痛を耐えしのいだ。
痛い、痛い、痛い・・・!!!
意識が遠くなりそうだった。けど、ここで意識を失ったらみんなの希望が潰えてしまう。なんとしてでも起き上がらないと。また戦わないと・・・!
痛む身体をなんとか立たせて目の前で不敵に笑う悪魔を見据える。圧倒的不利な状況。私の武器であるW・Sも壊されてしまった。
あの完全態であるはずのW・Sが・・・。どうすればいい?武器なしで戦えるほどの相手じゃないことは、よくわかっている。
武器の破壊。それが悪魔にとっての勝利となるのは、明らかだった。
ここまでか・・・。ごめんね、みんな。私が弱いばっかりに、みんなの希望がなくなっちゃった。私がもっと強ければ、こんなことにはならなかったのに。
昔の白月の姫は悪魔を倒したけど、私にはもうムリみたい。このまま死にゆく運命なのかな。そんなの嫌だ。だけど、どうすれば?
私は負けたんだ・・・この史上最悪の悪魔に――
全身から大量の血を流しながら、私は地面に膝をついてうなだれた。もうおしまい。全て、希望はつぶされてしまった。
ごめんね、みんな・・・・。
「下向くなよ、」
え・・・?今の声、一馬?
私は俯いていた顔を上げて周りを見渡す。そこに立っていたのは、ぎこちなく微笑む一馬の姿。そしてそれぞれの武器を構えて私を取り囲んでくれているみんなだった。
「遅くなったな、!」
「ここからは俺達も戦うとよ!」
「もう悪魔の好きにはさせないわ!」
「後は私たちに任せて、はゆっくり休んでて!」
W・M、B・T共に悪魔に向けて怒りの視線を放っている。私を守るために、来てくれたの?みんな、私のために・・・。
「光宏、昭栄、有紀、、みんな・・・」
嬉しかった。どれだけ心強いか。どれだけ安心したか。私は一人じゃない、ここにいる仲間が助けてくれる。
W・Mの仲間も、かつては敵だったB・Tの人たちも、今は悪魔を倒すために心をひとつにしていた。この世界を守るという目的はどちらも変わらない。
ありがとう、みんな――
「行くぜ!悪魔!!」
みんなは一斉に悪魔へと向かっていく。それぞれ使い慣れた武器を手に、必死にこの世界を守ろうと頑張っていた。
私も戦わないと。みんながあんなに頑張っているのに、私だけ休んでるわけにはいかない。だって私は、白月の姫だもの。
立ち上がろうとした私を、そっと制止した人がいた。一馬だ。
「一馬・・・」
「、お前は充分すぎるほど戦っただろ?」
「でも私が戦わないと・・・!!」
「俺達が時間を稼ぐ。その間に体力を回復しとけ。あの悪魔、最後にはが倒さなくちゃなんねぇんだから」
「でも、一馬の武器はもう・・・」
一馬の武器は私のブレスレットに吸収されてなくなってしまっている。どうやって戦おうっていうの?
「なめんなって。俺だってW・Sの使い手だったんだぜ?」
頬を少し赤く染めながらふっと笑う一馬。その手にはさっき砕けてしまったW・Sが握られていた。
一馬は石を強く握り締め、静かに手を開く。そこには一馬の武器である勾玉の姿があった。
「の代わりに俺達が戦ってくる。最後に悪魔を倒すのは、お前だ」
「うん、わかった」
「それまでしっかり見ててくれ。俺達の戦ってる姿・・・」
そう言い残して、一馬も戦いの中に紛れた。激しい戦いが繰り広げられている。みんなの戦っている姿を見つめながら、私は一人、残されたW・Sのかけらを拾い集めた。
頑張って、みんな。待っててね。私もすぐに駆けつけるから。
かけらを胸に抱いて目を閉じ、そっと祈りをこめる。すると白い光が私の身体を包み込んだ。
身体に受けた無数の傷が徐々に塞がっていく。暖かいその息吹を感じながら、私は神経を集中させた。
その間にもみんなは悪魔と懸命にたたかっている。私も早くあの中に入らなくちゃ。
私は白月の姫だもの。みんなにばっかり頼ってちゃだめ。せっかくたちがくれた時間、1秒たりとも無駄にはできない。一刻も早く、体力を回復させないと・・。
少しずつ、でも確実に傷は治っていった。白い膜に包まれながらそれがわかる。右肩の痛みもほとんどなくなっていった。
そして、ついに。私の身体はまた元のように戻った。いや、前よりも強くなっているような気がする。
白い膜はベールへと変わり、私の周りをふわふわと舞う。そんな私の姿を見て、みんなは戦うのを止めた。
「!傷が治ったんだな!」
「ありがとう、みんな・・・」
みんなの身体は傷だらけだった。中には酷い出血をしている人もいる。
もう、大丈夫だから。私が悪魔をこの世から消し去る。もう二度と、復活できないように。もう二度と、この世界に悲しみが溢れないように。
悪魔のほうもだいぶ体力を消耗しているようだった。よく見れば深い傷も負っている。息が切れ、立っているのもやっとの状態だった。
「くそぉ・・・どいつもこいつも私を裏切りおって・・!!」
憎しみに満ちたその声は、かすれている。
「裏切ったんじゃないよ」
私は静かにそう言った。だって元からB・Tたちだってこの世界の平和を願っていた。それはもしかしたらW・Mの仲間よりも切に。
だけどその伝え方がわからなかったんだ。だからB・Tに入った。
「最初からあなたの味方なんて、一人もいなかったのよ」
そう、最初から。悪魔はずっと一人だった。独りよがりで傲慢で、そんな奴に誰もついていきはしない。
「もう、終わりにしましょう。あなたは罪を重ねすぎた」
「私は絶対に死なない!この世界を支配するために、私は絶対に死ねんのだ・・・っ!!」
その哀れな姿に私は静かに目を閉じた。そして心の中で強く念じる。
私の周りに浮かんでいたベールが白く光り輝き、悪魔へと向かっていく。
「なんだ、これは!?」
悪魔の周りを舞うベール。そして私が口を開いた瞬間、そのベールは悪魔を葬り去る武器となる。
「さようなら、悪魔」
「うわぁあぁっぁああぁああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ベールは悪魔の身体を締め付け、大きな悲鳴を上げて徐々に消えていく。そして、完全に悪魔の姿は消え去った。
「倒した、のか・・?」
光宏が恐る恐る私に尋ねた。みんなの視線が私に集まっている。
私はゆっくり微笑んで頷いた。すると、その場にいた全員の口から歓喜の声が上がる。
空からは白い月が優しく北の廃墟を照らしていた。
榊が悪魔になるのは予想外だったが、これで白月の姫をあそこに留めることができた。もちろん、他の奴も。
このチャンスを逃すわけにはいかない。俺がどれほどの時間をかけてこれを生み出したか。あいつらは知る由もないだろう。
遠くで白月の姫と悪魔が戦っている音が聞こえる。それと同時に、この北の廃墟も揺れた。その衝撃にバランスを崩しながらも、俺はある場所へと向かった。
北の廃墟、地下室。ここには研究室と牢獄が備わっている。戦いの衝撃で落ちてくる天井の粉も気にせず、ある人物が閉じ込められている牢獄の前で足を止めた。
そいつはウェーブのかかった長い髪をたらしながらこちらを見ている。その顔には生気がなく、どんよりとした目が印象的だった。
「来い」
そう言って牢獄を空ける。一人で立つことができないその女を無理やり立たせて隣の研究室へと向かった。
目の前にあるのは赤いカプセル。もう幾度となく見てきたそれも、これから起こることを想像するととても神々しいものに見えた。
女をカプセルの中に入れると、とたんにもがき苦しみだす。それをじっと眺めていると、しばらくして女の意識は途絶えた。
黒いドレス、黒く波打った長髪、それでいて透き通るような白い肌。
さすがは白月の姫の母親だな。よく似てやがる。
もっとも、今ここにいるのはもはや人間じゃない。黒涙の君。
白月の姫を産んだ母親ならきっと黒涙の君の性質があると見た俺の考えは間違っていなかった。
「これで・・・これでやっと・・・!」
長い年月、ずっと祈り続けた願いが叶う。
せいぜい戦っていればいいさ。白月の姫。俺の行動を見ていなかったお前に落ち度がある。
どいつもこいつも何が世界平和だ。本来の目的忘れやがって。
俺は絶対に忘れねぇ。どんなことがあっても、たとえそれが裏切りであっても、俺は俺のなすべきことをやり遂げる。
材料はそろった。これでついにやることができる。
第二のDispar of nightmareを――


