どこか懐かしい感じがしたんだ。
でも、誰に聞いても気のせいだって片付けられちまって。
無理矢理押さえ込んでも、あいつの顔を思い出したら急に胸が苦しくなるんだ。
無性に会いたくなるんだ。
ホラ、またあいつのこと考えてる。
どうしちまったんだ、俺は…
+黒い涙と白い月+
赤い満月の光に照らされても、この廃墟はどこか冷たい雰囲気が漂っていた。
ここ廃墟にいる人間は、今日も至るところに腰をおろして静かなひとときを過ごしている。
ある一部を除いては…。
「やっぱり可愛かったよなァ〜! ちゃん!!」
「ホント!W・Mの奴等にはもったいないよね☆」
「あいつらは何を持っててももったいないよ」
「……」
結人、潤慶、英士、一馬の4人は の偵察(?)から帰ってきていらい、ずっとこの調子で騒ぎ続けていた。
もっとも、実際騒いでいたのは、結人と潤慶だけだったが。
「一馬!どうしたの? ちゃんに会ってから、ずっと元気ないよ?」
「え、いや…な、なんでもねぇよ」
「とか言っちゃって〜!! ちゃんに恋でもしたんじゃねーの?」
潤慶が一馬に聞くと、一馬はどもりながらもそう答えた。その答えに結人がニヤニヤしながら一馬のわき腹をつつく。
「バッ!!そんなんじゃねぇよ!!//////」
「一馬、顔真っ赤」
ゆでだこよろしく顔を赤く染めた一馬に英士が無機質な声でいった。その様子に他の二人のテンションはさらに上がっていく。
「やっぱりね〜!!一馬もすみにおけねーな!」
「だから!違うって///」
「そんなに赤くなりながら言っても、効果ないよぉ?」
「〜〜〜〜〜〜!!痛っ!!」
今まで赤くなっていた一馬が突然頭を押さえてうずくまった。その様子に他の3人も慌ててしゃがみこむ。
「一馬!どうしたの?」
「よ、くわかんねーけど…すっげー痛くなった」
あからさまに痛そうな顔をして、頭をさする。なにが起こったかすら理解していないような一馬に対して、英士は真剣な顔つきで他の二人に目配せをした。
「英士…」
結人が心配そうに言うと、潤慶も英士を見つめる。英士は大きく頷いたあと、残念そうに下を向いた。
「おい…どうかしたのか?」
先程とは対照的な3人のテンションに一馬はついていけずに戸惑った。
改めて3人をみていたが、相変わらず深刻な顔をするばかりで誰一人として口を開こうとしない。
「お前ら、この頭痛に心あたりあんのか?」
「……もしかしたら」
「もしかしたら?」(ゴクリ)
「結人が叩きすぎてとうとう神経が切れちゃったのかも」
「「「は?」」」
シリアスなムードが一転して、辺りに寒い空気が漂った。
「てめー!ユン!!なんでそーなるんだよ!」
「あは☆だって、ホントかもしれないでしょ〜?」
「んなわけあるか!!」
「マジで神経切れたのかな…どうしよ…」
「嘘に決まってるでしょ」
元の4人に戻ったが、一馬以外の3人は未だに昔のことを思い出していた。
一馬の身に起きた、あの悲しい昔話を――
「ちょっと!少しは静かにできないわけ!?」
突然聞こえてきた甲高い声に4人は一瞬にして黙りこくった。
振り向くとそこには整った顔を歪めて仁王立ちしている翼の姿がある。
「し、椎名;」
「興味本意で偵察に行ったお前等とは違って、僕は能力調査の仕事終えて帰ってきたんだよ?お前等に少しでも思いやりの気持ちってもんがあったら、僕が帰ってきたら静寂を尊ぶくらいの配慮はして当然だろ!それなのにギャースカギャースカ!!お前等、何年生きてるの!?やだね〜無駄に年だけとって中身は全然成長しない奴って!!どうせなら、須釜にいってその皺のない脳みそ、治癒してもらったら!?」
廃墟の温度が氷点下に達したと同時に、一馬の結人が灰と化す。
「あ〜あ。固まっちゃいましたね〜」
翼の腕を治療していた須釜がのほほんと言うと、翼が不機嫌そうにそっぽを向いた。
「お〜い。一馬〜結人〜生きてる?」
「だめでしょ」
完全にフリーズしてしまった二人をつつきながら、潤慶と英士が言う。結人のほうはまだなんとかなるにしても、ナイーブな一馬にとって翼のマシンガントークは致命傷だった。
「この程度で固まるくらいじゃ、たかが知れてるよ」
「結人君はともかく、一馬くんはナイーブですからね〜。はい、終了です」
柾輝との戦いで負った怪我を治療してもらって、翼はくるくる腕を回し感触を確かめる。
「にしてもざまーねぇな。すごすご逃げ帰ってくるなんて」
「ふん!接触もしないで引き下がってきたやつには言われたくないけどね」
三上が柵に腰掛けながら言うと、翼は不敵な笑みを浮かべて言い返す。
また始まったよと周りがため息をついた頃、ようやく倒れていた二人が回復した。
「うわっと!!そんじゃ、そろそろ俺らも本気出すか!」
大きく伸びをしながら結人が言う。一馬も一応戻ってきたが意識はまだ半分フリーズ状態だ。
「ちょっと、またW・Mのとこに行く気なの?あそこの雰囲気嫌いなんだけど」
「確かにヤだよね。うざったいし」
英士と潤慶がしかめっ面でいうと、結人ははぁ〜と大げさにため息をついてみせた。
「わかってねーな!二人とも!!別にわざわざこっちから出向かなくてもいいんだって!」
「どういう意味だ?」
やっとこさフリーズ状態から立ち直った一馬が聞く。
「ようは、おびき寄せるってことでしょ。結人」
「さっすがは英士!!へたれかじゅま君とは違うな!」
「結人!かじゅまっていうな!!」
「はいはい。で、どうするつもり?」
「なんか作戦でもあるの?」
親友3人からの質問に、結人は「まぁ、見てなって」と笑う。
その笑顔はまるで悪戯っ子のようなあどけなさがあった。
本部管理室を出てから、 と私は能力鑑定室へと向かった。
昭栄と光宏は一緒だけど有紀はすぐ、仕事の呼び出しがかかったので行ってしまった。
なんでもW・Mはいくつかのグループに分かれているそうで、有紀や昭栄達は『戦闘』という部署に属している。
かく言う私達も恐らくその部署に配属されるみたいだけど。
「 ちゃん、 ちゃん。着いたと」
昭栄が立ち止まったドアの前には『能力鑑定室』と書いてあった。まだ心の準備もできていないうちに、早々と光宏がドアをノックする。
「ちょ、ちょっと;」
「え?どうかしたか?」
「まだ心の準備が―」
「は〜い」
私と が冷や汗を掻いているうちに、言葉をさえぎって可愛らしい声が聞こえてきた。
がちゃっとドアが開いた先には、大きな目をした小さい男の子が立っていた。
「あっ!日生君!高山君!待ってたんですよ」
男の子は太陽のような笑顔を向け、二人に挨拶する。光宏と昭栄もそれによっ!と片手を上げた。
「準備はできてますから、どうぞ入ってください!」
そういう男の子にならって、私達もぞろぞろと部屋の中に入っていった。
能力鑑定というからには、大きな機械がたくさんあったり、研究機材なんかでごたごたしてるイメージがあったけど、部屋の中は思ったより片付いていて、すっきりしていた。
「今お茶入れますから、適当に座っててください」
にこやかに言われ、私達は近くにあったソファに腰掛ける。学校の校長室にありそうなこのソファはふかふかしていて、とても気持ち良かった。
お待たせしましたといって、男の子が帰ってきた。私達の向かい側に座るとカチャカチャお茶を入れる。
「日生君、こちらが さんと さん?」
一緒に出されたケーキに夢中で周りが見えてない昭栄に変わって、男の子は光宏に顔を向けた。
「ああ。こっちが白月の姫、 で隣りが の親友、 だ。 、 。こいつが能力鑑定担当の風祭将」
「初めまして!!」
丁寧に頭を下げられ、慌てて私達もぺこっとお辞儀をする。
「風祭、こいつら鑑定ってきいてちょっと緊張してるから、お手柔らかにな」
「!!光宏//」
ドアの前で緊張していたことをあっさり伝えられ、少し赤くなる。そんなこと言わなくても良いじゃない!
「大丈夫ですよ!検査といっても簡単なものばかりですから。心配しないで下さい」
風祭君はそういって、ニコッと微笑んだ。あ〜なんか癒される。
「そいじゃ、俺達は行くぜ。風祭、あとよろしくな」
「了解!」
「ホラ、昭栄!!行くぞ!」
「え!?もう!?まだモンブランが残ってると!!」
「いーから!!早く!!」
昭栄の首を引っつかんで出て行こうとする光宏を、私達は慌てて止めた。
「えっ!行っちゃうの!?」
「どーすんのよ!これから!」
必死な私達に対して、光宏はケロっとしていった。
「大丈夫だって。悪いようにはされねーから。終わったらまた迎えにくるよ」
「 ちゃん、 ちゃん!がんばるたい!!」
じゃーなと手を振って二人はあっさり出ていった。大丈夫ったって…初めてのところに置き去りなんて心細いじゃん!!(涙)
呆然としている私達に、風祭君が困ったような笑みを浮かべながら話しかける。
「あのー…だ、大丈夫!すぐ済みますから!」
光宏たちへのダークオーラが出ていた私達をなだめるように、風祭君は続けた。
「実は、他人の能力鑑定には能力鑑定士以外付き添っちゃいけないっていう決まりなんです;」
「え?なんで?」
一瞬にしてダークオーラが消えた に戸惑いながらも懸命に話す風祭君。
「能力鑑定中の力はとても不安定なんです。だから近くに同じ能力者がいるとうまく鑑定ができなかったり、力が暴走しちゃう可能性があるんです。特に、力の強いもの同士ならなおさら」
「風祭君たちは大丈夫なの?」
「はい!僕達は特別な訓練を受けているので、力が暴走する心配もないですし。鑑定中は別室にいるから平気です」
そうだったのか。ダークオーラを向けた光宏達にちょっと罪悪感。このことは黙っておこう。
「それじゃあ早速始めますね。まず さんからやるので さんは別室で待っててください」
「わかった」
近くにあった木製のドアには、汚い字で『別室』と書いてあった。オイオイυ
そんなにアバウトっていうか…そういうところだったっけ?W・Mは・・
まぁ、いいや。とりあえず中に入っていようと、ドアを空ける。
すると、中にいたのは
「よぉ。また会ったな!」
男口調の有紀だった。
誰もいないと思っていた部屋に、戦闘へ行ったと思っていた有紀が爽やかな笑顔で座っている。
しかも、めっちゃ男っぽい;どうしたことか…
「な、ななななななんでゆ、有紀が・・?」
驚きのあまりとてつもなくどもりながら言うと、有紀はまた笑った。
「はは!思った通りの反応!おもしろい!」
有紀は一通り笑ったあと、膝に手をついて立ちあがった。
「………ああああああああああああ!!!!」
バリバリと音を立てて有紀が立ちあがると、そこにいたのは茶髪の少年。
おもいっきり指を指しながら私は口をパクパクさせていた。その姿がおもしろかったのか、少年…たしか、若菜結人…だったけ?は再び笑い始めた。
「あははっは!すっごい驚きようだな!これが俺の能力。一回でも見たことのある人間に変化できるんだよ。W・Mの奴に化ければ、簡単に忍びこめるしな」
あぁそうですかと簡単に納得できるわけもなく、私の口はまだ開いたまま。それに対して目の前の結人は、綺麗な顔に笑顔を浮かべている。
にしても、なんでいきなりこんなところまで来たのか。顔見せならこの前済んだはずだし、戦うにしても結人以外に誰かいる気配もない。
ということは…
「もしかして…誘拐、とかじゃないですよね?」
なーんて、そんなことあるわけないよね。仮にも白月の姫(あんまり自覚無いけど)に1人で誘拐しに来るなんて。
でも、人間嫌な予感っていうのはほぼ100%当たってしまうらしい。
「え?そうだけど?よくわかったな!」
ほらね。結人は両手を頭の後ろで組んでへらっと言った。
なぜ商店街のスクラッチでも当たったことない私がこういう予感はぴたっと当たっちゃうんだろう;;
「やっぱこっちから出向いてばっかじゃ、バランス悪いだろ?だから、今度はそっちから仕掛けてきてもらおうとおもって。あっ!でも、俺が ちゃんを誘拐した時点でこっちから仕掛けてることになるのかう〜ん…ま!いっかv」
そう言うが早いか、結人は依然ドアの前にいた私をいとも簡単に抱え上げた。
「え!?ちょっと!おろしてよ!!」
「だめv」
結人は肩の上で暴れまわる私を片手で押さえつけ、まるで木こりに運ばれる枝のごとくそのまま窓の外へとダイブした。
仮にも女の子なんだから、もっと優しく扱ってよ!ってそうじゃなくて(涙)!!
「きゃーーー!!」
「大丈夫だって」
「だ、だってここ4F!!死ぬぅ〜〜〜〜!!」
下を見れば見渡すかぎり瓦礫の山…あぁ、こんなところで終わるのか。私の人生(涙)
いよいよ地面にぶつかるというところで、私はぎゅっと目を瞑った。が、聞こえてきたのは衝撃音ではなく、いつか聞いたバリバリという奇妙な音だった。
「……バリバリ?」
「な?大丈夫だったろ?」
はぁ…助かった…って誰!?
あきらかに結人のものじゃない声に、私は再び声を荒げた。
「おい、あんまり暴れんなよ。こいつ、見たことない?」
重力にしたがって首を振る。
「そっか。こいつは小岩鉄平。飛行っていう能力を使う奴。ちなみにW・Mだよ」
開いた方の手で自分を指す小岩くん…いや、中身は結人だけど、あれ?ややこしい;
空から見るこっちの世界はとても広かったけど、やっぱり荒れ果てていた。
昔そうとうな事があったんだなぁと思いつつ、私は自分の置かれている状況を理解していた。
、14歳。生まれて初めて誘拐されました;;
助けてぇ〜〜〜〜!!(泣)
「 さーん。終わりました…ってあれ?」
「どうしたの?風祭君」
「 さんがいないみたいなんです」
「うそ?ホントにあの子どこ行っちゃったんだか…ん?なんだろ、これ」
「なになに?白月の姫は預かった、返して欲しければ北の廃墟まで来い…」
………………!!!!!!
「「誘拐!?」」


